2015年6月27日土曜日

山手通りの自転車環境(中野坂上〜宮下)【改善案付き】

回収を待つゴミが通行空間を半分近く塞いでいます。



この狭さ

対向自転車が来ると行き違いができないので、どちらかが待つ必要が有ります(上り側の自転車が道を譲ると再発進でえらい苦労する事になります)。こうした通行障害が発生しやすい事も有って、自転車は自分に割り当てられた空間ではなく、隣の歩行者空間を選びがちです。



幹線道路沿いの歩道をゴミ集積場所にする事が妥当かどうかは扨置き(*)、設計上、ゴミ置き場が道路の一機能としてまともに考慮されていなかっただろう事が窺えます。これだけゴミが出るのであれば、
  • 車道と自転車通行空間の間の緩衝帯をもっと広く確保し、
  • ゴミが乱雑に置かれないようにゴミ箱を設置すべきです。

* ゴミ回収車が幹線道路の車道上で頻繁に停車・発進を繰り返すと周囲の車の流れを攪乱して事故リスクを高めるかもしれません。

バス停周辺の全景

山手通りは地下に首都高速を設置したにも関わらず、地上の道路も(当初計画からは縮小されたものの)相変わらず車の交通容量を追求していて、この地点では交差点手前で片側4車線も用意しています。

それに加え、車道の流れを滞らせない為にバスベイを設け、その煽りで自転車通行空間が躊躇なく分断されています。車、バス、歩行者、自転車のそれぞれが、設計上どのような優先順位に在るかが露骨に現われています。



バスベイの手前で途切れる自転車通行空間

しかも自転車の自然な動線を全く考慮しない形で雑にぶった切っています。現実の自転車は折れ線グラフのようなカクカク線ではなくクロソイド曲線を描いて走るんですが、この特性は自転車インフラの設計者には無視されています。

それでも上の写真を見る限り、一応は滑らかな曲線を描いて走れているように見えます。しかし、


すれ違う自転車

バス停の横を通過中の右手前の自転車に注目してください。この自転車は、画面奥から来る対向自転車とどうすれ違うでしょうか。

互いを(右手ではなく)左手に見てすれ違った2台の自転車

自転車の自然な動線を無視した道路構造と、通行空間の途絶の所為で、対向する自転車同士が互いの動きを予測しにくくなり、左側通行の原則が崩れてしまいました。互いの接近タイミングや位置関係に依っては、すれ違うギリギリのタイミングまで、どちらによけるべきか判断に迷う場合も有り、(普通なら問題なく回避できる)正面衝突の危険すら生じています。


すれ違う自転車

それと、もう一点。植栽で左右から挟まれた空間内ですれ違っている2台の自転車がどちらも、ペダルが植栽のガードパイプにヒットするくらいギリギリまで端に寄っています。ペダルがぶつかるよりも対向自転車とぶつかる心理的不安が勝った結果と考えられます。

双方向通行の自転車通行空間で2.0mという幅員は、特に植栽や柵などで構造的に分離された空間の場合、狭すぎます。

加えて、この区間は坂道で、
  • 下りの自転車は速度が出やすくなり、
  • 上りの自転車はハンドルがふらつきやすくなる
為、平坦区間よりも空間の安全マージンを広く取る必要が有ります。この区間では、自転車通行空間の幅員は3.5〜4.0mくらいは無いと、安全・快適には利用できないでしょう。


自転車の視点

自然な動線で真っ直ぐ走るとバスベイに飛び出してしまいます。


自転車通行空間に入らず、直進して歩道を進む自転車

自然な動線を無視した通行空間は利用者に求められていない事が分かります。設計者は利用者が何を求めているかに全く関心が無いようですが、インフラを商品として見た場合、この通行空間は売れ残りであり、不良在庫です。



不人気ですね。


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同じ地点の反対側の歩道

自転車通行空間は不適切な植栽で有効幅員が狭く、急な屈曲で見通しが悪いです。


バス停の広告板が巨大な死角を作っているので、対向自転車を直前まで視認できません。


同じバス停を反対側から。やはり看板が死角で向こう側が見えません。
「スピード落とせ!」と書く前にやるべき事が有りますよね。

自転車通行空間はバス停の手前で途切れます。

「通行空間を無くせば自転車利用者は遠慮して慎重に走るだろう」と考えたのでしょうが、そのような効果は感じられません。寧ろ、バス利用者、自転車利用者、歩行者が互いの存在を予期しにくく、動きを予測しにくくなっているのではないでしょうか?

通行空間を途切らせずに連続させていれば、歩行者に対して、「そこを自転車が通り得る」という事を意識させられた(歩行者と自転車相互の予測可能性を確保できた)かもしれないのに、その可能性をみすみす捨てています。

写真を見れば分かるように、歩道の幅員はバスベイで削られてもなお、充分すぎるほど残っています。自転車通行空間を途切らせる必然性は何も無かったはずです。


広告が撤去されたバス停

実際に事故が起こってしまう前に、危険な死角だけでも解消してもらおうと、2013年8月に道路管理者に問題を指摘しました。当初の回答は、広告を撤去せずに注意喚起の掲示をするといった対症療法に終始していましたが、問題は根本から解消した方が良いと再度説得し、半年以上経ってからやっと広告を撤去させる事ができました。


見通しが良くなりました。


しかし、これで問題が全て解決したわけではありません。道路の反対側と同じく、こちらでも自転車の自然な動線を無視した急な屈曲に因って、
  • 自転車の挙動が不規則になり、
  • 利用者相互の予測可能性が損なわれ、
衝突リスクが高まっている可能性が有ります。


自転車の実際の動線の例(Google Mapsの画像を加工。以下同)

急な屈曲をできるだけ緩やかなカーブを描いて通過しようとすると、一時的に右側通行になってしまったり、大きく膨らんでしまったりします。その動線は人によって異なるので、他の自転車の動きが予測しにくく、すれ違いも追い越しも困難です。

一方、インフラの形通りにカクカク走ろうとすると、ステアリングの角速度を急激に上下させなければならず、車体が不安定になります。10km/h以下の超低速に抑えればステアリングの操作を緩やかにできますが、そうすると今度は速度が落ちた分ジャイロ効果も薄れてしまうので、やはり車体が不安定になります。

山手通りの設計者はこうした自転車の基本的な特性を設計に全く反映していません。


自転車の通行空間の選択がバラける事による問題

山手通りを通る自転車利用者には、設計者の意図通りに律儀に通行空間を守る利用者と、走りにくい線形を嫌って素直に歩行者空間を走る利用者がいます(*)。このように各自がバラバラの場所を通行していると、バス停手前の屈曲などで進路を強制的に曲げられた時、両者の動線が突然重なって衝突する恐れが有ります。

* この他、歩道に見切りを付けて車道を選ぶ利用者もいます。


同じ空間で実現し得た自転車道

以上のような諸々の問題は全て、インフラを適切に設計していればそもそも生じなかったはずです。空間的な余裕は充分有ったので、図のように3m幅でゆったりとカーブを描く自転車道を作る事も可能でした。

これだけ配慮の行き届いた高規格な自転車道を提示できていれば、自転車愛好家や研究者、国交省の主義・主張が今のように車道混在・自転車レーンに偏重する事も無かったでしょう。