2019年5月16日木曜日

「東京は道路が狭いから自転車道を作れない」駒沢通り編



HDDを漁っていたらちょうどいい写真が出てきたので作りました(使用フォント:廻想体)。新旧の山手通りを繋ぐ中目黒の駒沢通りです(場所:@35.6446276,139.7013977)。



英語版も作りました(使用フォント:DIN Condensed)




自転車レーンで充分なのか?

(塗りつぶし色:73a3e6、レイヤー合成モード:オーバーレイ)

「自転車道を整備しなくても自転車レーンをペイントするだけで良い」と思う人もいるでしょうが(今年改正された道路構造令もそれを標準設計として示していますが)、それではダメです。

確かにアメリカではこのレイアウトが1976年版の設計指針で推奨され、以後広く普及しました。カナダでも一般的なレーン形態です。

Caswell, Marc. 2015. “America Could Have Been Building Protected Bike Lanes for the Last 40 Years.” Streetsblog USA (blog). June 30, 2015. https://usa.streetsblog.org/2015/06/30/america-could-have-been-building-protected-bike-lanes-for-the-last-40-years/.

多発する事故の反省

しかしアメリカやカナダでは路駐車両のドアが突然開いて弾かれたり、右隣のレーン隣の通行帯に転倒して後続車に轢かれる事故が、類型別の事故統計で上位3位に入るほど多発しており、死者、重傷者も出ています。

“Dooring Statistics and Measurement Issues.” n.d. Dutch Reach Project (blog). Accessed May 16, 2019. https://www.dutchreach.org/dooring-problem-prevalence/.



駐車帯に出入りする車との事故も起こっており、2013年にはアムステルダムで7歳の女の子が轢かれて死亡しました。

Hunter, William W., Jane C. Stutts, Wayne E. Pein, and Chante L. Cox. 1996. “Pedestrian and Bicycle Crash Types of the Early 1990s.” Research Report FHWA-RD-95-163. p.108. http://www.pedbikeinfo.org/cms/downloads/PedBikeCrashTypes.pdf.
Heijerman, Christiaan. 2013. “De Pijp rouwt om doodgereden meisje (7) - Amsterdam - PAROOL.” Het Parool. December 7, 2013. https://www.parool.nl/amsterdam/de-pijp-rouwt-om-doodgereden-meisje-7~a3558259/.


こうした経験から、幹線道路におけるこのタイプの自転車レーンはオランダでは設計指針で強く否定されており、過去に整備されたレーンも各地で自転車道に改修されつつあります。国土交通省は実に43年遅れで、既に危険であることが分かっているデザインを道路構造令に盛り込んだわけです。

Rik de Groot, Herwijnen, ed. 2017. Design Manual for Bicycle Traffic. Record 28. Amersfoort: CROW. p.110
Wagenbuur, Mark. 2014. “Before and After in Eindhoven.” BICYCLE DUTCH (blog). April 23, 2014. https://bicycledutch.wordpress.com/2014/04/24/before-and-after-in-eindhoven/.


誰のためのインフラ整備か

事故リスク以前に、このような自転車レーンでは女性や子供、老人も含めた誰もが安心できる自転車通行空間とは言えません。写真の場所は上り坂で自転車とクルマの速度差が開きやすく、規制速度も50km/hと高い幹線道路です。もっと確実な防護が必要です。

自転車インフラの整備が社会的に意義を発揮するのは、現状の道路環境に不安を感じて歩道を走っている自転車利用者や、事故の懸念から自転車以外の移動手段を選んでいる人という最も大きなセグメントの行動を変えることができた時です。インフラが未整備でも車道を走れている少数の人々を主な対象ユーザーとして想定するのは不合理です。


変化を拒む東京、進化するロンドン他

東京は道が狭いと言っても全部が全部狭いわけではなく、主だった都道、国道には自転車道を整備する余地があります。「狭いから無理」という言い訳は、発する側も受け取る側も一度疑うべきです。

私は「道路が狭いから」画像を2015年にも作っていましたが、東京ではその後、今に至るまでほとんどの幹線道路が手付かずのままで、自転車インフラとは言えない単なるピクトグラムばかりが猛烈な勢いで増えました。いくつかの路線では自転車レーンも整備されましたが、大抵は路上駐車に塞がれています。歩道上の自転車通行空間は段差と屈曲と途切れで快適には走れません。

一方、ニューヨークやロンドンやパリでは前掲のイメージ図のような自転車道が現実に作られ始めています。テムズ川沿いのEast-West Cycle Superhighwayが好例です。


ロードバイクでの高速走行にも対応している。動画ではBlackfriarsからビッグベン手前までの1.9kmを3分28秒(平均速度32.8km/h)で走行している。

こうしたインフラ投資は、あらゆる立場の人にとってより安全で豊かな社会を作り、都市の持続的な成長に繋げる狙いで行なわれています。都市にとって何が必要かを根本から問い直した上での戦略的な投資です。

駐車帯で守られた自転車レーン、parking-protected bike laneを全米でいち早く実現させたニューヨーク市交通局長(当時)のJanette Sadik-Khan氏が次のインタビュー動画で説明しています。



それを東京は怠っています。

車道を走る自転車は危険に晒され続け、
歩道を走る自転車が歩行者の脅威であり続け、
自転車通勤の危険なイメージから電車の混雑が緩和せず、
クルマ最優先の道路整備で貴重な空間を浪費し、
都市の魅力と成長力の向上を妨げています。

東京の道路は狭くない。自転車道は作れる。