2020年1月30日木曜日

理想的な自転車利用環境とは——効率・快適・安全の具体的イメージ

電車の混雑を緩和したい。都市空間をもっと効率的に使いたい。事故の危険や排気ガスや騒音を減らして都市を居心地の良い場所にしたい。市民の運動不足を解消したい——。

行政が日常生活での自転車利用を促す理由はさまざま (*) ですが、では、どんな利用環境を整えれば自転車に優しい都市になるのか、具体的なイメージが必要ですよね。イメージが曖昧なままだと、最初に立てた理念が実装段階で真逆になってしまうこともあり得ます。

本稿ではそのイメージを思い付くままに列挙してみました。必ずしも実現できるわけではない(また、互いに両立できるわけではない)にせよ、できるだけそれに近いものを目指してほしいというイメージです。

* 日本国内では、なまじ自転車の交通分担率が高いだけに、「自転車の無法ぶりを何とかして押さえつけたい」という後ろ向きで受動的な動機しか持ち合わせていない自治体もあるかもしれませんが、足元の交通分担率の高さに慢心して自転車に厳しく当たる施策に終始していると、いつの間にか日常生活での自転車利用文化を消滅寸前まで追い詰めてしまっていた、という事態になりかねません(交通分担率の大規模調査は10年間隔でしか実施されていないので、気づくのが遅れるというのは本当にありそうですね)。


イメージは効率性、快適性、安全性に分けて列挙しました(複数の評価軸に跨がるものは適当にどれかに分類してあります)。まずは、自転車の利用促進で最も重要ながら、最も疎かにされがちな効率性から。


効率性に関する理想

  • 任意の出発地から任意の目的地まで最短距離(2点を結ぶ直線)で移動できる。
  • 曲がり角がなく、一本の道で辿り着ける(途中で何度も地図を確認しなくて良い)。
  • 出発から到着まで、(赤信号や渋滞で)一度も足止めされない。
  • 赤信号でも、十字路での左折や、丁字路の横画上側の直進はいつでもできる。
  • 赤信号に引っ掛かっても信号が青に変わったらすぐに(少なくともその青のうちに)通過できる。
  • 通行空間が双方向通行で、車道を渡ったりUターンしたりしなくても目的地に着ける。
  • 平面交差ではなく立体交差(橋・トンネル)で車道や線路を越えられる。
  • 信号のない交差点や横断箇所では自転車側に優先通行権がある。
  • 通行空間が広く、線形も滑らかで、徐行(減速と再加速)する必要がない。
  • 大型の自転車(カーゴバイクやハンドサイクル)でもそのまま通れる。
  • 押し歩きしなくて良い(乗ったまま通過できないような間隔の車止めや急なスロープがない)。
  • 勢いだけで乗り越えられないような長い坂、急な坂がない。
  • 橋やトンネル、堤防のランプウェイでは下り坂で付いた勢いでそのまま走れる(ブレーキを掛ける必要がない)。
  • 自転車を停められる場所が出発地・目的地のすぐそば(10歩くらい)にある。
  • 駐輪場の枠に確実に空きがあり、それがすぐに見つかる。
  • 駐輪場のラックに出し入れするとき他の自転車に引っ掛からない。重い車体を持ち上げる必要がない。


快適性に関する理想

  • 路面が滑らかで、段差や凸凹が全くない。
  • 路面に水たまりができない。
  • 路面のゴミや落ち葉はすぐに清掃される。
  • 通行空間に草が繁茂したり、木の枝が張り出したりしていない。
  • 空気が綺麗で目や喉がイガイガしない。
  • 森や季節の花の香り、パンの焼ける匂いが楽しめる。タバコや排気ガスの臭いがしない。
  • 車の眩しいヘッドライトに目を射られない。
  • 通行空間のデザインがすっきりしていて統一感があり、目に心地よい。
  • 騒音がなく、同行者とのおしゃべりや鳥のさえずりが楽しめる。
  • 他の自転車と横に並んで走れる。
  • 自分の好きな速度で走れる(遅くも速くも)。
  • 夏は木陰になって涼しい。
  • 雨に当たらない。
  • 強い風が吹き付けない。


安全性に関する理想

  • 誰にとっても(自転車の経験の長短や、体力のあるなしに関わらず)車に撥ねられる恐怖感や後ろから追い立てられるストレスとは無縁な通行空間だ。
  • 通行空間が唐突に途切れたり、全然違う場所(例えば車道から歩道)にジャンプしたりしない。一貫した形で連続しており、位置・種類が変わるときは滑らかに遷移する。
  • 狭窄部などで車と合流しなくて良い(自転車用の通路が別に用意されている)。
  • 車と混在通行になる場所でも、車とは滅多に遭遇せず、車との速度差も小さい。
  • 同伴している(または一人で走っている)子供が事故に遭う心配がない。
  • 他の自転車を追い越すときも車道にはみ出さずに済む広さの通行空間だ。
  • 車が入ってきたり、駐停車したりしない、文字通り「自転車専用」の通行空間だ。
  • 自転車通行空間の脇に止まった車が急にドアを全開にしてもぶつかる恐れがない。
  • 自転車通行空間の脇に止まった車の影から歩行者が飛び出してきても衝突を回避できる余裕がある(通行空間と駐車空間の間にバッファがある)。
  • 歩行者とは通行空間が明確に区分されており、その区分が途切れず一貫している(交差点でもバス停でも橋上でもトンネル内でも)。
  • 自転車通行空間を横切ろうとする歩行者は事前に視野に入り、余裕を持って対応できる(街路樹や看板などで見通しが妨げられていない)。
  • バスや車に乗り降りするための空間は、自転車通行空間とは別に用意されている。
  • カーブの内側に背の高い街路樹や構造物がなく、進路の見通しが良い。
  • 双方向通行の自転車通行空間は、対向自転車と正面衝突する恐れのない広さと線形だ。
  • トンネルは真っ直ぐで、入り口から出口が見通せる。途中に死角がない。
  • 交差点や横断箇所では左右の見通しが良い(完全に停止して首を伸ばして窺わなくても、車や他の自転車や歩行者が来ていないかが分かる)。
  • 自転車側に優先通行権がある交差点ではどの車も徐行または停止している(車側にはハンプやスロープがあり、自転車の通行空間は平面で連続している。構造的にもデザイン的にも自転車の通行空間が連続していて、車道はそれに分断されている)。
  • それぞれの道路ユーザーが、どの信号に従い、どこを通り、どこで停止すべきかが(言語に依存せず)直感的に分かるデザインだ。自分だけでなく相手がどう振る舞うかも予測できる。
  • 自転車通行空間の中か近傍に、転倒に繋がる段差・隙間や、転落の恐れがある溝・水路がない。
  • 自転車通行空間の中か近傍に、衝突の恐れがある障害物(車止め、電柱、共同溝の地上機器など)がない。
  • 縁石はペダルが当たらない高さだ。または、自転車通行空間の端から離して設置されている。
  • 縁石は鋭角に乗り上げても転倒する恐れのない断面形状だ。
  • 路面は適度な摩擦力があり、滑って転ぶ心配がない。
  • 路面の雪は車道よりも先に、かつ高い頻度で除雪されている。
  • 夜でも明るく照らされている。
  • 常に人の目がある。
  • 停めてある自転車が盗まれたり傷つけられたりする心配がない。