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登山前日の仮眠場所「花の湯」に到着したツアーバス |
去年夏に「ほぼ全員が帰りのバスに間に合わず脱落する」と噂の富士登山ツアーに参加しました。噂は真実でしたが、私は余裕を持って登頂・下山し、バスにも間に合いました。事前に練った攻略法と、参加して気づいた点をまとめます。
記事の写真は富士フイルム X-A7 + XC15-45mmで撮影しました。
1. 動機ときっかけ
富士山は今まで山麓一周サイクリング(フジイチ)を数回していて、直近の2023年はちょっと足を伸ばしてスカイライン五合目まで登りました。
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フジイチ中に立ち寄った富士宮口五合目 |
すると気になるのがこの先。いつかはこの続きを歩きたいと思っていました。
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富士宮口の標高2400m看板 |
その後、交通機関や山小屋の情報収集をしましたが、あまりにも多い変数に圧倒され、行程を組み立てられません。2024年の開山期間も中盤に差し掛かり、初めての富士登山ならツアーに頼ってしまった方が良いのではと調べ方を変えてみたところ、興味深いツイートに行き当たりました。
— tomo🍌 (@jkXXu5EKOcLULVS) August 2, 2024
私のいった富士山ツアーはバスの行き帰りだけであとは自由なんです。
それで驚いたのは帰りのバスの時間に間に合ったのは私だけ
残り全員が間に合わずタクシー自腹です。
スタッフに聞いたら、よくあることだそうです。
富士山の客はすごいです
信じられないほど安い代わりに難易度も高い。実に挑戦心をくすぐるツアーです。 スレッドでのヒントを頼りに探すと似た内容の商品を発見。
サンシャインツアー「夜発2日間たっぷり1日満喫富士登山 富士宮/プリンスルートフリー登山」
山小屋に宿泊するのが定石のところ、東京を夜に出発して麓の温泉施設で仮眠、朝から登り始めて登頂を目指し、夜には東京に戻ってくる内容です。3連休がなくても参加できますし、幸い予約の空きもまだまだありました。これなら行けそうです。
2. 計画
目標が明確になったことで、準備することも具体的にイメージできるようになりましたが、残りの開山期間や予行演習も考えるとあまり余裕がありません。大急ぎで調べました。
2.1. 情報収集
主に参考にしたのは「富士登山の服装・持ち物・装備の初心者向け準備ガイド」。各装備品が具体的にどう役立つのか、経験に裏打ちされた解説が充実しています。
装備品は基本的にこのサイトのリストに準拠しました。消費カロリーも予測式を参考に2200kcalと推測。これに合わせてカロリーメイトや一口羊羹の携行数を決定しました(のちに過剰と判明。下山後にしっかり食べれば良いので)。
代替移動手段
帰りのツアーバス(18:00発)を逃した時のために夏の登山シーズン限定の路線バスの運賃と時刻も調べました。
- 富士急シティバス(8月19日から9月1日)
- 御殿場線の裾野駅まで 2630円 15:30発、17:04着
- 東海道線の三島駅まで 2840円 15:30発、17:20着
- 富士急静岡バス(7月10日から)
- 身延線の富士宮駅まで 2330円 9, 10, 13, 15, 18, 19時ちょうど発、所要1時間17分
- 新幹線の新富士駅まで 2740円 9, 10, 13, 15, 18, 19時ちょうど発、所要1時間47分
最終の富士宮・新富士行き19:00発に乗れれば富士宮からの普通列車でも深夜には東京に帰って来れます。ただ、JR東海とJR東日本のエリアを跨ぐ移動なので、SUICAではなく紙の切符を買う必要があります。
2025年6月11日追記{
今夏の時刻表が公開されていました。
- 富士急シティバス https://www.fujikyucitybus.com/highwaybus/fugaku_liner.html
- 富士急静岡バス https://www.shizuokabus.co.jp/2025/06/01/12807/
}
2.2. 登山時刻表の作成
今回のツアーでは登頂ではなく、帰りのバスに間に合うよう下山することを最優先ミッションとしました。
そこで、引き返すタイミングを正確に判断できるよう「登山時刻表」を自作しました。山と渓谷オンラインのヤマタイムで求めたコースタイムをスプレッドシートに転記したものです。各地点に着くたび現在時刻をこの表に照らせば、進むか撤退するかを即座に判断できます。
寝不足や高山病、疲労などで判断力は間違いなく低下するので、あらかじめ思考回路を外部化しておく作戦です。
例えば剣ヶ峰登頂を目指す場合、高度順応は30分間で切り上げ、かつコースタイムの0.9倍で行動し続ければ良いことが分かります。
3. 予行演習
今までは低山しか登らずスニーカーで済ませていましたが、これを機にハイキングシューズを購入。靴の慣らしと脚力把握のため事前に2回、高尾山周辺を登りました。
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大定番のキャラバン C1_02S (26.5cm)。実測重量は左右合計で1223g |
演習で高尾周辺を標準コースタイムの0.9倍以下の所要時間で歩ければ、本番の富士登山でも剣ヶ峰まで往復して帰りのバスに間に合うと期待できます。
1回目(本番2週間前)
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高尾山と違って閑散とした東高尾山稜(四辻) |
山の日に実施した1回目演習は高尾駅から草戸山までの東高尾山稜を往復する13km。八王子市の最高気温は35℃にも達し、ハイドレーション・ブラダーに入れた自家製スポーツドリンク1Lは往路で飲み尽くしてしまいました(これを踏まえて本番では2L携行しましたが、低山の高尾と違って富士山は気温が低いので消費量が減り、余ってしまいました)。
全行程を終えての所要時間は標準コースタイムよりやや遅い結果に。久々の本格的な登山だったので写真撮影に立ち止まることが多かったのも一因ですが、速度向上のためにトレッキングポールを追加購入しました。
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Dabadaのトレッキングポール。実測重量はペアで417.5g。 |
付属品のペア重量
- バスケット 14.4g
- トレッキング用キャップ 28.0g
- ウォーキング用キャップ 73.5g
2回目(本番1週間前)
翌週は高尾駅から草戸山、大垂水峠と回り、蛇滝から北麓に降りて高尾駅に戻ってくる24km。富士山登頂(富士宮口五合目から剣ヶ峰までの往復)と同等以上の負荷(コース定数)になるよう組んだコースです。
トレッキングポールの効果は絶大で、緩い登りなら街中と同じような速度で歩け、休憩込みでもコースタイムより速い結果となりました。これで富士山登頂の可能性が見えてきました。
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下山後に偶然見かけて立ち寄った盆踊り(西浅川児童遊園) |
4. ツアー申し込み
2回目の予行演習後、1週間先の土日の日程でツアーを予約しました。山小屋泊がないツアーの性質上、比較的近い日まで空きが残っていましたが、モタモタしていると機会を逃して翌年になりかねません。
ただ、この時点での天気予報は登山当日が降水確率60%で、しかも雷雨。週半ばには予報の数字が80%に跳ね上がり、気が気ではありませんでした。
5. ツアー1日目
5.1. 新宿駅から集合場所まで
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工事中の新宿駅西口ロータリー |
バスの発車時刻は21:30ですが、余裕を見て20:40に新宿入り。改札を出てからの動線が大規模工事で変わっているのに戸惑いつつロータリーに出るとあいにくの小雨模様で、カメラを構えていると雨粒が付着します。
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地下歩道 |
都庁までの長い地下通路を抜ける頃には雨は上がっていました。
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新宿の集合場所、議事堂通り高架下の大型バス駐車場 |
地下駐車場は入り口が地味な上、ツアーの地図上で集合場所とされる位置には駐輪場しかないので戸惑いますが、奥へ進むと…
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空の駐車枠 |
バスもツアー係員も他の参加者らしき人もいません。本当にここかと不安になりますが、しばらくすると、
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ツアーの案内図とは異なる実際の集合場所 |
集合時刻の15分ほど前に蛍光色のビブスを来たツアー係員らしき人の姿が。名前を伝えてバス乗車券、入浴券、食事券などを受け取る方式でした。
5.2. 集合場所付近のトイレ
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閉庁時のトイレ案内板 |
土曜夜に使える最寄りの公衆トイレは集合場所から250mほどの、都民広場地下レストラン街の中央にあります。案内図では庁舎の左に男子トイレ、右に女子トイレがあるように描かれていますが、実際は図のほぼ中央の位置にあり、どちらから行っても大差ありません。
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高額予算で話題になったプロジェクション・マッピング |
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眺める人々 |
5.3. 乗車
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駐車場に到着するバス(21:11) |
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リュックを貨物室に積み込む運転士(21:16) |
バスの目印は「フジサミット」だとツアーページに書かれていましたが、その文字はちょうど窓上部の青色シェードで隠れる位置にあり、車体に近づいて凝視しないと分かりづらいです。
号車表示の右隣の紙には「フジサミット」の他にも「サンシャインツアー」「RADO観光」「vip tour」などのロゴも。複数のツアー会社でバスを共有して乗車率を高める工夫はツイッターで読んでいた通りです。
5.4. 移動
参加者の遅刻の影響で定刻を少し過ぎて発車。バスは大橋ジャンクション経由で東名高速に乗り、ザンザン降りの雨の中を快調に飛ばしていきます。麓の「花の湯」まで2時間を切るタイムだったので途中のトイレ休憩はありませんでした。
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ツアーバスの移動ログ(新宿→花の湯) |
格安ツアーということで心配していた運転ですが、基本的にふんわりブレーキ、滑らかハンドルで快適でした。ただ、
- 高速道路で前の車との車間距離がやや短め(車間時間で2秒未満)
- ETCゲートに20km/hを大幅超過して突入
- 一般道で青信号に変わる前にジリジリ動き始める
など、悪い慣れの傾向も見られました。
座席はリクライニングの仕方が分からず背もたれを立てたまま乗り通しましたが、脚に無理が掛かったようで、ツアー終了後から歩くたびにふくらはぎがピキーンと攣るような痛みが現れ、登山から1ヶ月以上も症状が残りました。
5.5. 花の湯到着
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花の湯前の駐車場(23:29) |
花の湯には予定より2時間も早く到着。富士宮ルートの私はここで朝まで仮眠ですが、車内の大半は吉田ルートの参加者で、彼らは2時間ほどの滞在ですぐ出発というハードスケジュールでした。
玄関の下駄箱は最下段が登山靴対応のサイズ。靴を脱いで上がると廊下の脇にレンタル山道具が用意された部屋。ただの温泉施設ではない、富士登山との強い結び付きが感じられます。
入館手続きのようなものが必要なのかと思ってフロントに向かうと、入浴しないなら特に必要ないとのこと。あとは2階の仮眠場所に向かうだけです。
5.6. コインロッカーの料金
先に1階ゲームコーナー脇のコインロッカーを覗いておきました。花の湯公式サイトにもツアー説明ページにも詳細な料金情報が載っていなかったので、現地調査です。
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各種サイズのコインロッカー |
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縦横寸法に応じて異なる料金 |
扉寸法、料金、設置枠数は以下の通りで、全て100円硬貨のみ対応でした。
- 40×40cm 400円 40枠
- 40×60cm 500円 30枠
- 40×80cm 600円 20枠
- 60×60cm 600円 9枠
- 60×100cm 700円 6枠
5.7. 仮眠環境
ツアー1日目の最大の懸念が、果たしてしっかり睡眠が取れるのか、それ以前に睡眠場所は確保できるのか、でした。
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深夜になり照明が半分落とされた休憩室(01:38) |
土曜日夜の休憩室は心配していたより人が疎らで、5〜6メートル四方に1組(1、2人)程度でした。拘らなければ寝場所はすぐ見つかります。
ただ、音環境の懸念は予想通りでした。テレビの音に加え、吉田口ツアーのバスを待つ人の話し声が00:45頃まで続き、1:00〜1:15頃は荷造りのガサガサ音、彼らが出発して静かになると温泉客がぐっすり眠りについてあちこちから高鼾が鳴り始めます。空調のゴーッという音も終始響いていました。
他にも毛布やソファーの汗臭さ、通路を通る人影が気になって熟睡は無理でした。
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休憩室の奥を区切るパーティション(01:39) |
これでは明日に差し障るなあと別の寝床を求めて周りを見回すと、休憩室の奥にパーティションで仕切られた部屋が2室。片方は男女兼用、もう片方は女性専用の「新リラックスルーム」です。
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新リラックスルームの天井(05:23) |
誰でも手続きなく使える部屋で、休憩室より暗く、空調の音も小さいです。寝椅子の角度のおかげか大きな鼾をかく人もいません。席数は限られますが、空いていれば最初からこちらに陣取った方が良いでしょう。
ただ、深夜でも20〜30分に一度は出入りがあり、ドアのキーキー音が鳴ります。夜通しタブレットで動画を見ている人もいて光が少し気になりました。
6. ツアー2日目
6.1. 起床
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ポケモンスリープの睡眠レポート |
結局、未明に40分ほど意識を失っていた以外ほとんど眠れませんでした。質の高い睡眠を取るなら個室で宿泊した方が良いでしょう(花の湯は宿泊用の客室も備えています)。
05:30にはレストランで朝食ビュッフェが始まります。朦朧とした意識のまま、フラフラの足取りで向かいました。
6.2. 朝食ビュッフェ
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ビュッフェ会場の陽だまりキッチン |
早朝ですが宿泊客、温泉客が続々と入っていきます。
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取り分けた料理(05:57) |
私が席に着く頃には大半の人が食べ終えてレストランが空き始めていました。
6.3. 衝撃の連絡
休憩室に戻り、五合目行きのバスが出るまで寛いでいたところ、06:40にツアースタッフが来て富士宮口ツアーの参加者(全部で5、6人)を呼び集め、「スカイライン通行止めです。バスも運転を見合わせています。このまま待機してください」と衝撃の連絡。五合目までの道路が前日に激しい雨に見舞われていたようです。
そんなまさか!とすぐにJARTICの交通情報を確認すると特に規制は見当たりませんが、最新情報が反映されていないのかも(実際はツアースタッフが確認していなかっただけのようです)。
初めての富士登山は登る前から撤退か…と諦めかけていると、06:59に再びスタッフが来て通行止めの解除とバスの定刻発車が伝えられました。予定では07:00集合、07:10発車で時間がありません。大慌てで支度して駐車場に向かいました。
6.4. バスに乗って五合目へ
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前日とは違う黄色いバス(07:07) |
ツアー参加者が5、6人だったのでワゴン車でも来るのかと思いきや、駐車場には大型バスが待っていました。車内には20人ほど。ここでも他のツアーとの混乗のようです。
7:10に定刻発車。通行止めだったスカイラインは随所で斜面から車道に砂利が流れ出ており、バスの太いタイヤが乗り上げるたびにザザザッと荒い音。前日の雨の激しさが窺われます。
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ツアーバスの移動ログ(花の湯→富士宮口五合目) |
麓の花の湯から高度を一気に上げ、獲得標高が2200mにもなるバス移動の終盤、ツアーガイドさんが初めてマイクを手に取り、寝ぼけ眼の参加者たちに喝を入れました。寝ていると呼吸が浅くなり高度順応が遅れるとのことでしたが、寝不足で目が開きません。
一般的な注意点の説明のあと、今年の夏は静岡県側の斜面に雷雲が張り付いて動かない異常事態で、昨日のツアーではこれ以上先は命の危険があると判断して六合目で撤退した、と特に雷への警戒を呼び掛けていました。
富士宮ルートの山小屋トイレの利用料が全て300円であることもガイドさんの話で初めて知りました。(前述の富士登山初心者ガイドの情報では100〜200円だった)
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五合目駐車場(08:18) |
予定より13分遅れて08:13に到着。ドアが開くなり他の参加者たちはあっという間に小雨混じりの霧の奥へと消えていきました。このうち何人が帰って来れるでしょうか…。
私も高地順応を短縮してすぐ登り始めるつもりでしたが、レインウェアを着たり、トレッキングポールを伸ばしたり、駐車場のトイレに寄ったり、記念にと富士山保全協力金を払ったり(2024年の静岡県側は1000円で支払い任意でした)と手間取り、登山口に立ったのは08:50でした。
6.5. 登り
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登り始めは水滴が浮遊する程度の軽い雨 |
遅れを取り戻そうとハイペースで登り始めますが、花の湯での寝不足が祟って猛烈な睡魔が。途中、何度か立ち止まってトレッキングポールに顎を乗せウトウトと小休止。それでも六合目には9:12着で、標準コースタイム速度の1.6倍速となかなか良いペースでした。
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六合目 雲海荘 |
その後は眠気も収まって順調に高度を稼いでいきましたが、ペースは大きく上下しながら低下し、八合目〜九合目では標準以下に。登り行程全体では標準の1.2倍速になりました。
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標準コースタイムで正規化した各区間の速さ |
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新七合目 御来光山荘 |
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バックで下るブルドーザー |
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九合目 萬年雪山荘 |
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萬年雪山荘の自販機は大ボトルが500円、小ボトル・缶が400円 |
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山頂まであと一息の所で上空に飛行機が見えた |
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機内から富士山を見下ろした写真はよくあるが、富士山から見上げた飛行機はこう |
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富士宮口山頂から見た剣ヶ峰方面 |
恐れていた高山病は特にこれといった症状が出ないまま富士宮口の山頂に到着。高山病予防にと、肺に内圧を掛けるように長く息を吐く呼吸を意識していたのが奏功したようです。
現在時刻は13:28。登山時刻表に照らせば、お鉢巡りは無理でも剣ヶ峰までは行って来れる時刻ですが、疲労感が強いのでここで撤退することにしました。
下山前に腰を下ろしてカロリーメイトを1袋だけ補給。登っている間は糖分濃度8%(参考ページ)で作った特製スポーツドリンクをハイドレーション・ブラダーに入れ、歩きながらホースで飲んでいたので、空腹感はあまり強くありません。山行中に消費した固形食は結局この1袋だけでした。
(特製ドリンクのカロリーは推定31 kcal/100 mlで、市販ペットボトル飲料のミルクティーやカフェラテと同程度。参考としてポカリスエットは25 kcal/100 ml、アクエリアスは18 kcal/100 mlで、持久系スポーツの栄養補給用途としてはやや力不足です。)
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気圧差でよく膨らんだカロリーメイト |
山頂のチップトイレはPayPayでも支払い可能でしたが、せっかく硬貨を持ってきたので料金箱に100円玉を3枚投入し、装備を軽量化しました。
6.6. 下り
山頂の休憩で時間を使ってしまったので下り始める時点での貯金は5分ほど。各合目の山小屋では貯金の増減を意識させられます。しかし急ぎすぎて膝を壊してしまえば大幅なペースダウンは避けられません。極力衝撃を与えないよう慎重に慎重に下った結果、登りよりも安定したペースを維持できました。
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下り行程全体では1.1倍速に |
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富士宮口山頂の大きく傾いた白鳥居 |
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五合目の駐車場が雲の下に見えてきた |
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宝永山の横を下っている時に虹が出現 |
朝から五合目付近にずっと張り付いていた雨雲が一瞬途切れて虹が現れました。ここまで似たようなペースで抜きつ抜かれつしていたスペイン語話者の登山客グループに "Rainbow!" と指差して知らせると、"Wow!" "Arco iris!" と感激していました。
6.7. 下山後〜噂の真相は
少しずつ貯金を積み増しながら17:24に五合目に到着。道路には濃い霧が立ち込めています。帰りのバスが止まっているはずの場所まで探しに行きましたが、それらしい車体は見当たりません。
とりあえず登山口まで戻ってきて腰を下ろしますが、自分の他に人影はなく、走る車もなく、辺りは静寂そのもの。日が落ちてどんどん暗くなり、一人取り残されたような気分になっていたその時、霧の向こうから黄色い大型バスが現れました。2灯のまばゆいヘッドライトが頼もしいです。
止まったバスに駆け寄ると、運転士さんが扉を開けて「4人しか乗らない予定なので好きな席に座ってください」と迎え入れてくれました(ツアー参加者のほとんどが脱落するという噂は本当のようですね)。前方の座席に深々と身を預け、疲労と眠気にぐったり。これで無事ミッション達成、と一安心です。
17:50ごろ運転士さんの携帯電話に着信。残り一人がいま雲海荘にいるので発車を少しだけ待って欲しいとのこと。
運転士「雲海荘は何合目?」
私「(パンフレットを見て)六合目です」
運転士「そこから降りてくるのに10分くらい?」
私「いえ、15分と書いてありますね」(ということは20分は超えそう)
その後、別の女性客2人が滑り込みで到着しましたが、連絡のあった最後の一人は定刻の18:00になっても姿を見せず。バスもだいぶ粘りましたが10分遅れで扉を閉め、静かに発車しました。
6.8. 再びの豪雨
スカイラインの料金所跡を過ぎてしばらく経った頃、バスの窓を打つ激しい音に起こされました。見れば路面が白く煙るほどの豪雨。料金所までは飛ばし気味だったバスもさすがに控えめな運転になり、遅れを取り戻せないまま花の湯に到着。今回のツアーでは本当に奇跡的なタイミングで登山中の雨を回避できたのだなと幸運を噛み締めました。
6.9. 温泉と食事
ツアーには下山後の温泉入浴も含まれていましたが、時間が足りず断念せざるを得ないというのは盲点でした。これはバスが定刻通り19:00に花の湯に着いていたとしてもあまり変わりません。食事と身支度の時間も考えると、帰りのバスの発車が20:30というのはかなりのタイトです。私は温泉は切ってレストランに直行しました。どうしても温泉を楽しみたいなら1日目の夜にオプション料金を払って入浴しておくのが正解でしょう。
食事は写真のとおり豪勢な内容で味も良かったですが、疲労が限界に達しているので咀嚼すら億劫に感じ、完食に40分を要しました。
その後、花の湯からのバスは定刻通り22:30に新宿に到着し、無事に帰宅したのでした。
7. 反省点とツアーの評価
今回の挑戦では一応ミッションは達成したものの、
- 質の良い睡眠が取れなかった
- 心拍数などで運動強度を管理せず序盤で飛ばし過ぎた
- 装備品に省略/軽量化の余地がある(特に水と食料)
ことが次回以降の課題として浮上しました。
特に睡眠は最大の課題で、花の湯で仮眠するツアー行程には無理があると感じました。次はバスツアーに頼らず電車で富士宮入りし、駅近の宿でしっかり睡眠を取って、翌朝の路線バスで登山口に行くプランを試そうと考えています。
8. 後日談
山行ログをStravaで振り返っていたら、私と同じ日に、私より2時間半も短い経過時間で、私より1000mも標高の低い水ヶ塚公園(二合目)から山頂までランで往復した上にお鉢巡りまでこなすという、バケモノみたいな人とすれ違っていたことが判明しました。
https://www.strava.com/activities/12238491539
普段のアクティビティを拝見すると3分40秒/kmペースで10km以上維持したり、六甲山中をフルマラソン以上の距離走ったりと、まさに怪物。お名前で検索すると神戸大学 大学院 工学研究科の教授がヒットしますが、理系の研究者は優れたアスリートでもあることが多いらしいので、案外ご本人かも。
いやはや、初めての富士登山でとんでもない世界の一端を垣間見てしまいました。