2018年10月24日水曜日

都道123号・天文台通りの自転車レーン




オリンピック関連事業の「自転車推奨ルート」として整備されながら、あまり利用率の高くない都道123号の自転車レーン。失敗の原因は、
  • 大型車の通行が多い割に自転車レーンの幅が狭い
  • 交差点の周辺で途絶し、混在通行に切り替わる
  • 歩行者が少ないので歩道の方がスムーズに安心して通行できる
の3点でしょう。歩道を上回るメリットを自転車利用者に提供できていません。



南側の起点、西調布駅北口ロータリー


駅前から甲州街道方面に延びる道路

撮影時刻は朝の通勤時間帯ですが、画面奥から手前(駅)に向かって来る自転車はあまり見かけませんでした。一つ隣の調布駅(全列車の停車駅)まで漕ぐ人が多いのかもしれません。画面左手に自転車が写っていますが、ここから右手(東)へそのまま進むと、線路沿いに細い生活道路を経由して調布駅まで、車とほとんど交錯せずに移動できます。


西調布駅から調布駅までの裏道ルート(地図URL


月曜朝7:30の交通状況。線路沿いの裏道には交通状況を表す線が無い。


StravaのHeatmapでも自転車交通が確認できる(点滅加工は引用者)


駅前ロータリーから国道20号(上石原交差点)までは矢羽根のみ

矢羽根の標準寸法は、国土交通省と警察庁の現行ガイドラインでは幅0.75mとされています(p.Ⅱ-5–Ⅱ-7, pdf p.43–45)。これは木村ら(2015)の実験結果を受けたものと思われますが、実験が行なわれた構内道路の車線幅は2.95mとかなり狭く、しかも対向車の有無が不明で、現実の典型的な道路環境を再現した実験とは言えません。

矢羽根の幅が大きければそれに応じて車の通行位置や自転車追い越し時の側方間隔も変化すると考えられますが、ガイドラインは限定的な環境での実験結果をそのまま標準幅にしてしまっています。なお、矢羽根と機能が似ているアメリカのsharrowは標準幅が40インチ(約1.02m)とされています(FHWA, 2017)。
  • 木村泰 et al. (2015) ‘走行実験を通じた矢羽根型路面表示の寸法・設置間隔に関する一考察’, in 土木計画学研究・講演集. 土木学会.
  • FHWA (2017) Figure 9C-9 Long Description, MUTCD 2009 Edition. Available at: https://mutcd.fhwa.dot.gov/htm/2009/part9/fig9c_09_longdesc.htm (Accessed: 24 September 2018).


周囲に車がいない状況での自転車の通行位置

私も同じ状況なら矢羽根の上ではなく右横を通行しますね。沿道や脇道からの車、自転車、歩行者の飛び出しに備えて安全マージンを確保したいからです。矢羽根の塗膜が分厚くて乗り心地が悪い場合がある(*)という理由もあります。

* この道路の矢羽根はそれほど凸凹していなかったので、塗膜は薄いようです。


旧甲州街道を通過して振り返った図。路上駐車が発生している。

自転車利用者にとっての通行空間のサービスレベル(*)を考えたとき、路上駐車に進路を塞がれることは(特に交通の激しい幹線道路では)大きな減点要因になりますが、矢羽根はその問題に対して無力です。

同じく幹線道路に矢羽根を設置した山梨県甲府市の国道52号では、車道左側通行率の変化は僅か5ポイントの上昇(27.7%→32.8%)で誤差範囲。路上駐車に塞がれる問題も発生しています。しかし整備主体の国道事務所(百瀬, 2017)は、
現在のところ、逆走や矢羽根型路面表示の上を走行しない自転車、路肩(矢羽根型路面表示の上)に駐車している車両の存在という問題がある。また、経年劣化により表示が薄くなることや、ポットホール等の発生により部分的に剥離してしまうことも今後想定される。これらについて検討を行っていくことが今後の課題(前者については、適切な利用を促す広報活動を追加で行うかの検討、後者についいては[原文ママ]、効率的・経済的な補修方法の検討)と考える。
と、あたかも矢羽根が適切な整備手法であるかのような前提で議論しています。より根本的な課題は、国の指針を正しいものとして鵜呑みにするこのような道路管理者の認識を正すことでしょう。幹線道路に矢羽根を設置するという選択をした時点で、問題に対して匙を投げたも同然なのです。

* 車にとってのサービスレベルは普通、渋滞に巻き込まれずスイスイ走れるかどうかを指しますが、自転車にとっては何よりまず身の安全が感じられるかどうかという、より原初的な次元の問題を指します。

百瀬 繁利 (2017) ‘国道52号矢羽根型路面表示の施工について’, in. 平成29年度スキルアップセミナー関東, 国土交通省 関東地方整備局. Available at: http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000676464.pdf (Accessed: 24 October 2018).


甲州街道との交差点の流入部


甲州街道との交差点の流出部から80mほど矢羽根が続く

反対車線にも矢羽根がありますが信号待ちの長い車列で塞がりがちです。自転車にとってわざわざ矢羽根に従って車の渋滞に嵌るメリットがありません。歩道を通行した方がスムーズに移動できます。


ここから自転車レーン(地図URL




自転車レーンの幅は0.9m弱(白い破線の幅を0.15mと仮定した場合)

街渠のエプロン部も含めれば一応は自転車レーンの最低幅の基準は満たしていますが、バスが横スレスレを走るので、決して安心感の高い空間とは言えません。


始端から約300mで早くも自転車レーン打ち切り(地図URL



バス停のすぐ先の左手に味の素スタジアムのバス・タクシー駐車場入り口があり、入場する車のための待機車線が車道中央に確保されているため、自転車レーンの設置余裕がしばらく無くなります。

逆に言えば、付加車線のない区間も(大して路上駐車需要がないのに)広幅員で整備していたため、単路だけは自転車レーンの設置余裕が生まれたということですが。


次のバス停で自転車レーンが復活(地図URL


おや? 破線を消した跡が。

StreetViewで見ると、2009年時点では自転車レーンも破線もない広幅員2車線道路で、2014年には停車帯らしき空間が白線で区切られています。これを2018年に自転車レーンに転換する際、破線も同時に設置したようですが、その位置が破線幅の半分だけ縁石寄りに修正されています。


自転車レーンは調布飛行場入口交差点で再び打ち切り(地図URL


丁字路の横画上側に相当する反対車線側も自転車レーンではなく矢羽根


そのまま次の交差点まで矢羽根が続く


整備区間の北端、大沢コミュニティーセンター前交差点


これまで走ってきた方向を振り返っています。

この交差点から先はもう矢羽根も何も見当たらなかったので、折り返して元来た道に戻ります。


折り返して元来た道へ

反対車線にバスが止まっており、それを追い越す後続車が中央線を跨いでいます。


はみ出す対向車を避けてこちら側の車線の車が自転車レーンに侵入していた

自転車利用者にとってレーンに突然侵入してくる車は予想しにくいですし、ドライバーも対向車に注意が向かいがちで自転車を見落としやすくなると考えられます。船堀街道でも似た場面に遭遇しました。

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船堀街道の自転車レーン


都道123号では以上の他、JR中央線の北側にも190mほど自転車レーンが整備されています。

中央線の高架下から北に延びる自転車レーン(地図URL