2015年5月15日金曜日

鶴見の商店街通り—機能と形態の比較

商店街一方通行区間の終端

旧東海道の京急鶴見駅付近は、駅の南と北で対照的な商店街通りが形成されており、人が集まる空間をどうデザインするかという観点から、なかなか興味深いです。買い物がてら観察に行ってみてはいかがでしょうか。



駅の南側の商店街

まずは駅から南に延びる商店街。「ベルロード鶴見」と呼ばれる範囲は、冒頭の写真に写っている通り南向きの一方通行で、北向きには進入禁止の標識が立っています。


一方通行区間の中

車道は両端が駐車枠になっています。駐車空間は単なる帯状の「駐車帯」ではなく、所々縁石の張り出しで区切られた壁龕状の空間になっています。交差点直近はこの窪み空間が無くなり、不適切な駐停車を防いでいます。個々のドライバーの法知識やモラルに頼るのではなく、インフラの形に依って自然にルールが守られるように誘導してますね。

横浜市行政地図情報提供システムの道路台帳図情報に拠れば、
  • 道路全体の幅員は13.5m
  • 歩道は張り出しの無い部分で左右それぞれ2.75m
  • 車道全体の幅員は8.0m
です。駐車枠の幅が2mずつだとすると、中央の通行空間の幅は4mですね。


通過交通は無く、穏やかな環境

特筆すべきは車の少なさです。一方通行規制が効いているからか、自動車は滅多に通らず、たまに通る車もそれほど速度は高くありません。もうちょっと慎重に遠慮しながら走って欲しいかなと感じる時も有りますけどね。


車道を通る自転車

ピクトグラムや自転車レーンなどのペイントは有りませんが、自転車はリラックスして自発的に車道を走っています。車の交通量・速度が低水準であれば両者の通行空間を分離する必要が無い事が分かります。

実際に走ってみると、「ここでは私(自転車)が主役である」という感覚が得られます。自転車インフラの正否の鍵は恐らくこの心理評価に在ります。


落ち着いて車道を横断する歩行者

自転車だけでなく歩行者も気軽に車道を渡っています。歩行者にとっての商店街が車道に分断されず、両側が一体感を持って機能している印象を受けます。道路が元々は人の空間であり、車の専有物ではなかった事を思い起こさせますね。

車を締め出していないのに歩行者・自転車を中心とした生態系が成立しているという点で非常に興味深い。標識などで明確に示されてはいませんが、この交通実態はオランダのfietsstraat(bicycle street)に近いものがあります。“auto te gast(車は脇役)”の理念が実現できています。


来店客などの自転車

商店街には駐輪スペースは特に見られません。僅かな隙間空間に停められています。車向けの駐車空間の一部を提供しても良さそうなものですが……。

画面右上に見えてきたのが京急鶴見駅。駅利用者向けの駐輪場は駅舎(と商業施設の複合体)の南北それぞれの高架下に用意されています。北の駐輪場は大通り(県道104号)を挟んだ反対側に有るので、長い信号待ちや歩道橋の階段といった時間的・空間的バリアが有るのが難点ですね。



京急鶴見駅周辺

京急鶴見駅
普通車は待避時間が長いですね。

品川方面に向かう列車
カント半端ないな(笑)

京急鶴見とJR鶴見の間に広がるバスロータリー

歩道橋からの(ほぼ)180度パノラマ

左端(南)が京急鶴見駅、中央奥(西)がJR鶴見駅、右端(北)が商店街の続きです。



駅の北側の商店街

京急の高架を潜ると商店街通りは様子が一変します。

自転車ナビラインがペイントされていますが、歩道を選ぶ自転車も多く見られます。

場所や時間帯に拠っても変わるでしょうが、自転車の車道通行率は半分を少し超えるくらいという印象を受けました。

駅の南とは打って変わって車の通行が多いです。

バスが来るとこんな感じ。

先に挙げた道路台帳に拠れば、
  • 道路全体の幅員は15.0m(場所により±0.1m)
  • 車道の幅員は街渠込みで7.9m
なので、歩道は左右それぞれ3.55mですね。植栽も有るので歩行者空間はやや狭く感じます。ナビラインの矢羽根模様の幅は、写真の場所では1mくらいに見えます。


ナビラインと実際の通行位置(先頭は横断歩行者)

路上駐車や横断歩行者を避けて自転車が車道中央寄りを通行する場面が見られます。この通行位置の方が視距を確保しやすく、出会い頭衝突を防ぎやすいので合理的です。

では、アメリカのsharrowのように車線の中央にピクトグラムを配した方が良いのかというと、車の通行量・速度がやや高水準なのでうまく行かないでしょうね。


右下の脇道から度々流入する自転車

この動線は一定の流量が有るようです。地図で見ただけでは分からない、歩行者や自転車にとっての《幹線裏道》なのかもしれません。これはさすがに地元で生活してみないと分からないですね。

良く見ると脇道との接続部分だけナビラインの矢羽根の間隔が詰まっています。


この1枚が夕方の交通実態を大まかに表わしています。

(左から)ナビラインに沿って車道を走る自転車、
路上駐車に進路を阻まれる自転車、
東側の歩道を通行する自転車

同じ路上駐車でも駅南の商店街と違って自転車の阻害要因になっています。

車の停車空間と自転車の通行空間(として指定された部分)が競合していますね。西葛西でも全く同じ問題が有りました。

過去の関連記事
西葛西の自転車レーン


規制標識や警告看板が林立していますが……

そもそも駐停車を禁止するような性格の道路なんでしょうか、ここは。
  • 商店街として歩行者・自転車の自由な移動や、搬入車の荷捌き機能を取るのか、
  • それとも幹線道路として通過交通の処理能力を取るのか、
どっち付かずで中途半端。欲張って二兎を追った事に因るひずみが規制標識となって可視化されたように思えます。このマッチポンプ感。


脇道からの見え方

交差点部分で自転車ナビラインが横からどう見えるのか興味が有ったので脇道に入ってみました。横断歩道のゼブラと比べるとあんまり目立ちませんね。


信号の無い横断歩道(奥が鶴見駅方面)

歩行者がいても止まらない車が多いです。特にひと繋がりの車列は纏まって通過しようとする傾向が強く、その間は歩行者はずっと待たされます。

車の流れの粗密は隣の信号交差点の信号の色でほぼ決まっているので、実質的にはそっちの信号機が、こっちの横断歩道の横断可能なタイミングを決めている構図ですね。

うーん、何とか歩行者の優先通行権を回復できないか。

そこでちょっと実験をしてみました。右からの車が途切れたタイミングで車道中央までじりじり進んでいけば、左から来る車もさすがに止まるだろうと思ったのですが、実際にやってみると、いやー、全然止まりませんね。まるで意に介さない。

「車が通過し終わるまで歩行者は待ってろ」という非公式ルールが支配的です。

過去の関連記事
信号機の無い横断歩道の様子


しかし中にはちゃんと止まる車も。


その横断歩道から、

左に目を向けると自転車ナビラインが早くも終了。

交差点の手前は何故か片側だけナビラインがペイントされています。

そのナビラインも、ここでは幅が0.6mくらいしか無いですね。


その先は鶴見川に掛かる橋

こちらはもうナビラインも何も有りません。


まとめ

駅の南側の商店街通りは滞留から低速移動を中心に据えた機能設計で、利用者の動きは比較的均質。自動車交通を効果的に抑制できており、専用インフラが無くても自転車は無理なく車道通行ができている。歩行者にとっても横断が自由で歩き回るのが容易。

駅の北側の商店街通りは滞留から通過交通処理まで機能を盛り込み過ぎていて、いろいろと無理が出ている。自転車ナビラインはペイントされているものの、自転車にとっての走りやすさ、安心感は駅南よりも劣っている。道路の性格を根本的に考え直す必要が有る。