2017年5月26日金曜日

ダジャレ系 Tactical Urbanism

Tactical urbanism には、腰の重い行政に代わって手近な材料で都市の公共空間の改善を即座に実現してみせるゲリラ活動的な側面が有り、「土地が無い、予算が無い、現状は容易には変えられない」という行政側の言い訳を真正面から粉砕してきました。

最近報じられたウィチタ(アメリカ、カンザス州)の事例もその系譜に連なる活動ですが、材料の選定には洒落が効いていました。



Stephen Miller. (2017-05-12). "Providence Will Keep DIY Plungers in Place to Prevent Cars From Clogging Bike Lane". Streetsblog USA

自転車レーンを「詰まらせる」路上駐車を排除する為にトイレ掃除用のラバーカップを並べた事例。記事の写真をよく見れば分かるように、路駐スペースは元々自転車レーンとは別に floating parking の形で整備されていたものの、両者はペイントで視覚的に区分されているだけで分離工作物が無かった為、一部のドライバーが勘違いしたり、駐車枠が足りなかったりで自転車レーンの中に駐めてしまっていたようです。

ラバーカップは路上にポン置きされているだけで特に固定されてはおらず、
数日後には全て無くなっていたそうです。

Rhode Islander. (2017-05-14, 9:41). "Re: Providence Will Keep DIY Plungers in Place ..." [article comment]
By the next day, half the plungers had disappeared in various ways, and by today, they've all disappeared.
それでもこの試みは市長に自転車レーンの改善の必要性に気付かせ、より恒久的な工作物の設置を検討させたという意味で有意義だったと言えるでしょう。
Often, city governments remove unauthorized bike lane barriers, but Providence Mayor Jorge Elorza has decided to keep them until his administration comes up with a solution.

“The plunger installation is a creative way to draw attention to an important issue,” said Elorza spokesperson Emily Crowell. “The City won’t remove them unless they impede traffic on the street. This summer the City is looking into ways to better delineate the lanes such as painting, flower beds and flexible posts.”

日本にとっては、ラバーカップを設置した人の動機が注目に値します。

Lynn Arditi. (2017-05-11). “Toilet plunger protest aims to help unclog Providence bike lanes”. Providence Journal
The plungers — 72 in all, their tips wrapped in reflective tape — are the handiwork of Jeffrey Leary, a 49-year-year old software engineer who lives in Cranston and enjoys biking with his 9-year-old daughter.

“There’s a lot of great stuff in Providence,″ Leary said, “[but] I certainly would never allow her to ride in the streets in Providence. That would scare me to death.”

// 中略

To avoid improperly parked cars, he said, the biker is forced to ride into the traffic. All that weaving in and out of the bike lane, Leary said, “becomes a very chaotic situation — and that’s dangerous.”
いや別に取り立てて言うほどの事じゃないんですけどね。こんな危険な環境では子供に一人で自由に走らせてやれない、という。

ただ、これが日本国内の議論では蔑ろにされ、「緊張感があった方がルールを守るようになる」とか「路駐が有っても普通に追い越せば良いだけの事。自分は何も困らない」とか「子供や高齢者は歩道を走ればいい」といった大人の独り善がりな主張が幅を利かせてます。ハッキリ言って、自転車の歩道通行の容認より、自転車の利益団体が率先して自転車に抑制的な施策を要求している事の方がよっぽどガラパゴス的だと思うんですが。



ダジャレ系でもう一つ話題になったのはスティープル・アストン(イギリス、オクスフォードシャー)の事例。雨水が溜まった路面の陥没にお風呂のアヒルちゃんを大量に浮かべています。

BBC. (2017-05-19). “Rubber ducks swim in Steeple Aston village potholes”.

実際に高齢者の転倒事故にも繋がった危険な陥没を、長年指摘されてきたにも関わらず補修せずに済ませてきた(= ducking)州議会を批判する意図で為されたものです。解決を実演する tactical urbanism とはちょっと違いますが、近隣住人や通りがかったドライバーからは共感を得られたそうです。

余談ですが、抗議行動で使われた100羽以上のアヒルちゃん(BBC (2017-05-19): “which had previously been used in a charity event.” ってどんなイベントだww)を寄付したのはパリッシュ(parish)と呼ばれる準自治体の議員。イギリスのパリッシュという自治制度を私はこの記事で初めて知ったんですが、その起源は、

武岡 明子. (2017-03).「イングランドのパリッシュをめぐる制度改革と現状」『札幌法学』Vol. 28, Iss. 1/2, p.93
パリッシュは、その名が示すとおり、もともとは教会が布教や宗教上の監督のために設定した教区(parish)に由来する。宗教上の組織ではあるが、16世紀ごろから貧民救済や道路管理等、地域的な行政活動の単位として位置づけられるようになった。
との事で、歴史的背景からも自然な助力だった事が窺われます。面白い。