2017年11月6日月曜日

レンガ敷きが高すぎるならアスファルトにレンガ模様を付ければ良いじゃない

車に徐行や注意を促したい交差点や生活道路では車道全面をレンガ敷きやブロック敷きにするのが理想的です。そこがスピードを出してはいけない空間であることを道路の見た目の雰囲気に語らせ、標識に頼らずともドライバーに直感的に理解させられるからです。問題は舗装費用の高さでしたが、呆気ないほど単純な解決策が実用化されています。





このツイートが紹介しているのはアムステルダムのWillemsparkwegとJacob Obrechtstraatの交差点。ファン・ホッホ美術館から西に500mほどの場所です。



一見、レンガを1個1個手作業で敷き詰めたように見えますが、アスファルトの表面にレンガ模様の凹凸を付けただけです。

これはStreetPrintという商標でカナダの会社が売り出している工法のようで、公式ページを見ると、舗装の打ち換えタイミングだけでなく、既に施工済みのアスファルト路面に対しても適用できるそうです。

具体的な作業手順は以下のビデオにまとめられています。アスファルト路面を(再)加熱して柔らかくし、レンガ模様の型を押し付け、最後にコーティング剤で表面を保護したら完成。



オランダ国内の施工事例をひたすらつぶやいているツイッターアカウントもあるので、参考になります。


上のツイートの写真の場所はここ(52.670527,4.857732)ですね。ゾーン30指定された住宅街の道路で、オランダでは典型的な様式。なぜああも広範に、あちこちの道路でレンガ敷きが採用できるのか、そんなにも自治体予算に余裕があるのかと前々から疑問でしたが、ツイートが言うように、「これはStreetPrintが無ければ不可能(wat zonder StreetPrint niet mogelijk is)」だったんですね。



この工法、日本国内でも恐らく業界内では既に認知され、施工実績も探せばどこかにあるのだと思いますが、日本社会は(車の流れの円滑化ではなく交通静穏化の目的では)ドライバーの行動を道路のデザインでnudgeすることにあまり関心がなく、特に生活道路でそういう知恵を使おうという意欲が極めて弱いようなので(*)、工事を発注する側(自治体の担当者や議員や住民)には、StreetPrintのような安価な工法があるという情報が広まっていないかもしれません。

* 道路を全面ブロック敷きにした生活道路なんて、日本では相当に意識の高い、ごく一部の住宅地にしか無いですよね。

その無知のせいで、「レンガ敷き、ブロック敷きなんて高すぎて無理」と最初から諦め、生活道路には不適切な(スピードを出して良い環境だとドライバーに誤解させる)普通のアスファルト舗装を採用し続けているなら、何とももったいない話ですし、地域の子供の命に対してあまりにも無責任です。

というわけで、微力ながらこの紹介記事を書いてみました(特にどこからも報酬はもらっていません)。


2017年11月18日追記{

レンガ(模様の)舗装と車の実勢速度や交通事故リスクの関係を調査した研究は、ちょっと探した範囲では意外と見当たりませんでした。信号交差点で右左折する車が横断歩道を通過する際の速度に、横断歩道部分の舗装の種類が影響するかどうか、という研究であれば以下があり、有効性を報告しています:

Iasmin, H., Kojima, A. and Kubota, H. (2016) ‘Impact of pavement type on speed behavior of turning vehicles at crosswalk of a signalized intersection: Brick and red color’, Journal of Transportation Safety and Security, 0(0), pp. 1–20. doi: 10.1080/19439962.2016.1248265.


特にレンガ舗装とは限定せず、道路全体のデザインが速度にどう影響するかを調査したものであれば、以下のレビュー論文があります:

Books / Speed Management (no date). Available at: http://www.oecd-ilibrary.org/transport/speed-management_9789282103784-en (Accessed: 18 November 2017).

Road design factors and their interactions with speed and speed limits (no date) Accident Research Centre. Available at: http://www.monash.edu/muarc/research/our-publications/muarc298 (Accessed: 18 November 2017).

どちらも "self explaining road" という概念を解説しています(その道路がどういう階層の道なのか、どれくらいの速度で走るのが適当なのかをドライバーにそれとなく伝え、望ましい速度に誘導するために、道路の全体的な雰囲気を意識的にデザインしようという発想)。