2016年1月13日水曜日

自転車活用推進研究会の去年の成果 (1) 246号の矢羽根

ちょっと方向性のおかしな所も有りつつ、やはり着実に成果を重ねる行動力・政治力は凄いなと思いました。NPO自活研ニュース最新号についての雑感。



NPO自転車活用推進研究会(2016年1月12日)「NPO自活研ニュース」
昨年二月には東京の大幹線道路・国道246の駒沢と三軒茶屋間往復4キロメートルの路線バス専用レーン内に自転車通行を明示するピクトグラムと矢羽根が設置されました。以来、とりたてて事故はなく路上駐車が減り、自転車の逆送がほぼなくなるという成果を得ています。
(誤字は原文ママ)

「とりたてて事故はなく」は、1件も事故が無かったのか、それとも単に、印象に残るような悲劇的な事故が無かっただけなのかが曖昧です。

「路上駐車が減り」については、ピクトグラム・矢羽根の施工前後を客観的に比較した資料が見当たりません。国土交通省の東京国道事務所からはまだ検証結果が発表されていません(*1)し、日本サイクリング協会の情報誌の記事(*2)でも、台数の計測は事後調査のみであり、事前調査施工前に比べて減ったというのは寄稿者(NPO自活研ニュースの執筆者と同じ)の印象に過ぎません。

2016年1月19日 上の段落の赤字部分修正

「逆走がほぼなくなる」についても同じで、日本サイクリング協会の情報誌(*2)に報告されている、事後調査の1時間(平日午前8〜9時)に逆走自転車が1台も観測されなかったという事実以外は、何ら客観的な数字が見当たりません。ピクトグラム・矢羽根の施工前からこの通勤時間帯は逆走自転車が少なかったのかもしれませんし、事後調査も、2時間観察しておきながらそこから1時間だけ切り出す意図が不明です。

*1 246号のナビライン関連で国土交通省・東京国道事務所から発表されている資料(2016年1月13日確認)
*2 日本サイクリング協会(2015年9月20日)「サイクリングジャパン」No. 483 秋号, p.15

もし上に挙げた以外の資料が無いのだとすると、客観的事実と主観的意見をごちゃ混ぜにして、「嘘だろうが何だろうが、とにかく相手を納得させたら勝ち」みたいな弁論をしている事になります。そういうのは止めてもらいたいですね。社会が改善へと向かう道筋から逸れた時に、それに気付きにくくさせる副作用が有るので。

そしてこの段落で最も注目すべきは、施工後に自転車の交通分担率が上がったかどうか(逆に自家用車が下がったかどうか)や、通行環境の安心感が改善したかどうか(246の文脈で言えば、歩道通行率が下がったかどうか)に全く触れていない点です。

これでは「自転車活用推進研究会」ではなく、ただの「自転車に交通規則を守らせる会」です。

さて、246号の通行実態については別の団体から調査報告が出ています。

日本自動車教育振興財団(2015年6月15日)「Traffi-Cation」No. 39 夏号(2016年1月13日閲覧)
http://murakami-design.ne.jp/jaef/2012/6-traffi-cation/Traffi-Cation_no39.pdf

pp. 4-5
調査地点A、Bともバス専用通行帯の規制時間内は、ナビラインの有無にかかわらず過半数の自転車が車道を走行しています。しかし、規制時間外になると、調査地点A(9時以降)、B(9時半以降)とも一転して歩道走行が増えてきます。特に調査地点Aでは9時の規制解除に伴って、第一通行帯に進入してくるクルマが一気に増えるため、それに不安を感じて歩道を走行する自転車が急増しています。同じ9時〜9時30分の時間帯でもバス専用通行帯の規制が続いている調査地点Bでは車道走行の自転車がまだ6割以上あることから、車道走行に影響するのは自転車ナビラインの有無ではなく、バス専用通行規制の有無であることがわかります
さらに自転車利用者の層と目的の変化も考えられます。8時〜8時30分には、勤務地や学校まで長距離を走行する通勤・通学者が多く、そういう人たちは元々車道走行を心がけている人が多いのです。その時間を過ぎると、買い物等のために近所へ出かけていくいわゆるママチャリ利用者が多くなり、その人たちは、自転車は歩道走行が当たり前と言わんばかりに歩行者の間をすり抜けていきます(写真③)。
(マーカー強調は引用者)

図表出典:日本自動車教育振興財団(2015年6月15日, p.4)
※調査地点Bのグラフの合計台数は多分間違い。

8:00〜8:30の時間帯に着目すると、B地点(ナビラインなし)よりA地点(ナビライン有り)の方が僅かに車道走行の比率が高くなっています。ではこれは有意な差でしょうか? 「歩道逆走」を「歩道走行」に合算して、


観測値1 観測値2
群1 12 18
群2 56 54

Fisher's exact testで検定した結果、
[直接確率計算2×2]
両側検定  :  p=0.3105   ns (.10<p)
片側検定  :  p=0.1969   ns (.10<p)
Phi=0.090

[オッズ比検定]
オッズ比:  =   0.64

<両側検定>
下限値  :  =   0.28
上限値  :  =   1.46
オッズ比による検定は、有意でない(95%信頼区間、両側)

<片側検定>
下限値  :  =   0.00
上限値  :  =   1.28
オッズ比による検定は、有意でない(95%信頼区間、片側)
と、日本自動車教育振興財団が観測した台数からは有意差が認められませんでした。

このように、現時点で明らかになっている調査結果からは、246号に於けるピクトグラム+矢羽根の設置効果は疑わしく感じます。

今後は東京国道事務所からも調査結果が発表されるでしょうが、この事務所は以前、千石一丁目交差点の調査報告で自転車ナビラインの利用率を実態よりも大幅に水増ししたという前例が有ります(*3)。

*3 下記サイトの記事参照(2016年1月13日閲覧)

246号に関しても同種の不正行為を働く恐れがあるので、その報告書を読む際は、結果の数字そのものよりも、どのような実験デザインで調査したのかに注意を向ける必要が有ります。


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ちなみにこの記事で引用した日本自動車教育振興財団(2015年6月15日)は、

p. 5
車道の中央寄りを走行するなど、自転車が車道をわが物顔で走り回らないように、自転車ナビラインには車道左側走行を促す意味合いもあります。
と、道路交通法に根拠の無い勝手な自分ルールを恰も正式なものであるかのように書いたり(*4)、

*4 日本の現行の道路交通法(2016年1月13日閲覧)に於いては、自転車が道路の左端に寄って通行しなければならないとのルールは車両通行帯がある場合には適用されず(18条1項)、車両通行帯がある場合は第1通行帯としか規定されていない(20条1項)ので、その通行帯の中ならどこを通行しても良い。

p. 9
第1車線を一部路上駐車帯にしてその右側に自転車レーンを設ける(写真⑦)など、工夫の余地はあるのではないでしょうか。
と、危険である事が既に分かっており、非推奨とされている道路構造(*5)を望ましいものであるかのように紹介するなどの問題点も有るので、注意が必要です。

*5 このブログの過去記事:



シリーズ一覧
自転車活用推進研究会の去年の成果 (1) 246号の矢羽根
自転車活用推進研究会の去年の成果 (2) 自転車名人という象徴