2019年3月24日日曜日

青山一丁目交差点:車最優先の皺寄せを受ける自転車

前回の記事「都道319号 青山霊園付近の自転車道・自転車歩行者道」で紹介した区間のすぐ先にある交差点です。



青山一丁目交差点は国道246号の右折車と都道319号の左折車を同時に流すという、車の交通容量を最優先した信号パターンの交差点で、自転車の通行は全く考慮されていません。



南側の歩道橋から見た青山一丁目交差点(2017年3月に筆者撮影)


安全上やむを得ない待機位置(写真の乗り物は自転車ではない)


無事に交差点を通過できても路上駐車が立ちはだかる。自転車ナビマークは車体の下に隠れている。

無責任な自転車ナビマーク

この交差点を都道319号から直進しようとすると、
  • 左折車が先に動き出すため第1車線での待機は不可能(初見では判断不能)
  • 交差点流出部(北側)の路上駐車に進路を阻まれる
などの困難に見舞われます。

にも関わらず、警視庁は杓子定規に車道左端に自転車ナビマークを設置して(*)自転車を車道に誘導するだけで、直進する場合に交差点内をどのように通行すれば安全なのか案内するのを放棄しています。

* 2017年3月当時は319号のナビマークは交差点より北側の区間だけだったが、現在は南側にも設置されている。


そもそも幹線道路の自転車ナビマークは、元から車道を走っていた一部の自転車利用者に僅かでも安心を提供できればそれで良いという位置付けで許容されているにすぎず、事故の不安から歩道を選んでいた自転車利用者まで車道に引きずり下ろすのに使って良い代物ではありません。この件については次の記事に詳しく纏められています:

Anonymous. 2017. “警視庁の自転車ナビマーク:自転車の車道走行誘導政策.” サイクルプラス「あしたのプラットホーム」. June 10, 2017. http://blog.livedoor.jp/ashitanoplatform/archives/70883501.html.


ナビマークの設置で車道通行を促進しようとするなら、信号パターンを変更して左折車と直進自転車の交錯を解消すべきですし(モデル事業の国道15号・札の辻交差点では実施された)、それができないなら、歩道を通行する自転車利用者が「自分も車道を走らなければいけない」と誤解しないように、
このナビマークは、車道通行のリスクを十分理解して自己責任で走る人のために設置されたものです。その利用によっていかなる損害が生じても警察は責任を負いません。
のような注意書きを掲示しても良いくらいです。それをせず、ただ単に
  • 車道通行原則を周知できれば良い
  • 東京オリンピックまでに整備延長の実績を稼げれば良い
などと考えているのであれば無責任です。


一般の自転車利用者の方へ

このような幹線道路の車道に自転車ナビマークがあっても、それに従う必要は全くありません(マークに法的効力は無い)。危険だと感じたら無理せず歩道を通行してください。警察は道路交通法17条の車道通行原則を強調してきますが、

ナビマークが設置された青梅街道で、歩道を通行する自転車に対して車道に降りるよう、
警察が街頭指導を行なったというニュース(出典:NHKニュース 2017年3月1日)

それは幹線道路で安全上必要な自転車道がほとんど整備されていないという状況を無視した暴論です。本来なら道路構造令に基づいて整備されているはずの自転車道が存在しないから17条が発動してしまう。謂わば道路交通法のバグです。そのバグへの応急処置として63条の4という修正パッチが追加され、歩道通行が認められているのです。

道路管理者が本来の義務を果たし、車から保護された自転車通行空間を整備するまで待つのが賢明です。警察の話を真に受けて命を危険に曝さないでください。自転車ナビマークは漫然運転をするドライバーからあなたを守ってはくれません。


交差点のデザイン

都道319号も青山霊園付近の単路には自転車道が整備されましたが、他の幹線道路との大きな交差点をどのように改良すれば良いかについても触れておくべきでしょう。

不都合を隠した標準設計

日本では、自転車活用推進研究会からの組織的な圧力運動もあって、自転車に車道左端の延長線上を直線的に通行させる交差点デザインが望ましいとされており、その設計例が国土交通省と警察省のガイドラインに掲載されています。

2012年の初版ガイドライン(p.II-39, pdf p.71)の図をトリミングし、
路面表示が見やすいように色調を調整した。2016年の改定版の図も初版とほぼ同じ。

国土交通省道路局, and 警察庁交通局. 2012. “安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン.” https://web.archive.org/web/20121208224555/http://www.mlit.go.jp/road/road/bicycle/pdf/guideline.pdf.


しかし現実には、矢羽根に沿って直線的に通行できるのは赤信号の間に先頭で待機していた数台の自転車だけで、ひとたび左折車が動き始めて矢羽根が塞がれると、後から来た自転車は横断歩道に迂回したり左折車の間をすり抜けるなど、動線が乱れに乱れることが分かっています:

Anonymous. 2014. “自転車ナビライン千石交差点の資料を検証する(1) 恣意的な国交省報告.” ランキング日記. November 29, 2014. https://otenbanyago.at.webry.info/201411/article_1.html.


モデル事業の一つである千石一丁目交差点では、事故の集計期間を恣意的にズラすことで、整備後に事故が減ったかのように見せ掛ける工作も行なわれました:

Anonymous. 2015. “千石交差点 不可解な自転車事故の減少.” ランキング日記. February 15, 2015. https://otenbanyago.at.webry.info/201502/article_4.html.

Protected intersection

国土交通省が統計を誤魔化してまで直線化に拘り、欠陥デザインの普及へと突き進んでいた頃、海外ではオランダの交差点設計に注目が集まっていました。



この動画は、2011年に発表されたアメリカの新しい設計指針の問題点を指摘しつつ、オランダの交差点設計の要点を解説したもので、英語圏の諸国に大きな影響を与えました。

2014年にはアメリカのデザイン事務所に所属するNick Falbo氏がオランダのノウハウを取り入れた交差点構造、protected intersectionを提案し、早くも翌2015年にはデイヴィスで試験導入に漕ぎ着けます。2016年には導入箇所が12を数え、カナダも含めた北米各都市に広がりつつあります。


Protected Intersections For Bicyclists from Nick Falbo on Vimeo.

Andersen, Michael. 2016. “The U.S. Now Has 12 Protected Intersections, up from 4 in 2015 and 0 in 2014.” PeopleForBikes. December 29, 2016. https://peopleforbikes.org/blog/the-u-s-now-has-12-protected-intersections-up-from-4-in-2015-and-0-in-2014/.


日本の現行ガイドラインの設計も、自転車専用信号を設置して左折車と直進自転車を完全分離する信号パターンで運用する限りはそれほど悪くないかもしれませんが、
  • 停止線の位置が車と変わらず、発進時のアドバンテージが無い点
  • 二段階右折の待機場所が分かりにくく安心感も低い点
  • 青信号を待たずに左折できるバイパス機能が欠如している点
などでオランダ型より劣ります。安心・安全で利便性も高いのは、やはりオランダ型の交差点デザインです。