2016年12月11日日曜日

荻窪とロッテルダムの道路整備姿勢の違いに見る日本社会の車優先意識

杉並区から、荻窪駅南側のバス通りに同区で初めての自転車ナビライン (法的効力の無い、目安としての路面表示) が設置されたと発表されました。

杉並区広報課(2016年12月5日)「区内で初めて自転車ナビラインが完成しました」
http://www.city.suginami.tokyo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/029/685/shusei_281205jitennsyanabirainn.pdf

出典:杉並区広報課 (2016, p.2)

道路の横断面構成はそのまま維持し、自転車に左側通行を促す表示を追加する事で、自転車関連事故を減らそうとする取り組みです。道路交通の三大要素である人・車・道のうち人に焦点を当てた対策ですが、空間配分の不合理さは放置するという性質の施策でもあり、Twitterのタイムライン上でほぼ同時に流れて来たロッテルダムの改修事例とは極めて対照的で、場所を問わず車の利便性を最優先する日本の歪みを感じました。



荻窪の整備事例では道路幅員が7.5mしか無いにも関わらず、車に往復2車線、5.5mを配分している為、自転車以前に歩行者の通行空間すら満足に確保できていません (府中市の京王線・多磨霊園駅の南に延びる商店街通り (地図URL) も幅員は似た感じですね)。

仮にこの路線を車に対して一方通行化するという決断ができたなら、以下のような空間配分も可能になります。

構成案1 ちょっと詰め込み過ぎ感あります。

Streetmix.netによる作図。このwebアプリでは日本の路側帯に相当する形態が表現できないので歩道パーツで代用しています。

構成案2 車と同方向の自転車を混合させれば少し余裕が出ます。

車の車線を一本手放すだけでこれだけ選択肢が広がります。幹線道路に囲まれた生活道路網では車の利便性を意図的に引き下げて、最低限のアクセス性は維持しつつも通過交通を排除したり、近距離での車の利用そのものを抑える事が、人が行き交う中心市街の空間の質を上げる王道ですから、本来はこのような根本的な改修に踏み切ってほしいところです。

それを実現したのがロッテルダムのProveniersstraat (プロフニーア通り) です。


改修前の2009年6月時点の様子。車に1車線×2方向が割かれています。


2015年5月の様子。StreetViewで確認できる範囲では、2014年5月の時点で既にこの構造に改修されています。

車は一方通行になり、同時にゾーン30化されています。左右の自転車レーンは滑らかな舗装ですが、車が通る中央部分はブロック舗装で、スピードを出せない雰囲気を演出していますね。

右手の路上駐車スペースは歩道を抉る形で設けられています。逆に横断歩道部分では歩道を張り出し、違法駐車を防ぐと同時に歩行者の横断距離を短縮しています (英語でcurb extensionとかbulb-outなどと呼ばれる手法です)。

ただ、駐車スペースは右ではなく左に配置した方が良さそうです。車の乗員はドアを開ける時に後方確認を疎かにしがちなので、この配置だと自転車のドア衝突事故が起こりやすいです。左に配置すれば駐車車両の乗員と自転車が対面できるので互いに気付きやすくなりますし、乗員がドライバーだけの場合は自転車レーンと反対の歩道側のドアを開ける事になるので、二重の意味で安全です (オランダは右側通行、左ハンドル)。


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