今、ベネディクトの『菊と刀』を読んでいる。
(角田安正訳、2008年、光文社)
一時期流行った『~型自分の説明書』に近い面白さが有る。
原書の出版から時間が経ち、古典の域に入りつつあるが、
現代日本社会を読み解く上でもユニークな視点を提供してくれる。
例えばこれ。
生死にかかわる危険に身をゆだねてこそ潔い。戦時中日本人はアメリカ軍の戦闘機に安全装置が付いているのを見て
事前に対策を講ずるのは卑劣である。(p.68)
「臆病風に吹かれている」と罵声を浴びせていたそうだ(同頁)。
事実かどうかはさて置き、この種の価値観は
意外と今の世にも有るのではないだろうか。
ちょうど福知山線脱線事故の裁判が報道されている。
「事故の予見可能性」が焦点になっていたが、
JR西日本に歪んだ「潔さ」の価値観が有ったとすると、
予見できてもATSの設置に繋がらないだろう。
長い直線でスピードが出た後に急な曲線。
乗客の感覚からすれば如何にも危ない。
だが訓練された運転士なら間違いなど起こさないし、
起こり得ない間違いに備えるのは潔くない、と。
線路は戦場ではないのだが。