2011年5月22日日曜日

公共事業、事前協議500回

暫く前に日経の書評で取り上げられていた
片野優著 『ここが違う、ヨーロッパの交通政策』 白水社

「車中心では駄目だ」と本気で動き始めている
EU各国各都市の政策を紹介している。

自転車、路面電車、低公害車に、
交通システムの再設計。
他国の先進的な事例は読んでいて痛快だ。

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特に目を引いたのが、ストラスブールの
路面電車導入に纏わる話。



今でこそ環境意識の高い都市として有名だが、
導入前は市民の反発が強かったらしい。
しかもストライキ好きの国民性。
強引に推し進めても後が怖い。

そこで出てくるのが事前協議と公的審査。
路面電車に限らず公的事業は何でも
この二段階を踏まないと動かせないという。

1. 事前協議

・ 計画の詳細をパネル展示やパンフレット配布で告知
・ アンケート調査や市民との協議会で原案を修正

この協議会というのが、路面電車導入の時には
5年間で500回も開いたというから凄い。
これで反対派市民の8割が賛成に回ったそうだ。

2. 公的審査

・ 審査の実施を市内至る所でポスター告知

・ 市庁舎で計画図面や環境影響調査の結果を公開
その場で自由に意見も記帳できる

・ 審査員は市民から立候補を募り、行政裁判所が
その中からできるだけ中立な人物を選出

・ 審査は単純な賛成/反対に限らず
条件付き賛成というのもあり

・ 審査結果に基づき議会が決定
審査結果に法的拘束力は無いが
従わない場合は差し止めも可能

実際には自分の生活が忙しくて関われない人が
多いだろうが、それでもこんなにも関門が多い。

で、長い協議の末に実現した路面電車は
街に名声を齎し、都市環境は改善。

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翻って日本。

まあ、計画は事前に説明している。
民間の委員も入れて是非を問うている。

だが、告知に掛ける労力が全然足りない。
協議会の回数も全然少ない。
民間からの委員は形だけで、
間違っても反対派は入れない。

住民に計画の存在が知れ渡る前にひっそりと進み、
いつの間にか決まっている。

市政に関心を持たない市民も問題なんだけど。

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ちなみに自分の地元の自治体は
放置自転車対策では全国一の悪評が立っている。
実効性の有る根本的な解決策を示さず、
毎日トラックに積んで回収していくだけの無能っぷり。

回収された自転車を取り戻すのに必要な
手数料の額を聞いて怒りをぶちまける人もいるが、
制度は微塵も動かない。