2016年10月2日日曜日

さいたま市・県道215号の自転車環境

県道215号(2016年4月撮影。以下、晴天の写真も同じ)

県道215号の円阿弥交差点(新大宮バイパス)から八幡通り交差点(中山道)までの区間に整備された矢羽根型路面表示を見てきました。ピーク外の時間帯を見る限り失敗事例です。このインフラについて全体的に感じたのは、区間の途中での沿道アクセス性を考慮しない、急行列車の通過線のようなものという印象です。

2016年10月4日 誤字訂正



新大宮バイパス(2015年11月撮影。以下、曇天の写真も同じ)

県道215号が西端の円阿弥(えんなみ)交差点で接続している幹線道路です。車道幅員に一切余裕が無い、実勢速度が高い、大型車混入率が高いと3点揃っているので、車道を通行する自転車は極めて稀です。100台とか200台に1台くらい?


円阿弥交差点。横断歩道のゼブラが擦り切れています。


新大宮バイパスから県道215号に大型車が頻繁に流入してくるのが理由のようです。


県道215号に入った直後

車との側方間隔が充分取れない車道幅員ですが矢羽根型路面表示が設置されています。


ここは危険すぎるので歩道を通行した方が良いですね。

円阿弥交差点から215号の次の交差点までは両方向とも車道を通行する自転車はほぼ皆無のようです。矢羽根に従って車道を通行するメリットが全く無いからでしょう。

前述の通り新大宮バイパスの車道は危険すぎるのでほぼ全ての自転車が歩道を通行しています。バイパスの歩道から215号の車道に出る場合、自転車は横断歩道の信号が青になるまで待たなければいけません。車道に出た所で安全な通行空間が確保されている訳ではなく、体感上歩道より危険です。

逆に215号の車道からバイパスの歩道に入る場合、円阿弥交差点の215号側が赤信号の間は信号待ちの車の列に阻まれて前に進めません。予め歩道に上がっておいた方が、無駄な足止めをされずに通行できます。



細街路との交差点で歩道を斜めに横切って沿道の駐車場に入る車の動き。


車道の停止線は自転車だけの前出し無し

仮に停止線を前出ししたとしてもせいぜい1〜2mが関の山ですが、歩道を通行する自転車は横断歩道の制約を受けないので、車道の停止線より遥かに前方で待機できます。この交差点の場合、歩道のアドバンテージは約10mです。左折車より先に横断歩道を通過できるので左折時衝突を回避でき、車道よりずっと安全です。

過去の関連記事


円阿弥交差点の次の信号交差点

ただ、歩道は広いですが歩行者と自転車の分離ができておらず両者が錯綜しています。



信号サイクル1.5回分ほどサンプリング

車道を通行する自転車も観察されますが、赤信号で停止線を冒進しており、歩行者を驚かせています。これなら自転車に歩道を走らせた方が安全では?


イオンモール与野前の歩道

県道215号は自転車利用者の多くが目的地とする大型商業施設(イオンモール)が立地しており、道路のイオン側は強い双方向通行需要が有ります。また、それに応えられるだけの幅員の余裕が歩道には有ります。


イオンの駐車場のメイン出入り口には複数の誘導員が配置されています。


幅広い年代の利用者が安心して通行できる空間

点字ブロックから車道側の部分を避けているのは共同溝の蓋の段差で乗り心地が悪いからでしょうか?

2016年10月12日追記{もしかして「共同溝」ではなく「電線類地中化ボックス」?


イオンの前から見た円阿弥交差点の方


同、車道側

交差点手前の右折レーンが付加されている区間では車道の幅員が足りず、自転車通行空間がまともに確保されていない事が分かります。


再び歩道視点

駐車場から出る車が横断する箇所が有ります(ここは出口専用)。


イオンの歩行者・自転車の出入り口

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イオン側から見た道路

駐輪場を出た正面は縁石が連続しており、自転車は車道と歩道を行き来できない構造です。車道端に引かれた矢羽根はイオン来店客の動線を全く考慮していないですね。これが矢羽根の利用率を低下させる要因の一つだと思います。画面奥に縁石の切れ目が有りますが、車道と歩道を行き来する時は縁石の段差を鋭角に乗り上げる形になり、乗り心地も安全性も低いです。イオンから出て右(円阿弥交差点の方)に向かうユーザーの事も眼中に無い。

県道215号と同じく沿道に大型商業施設(アリオ西新井)が有る足立区西新井の駅前通りの場合、両側の歩道上に双方向通行の自転車通行指定部分が有ります。迂回が不要で、アリオ西新井の駐輪場に出入りする際も縁石などの段差が一切有りません。どちらがユーザー・フレンドリーかは一目瞭然です(これはまだ記事化していませんが、戸田市議会議員の真木大輔さんにツイッターで説明した時に写真を添付したので、そのツイートを下に貼付けておきます)。

関連ツイート


あまり使われていない矢羽根

いちおう車道の矢羽根に沿って実走もしてみました。イオンに左折入場しようとする車を誘導員が待たせ、自転車の私を先に通してくれました。こういう場所では車道端を走る自転車も歩道通行の自転車と同じ優先通行権を持つものと見做して交通整理をしているみたいですね。


駐車場の出入り口でやっと縁石が途切れます。

その更に先に横断歩道が見えます。もし矢羽根(車道左側通行)に強制力が有るとすると、イオンを出て円阿弥交差点の方に行く自転車利用者は170mほど迂回をしなければなりません。更に円阿弥交差点で新大宮バイパスを横断して西に向かう利用者は、横断歩道が交差点の北側にしか無いので、余計な信号待ちが増えます。

さいたまスーパーアリーナの方からイオンに来店する場合は一度イオンの前を通過してその西の信号交差点でUターンしなければならないので295m前後の迂回です。

「それくらい迂回しろ」とか「押し歩きしろ」とか言う人がいますが、都市の交通生態系を俯瞰して、自転車を車より優位な交通モードにするという戦略的視点が無いですね。また子供乗せ自転車は押し歩きの方が(子供ごと自転車を横倒しにしてしまう恐れがあり)危険です。


道路反対側

車道を見ると、イオンの駐車場に反対車線から右折入場させないようにセンターライン上にボラードが密に立てられています。そして相変わらず不人気な矢羽根。


バスベイ


バス停の先の横断歩道

歩道と車道の間が植え込みで、その帯状空間が横断歩道の横では歩行者の滞留空間になっています(無信号の横断歩道なので歩行者が待つ必要は本来無いのですが)。ここを題材に、自転車通行空間の改善案を描いてみました。


だいたいこういう感じですかね。


先に進むと再び自転車通行空間が車に侵食されます。

アメリカにはsharrowという路面表示が有りますが、これは自転車と車の並走や追い越しが危険な狭い箇所で、自転車を車線の中央に誘導し、ドライバーに無理な追い越しをしないよう牽制する事も設置目的の一つです。ところが日本の矢羽根型路面表示は全く逆で、車道の横断面構成とは無関係に自転車を車道の端ギリギリに誘導し、ドライバーに危険な追い越しを唆す機能を持っています。

これまで全国各地で幹線道路にも矢羽根型路面表示が設置されてきましたが、(利用者に安心感を尋ねたアンケートは別として)客観的な事故リスクの変化について報告している資料を私は見た事が有りません。「自転車は車道通行が原則だから車道を走るべきなんだ」という循環論法のような信念に基づいて整備が進められているように見えます。


歩道橋から見た円阿弥交差点方面


密集して立てられたボラード

交差点構造は「車が優先」というメッセージを発していますね。


反対側はおとなしいですが横断歩道はこちらにも有りません。


細街路との無信号交差点

県道215号から縁石に沿って引かれていた車道外側線が消されていますが、県道215号を直進する歩行者・自転車と、細街路に出入りする車との優先関係が構造的、視覚的に明示できていません。特に、細街路に出入りする車が段差の無い同一平面を滑らかに通行できてしまうのは問題です。

抑速ハンプを設けるか、歩道を平面で連続させて車に段差を乗り越えさせる構造の方が安全である事は既に明らかになっています。車を強制的に徐行させる事で、衝突への反応時間に余裕が生まれ、万一衝突しても被害を軽減できるからです。

関連論文


大雑把ですが改修イメージ。左右の灰色部分がハンプを兼ねたスロープのつもり。

歩道橋を撤去すれば自転車通行空間も確保できそうです。


交差点のみ設置間隔が密になる矢羽根


歩道橋からさいたまスーパーアリーナ方面

右の歩道は中央の1/3くらいを植栽が占めていますね。


小学校の前なので、児童と自転車を分離する意図が有ったのかもしれません。

或いは元々有った樹木の保存の為?


やはり点字から車道側の部分は避けられている?

水道橋付近を題材にした先行研究では、自転車も歩行者も点字ブロックの凸凹を嫌ってその上を避けて通行している事が報告されていますが、共同溝の蓋も似たような効果が有るのかも。

関連論文
  • 杉本 篤・岸井隆幸(2003)「自転車歩行者道の「分離」に関する研究」『第23回 交通工学研究発表会論文報告集』


バス停の構造

バス停部分は写真のように歩道を抉り取るのではなく、逆に張り出して乗降空間にすれば、歩道側に自転車用のバイパス通路を余裕で設けられますね。


路上駐車している原付とその横を通過する大型車(右側車線)

もしこの場面で自転車が矢羽根に沿って通行していたらどうなるでしょう? 原付をよけて車道中心側に膨らんだ自転車とのニアミスや衝突を大型車は回避できるでしょうか? 大型車のドライバーの中にも、危険予測が甘く、自分の車の速度を削がれたくない、対向車とぶつかるのも嫌だ、と自転車の横スレスレを追い越す人がいるので信用できません。




右折車線の付加区間は車道幅員が少し広がる県道215号

交差点手前で自転車と車が横並びになった時の側方間隔から言えば不適切ですが、中途半端に車道幅員に余裕が有る事で市の担当者が「矢羽根を設置しても大丈夫だろう」と判断したのかもしれません。






数は少ないですが、この路線でもやはり路上駐車が発生していますね。


交差点の近くでは、路駐追い越し中に対向右折車と正面衝突するリスクも有り、ここで自転車と車の多重追い越し状態になると非常に危険です。右折車線が完全に無くなるまでの区間だけでも駐停車禁止にすべきです。






実走してみると分かりますが矢羽根の塗料の厚みが小さな段差になっているので、ママチャリの低圧タイヤでも地味に乗り心地が悪いです。


その先で県道215号は川を渡ります。これは2016年4月。


2015年11月の同じ場所


歩車分離式の信号交差点

交差点の北西の角がスーパー(マルエツ与野店)という事も有り、殆どの自転車は歩道を通行しているので、交差点は歩行者用信号に従って横断しています。車道から交差点に進入する場合は矢羽根に沿って通行する事になりますが、車との側方間隔がギリギリになります。


特に大型車相手だと矢羽根に沿った通行は危険すぎます。

全てのドライバーが的確な危険予測をして、自転車を安全に追い越せる状況になるまでおとなしく車間距離を取ってゆっくり追走する、なんていう甘い想定はできません。

ここの矢羽根は自転車利用者とドライバーの双方に不安や緊張、焦りや苛立ちを生み出す装置になってるんじゃないでしょうか?


県道215号の直進フェイズの後、右折フェイズが来て、


交差道路が青になって、


歩行者用が全方向同時に青に(ここも魚眼で撮るべきだった)。

この点灯パターンを利用して交差点を斜め横断する自転車利用者も多かったです。オランダ北東部の都市フローニゲンで採用されているtegelijk groen (simultaneous green) と実質的に同じです。写真の場所は短時間見ただけなので、斜め横断が上手く機能しているのかどうかはよく分かりませんでした。

関連記事(前者がtegelijk groenに肯定的、後者が否定的な意見の記事です)


交差点の先はちょっとした上り勾配

自転車と車の速度差が大きく開くので、矢羽根のような不完全な通行空間は望ましくない環境です。


中山道の手前の信号交差点

沿道の駐車場に出入りが有るからか、共同溝の蓋が一際荒れています。


水溜りになった蓋

コンクリートの上に砂利を薄く貼り付けたような造りですが、ボロッボロに剥がれています。


剥がれた砂利が点字ブロックの上に散乱しています。


普通のブロック舗装の部分にも水溜りが。


車道の矢羽根もたまには使われています。

写真は有りませんが、普通のママチャリで矢羽根に沿って走る利用者もパラパラとは見掛けました。恐らく朝の通勤時間帯は途中のスーパーなどに寄り道しないでしょうから、車道通行率はもう少し高いでしょう。

矢羽根の整備は写真の先に見えている八幡通り交差点までのようです。交差する中山道は規制速度こそ低いですが、車道の見掛けは完全に車専用の高速通行空間という趣きなので、車道を通行する自転車は極めて例外的です。

中山道から見た県道215号との交差点


歩道は広く取ってあります。


車道を走る自転車もいなくはないですが、


車線幅の余裕が一切無いのでこんな感じになります。


この環境でどちらを選べと言われたら、


普通の感覚なら歩道ですね。

ちなみにこの道路、停車帯が無いのに駐停車が禁止されておらず、写真のように車を停めて(奥の白と手前の紺、2台ともです)沿道にアクセスする人もいます。規制速度が40km/hなのに線形が良すぎるのも問題(将来、規制速度を60km/hとかに引き上げるつもりなのかも)。

速度が高い幹線道路で停車空間も用意せずに走行空間上での停車を容認するなんて、ドライバーに追突事故を起こさせたいのかと疑いますね。機能と構造がちぐはぐな日本の道路を端的に表わした一枚になりました。