2012年11月9日金曜日

ラウンダバウトの危険性

日経新聞電子版で中嶋一貴さんのコラムが好評な様です。

「なぜクルマを運転する機会が減ったのだろう」と題して
日本とヨーロッパの道路の違いを取り上げ、
もっと運転が楽しくなるような道路なら日本の自動車産業も
上向くのではないかという内容でした。

さて、その中でラウンダバウト(roundabout, rotary, 環状交差点)の
利点について言及が有り、車好きな読者諸氏は
さぞ気勢を上げたのではないかと思います。

ただ、安易な導入はちょっと考え物です。
まずはこの映像をご覧下さい。


ラウンダバウトを通行する自転車




この種の事故リスクを前にすると、ラウンダバウトの導入には
その利点と欠点を慎重に見極めなければならない事が分かります。


そこで、ネットから適当に掻き集めてきた各国の事例を
読んでみる事にします。


まずはニューヨーク州のTimes Union新聞が2011年に書いた記事から。

ドライバーや交通の専門家は
ラウンダバウトが従来の交差点より優れていると言いますが、
導入後に事故が増加した事実からは、徐行と警戒の重要性が分かります。 
ラウンダバウト(写真は元記事から)

// 以下要約(ところどころコメント付き)

二車線型のラウンダバウトでは全体の3/4地点で衝突事故が増加した。
一車線型のラウンダバウトでは、州が建設した交差点では事故が減少したが、
郡、市が建設した交差点ではほぼ全地点で増加した。

乱暴なドライバーはラウンダバウト進入時に減速せず、
他車両の優先通行権を侵害する。

// 日本でもやる人が出そうですね。

マルタ(ニューヨーク州)のラウンダバウトの一つでは、
衝突事故が導入前の年平均7.8件から導入後に45.7件に増加した。

ラウンダバウトでの事故は信号付きの交差点より軽微で済む事が多い。
側面衝突(T-bone crash)は起こり難く、接触や追突が多い。

// これは車同士の場合です。自転車の場合は上の映像の様に
// 深刻な衝突形態になるリスクが有ります。

沿道のレストランオーナーの話では、
「ラウンダバウト化後は渋滞が大幅に解消されたが、
一日中クラクションの音が聞こえる。」

地元のドライバーの一人は
「自分は何とかラウンダバウトに慣れたが、
まだルールを把握していない人が多い」と言う。

ベスレヘム(ニューヨーク州)のラウンダバウトでは
片側一車線だったのを渋滞解消の為に片側二車線にしたところ、
ドライバーがラウンダバウトに高速で進入する様になった。

// 欲張って多車線にすると駄目みたいですね。

いずれの交差点でもラウンダバウトは導入直後なので、
今後ドライバーの適応と共に事故が減るかどうかは分からない。

米運輸省の話では、「過去五年間の間だけでも
ラウンダバウトの設計と運用に関して学ぶ事が沢山有った。
問題を起こしているラウンダバウトを今再び設計するなら、
相当違った形になるだろう。」

// アメリカではまだ技術が熟れていない様です。
// 日本が導入するならどの国をモデルにするか
// 慎重に見定めないといけませんね。

また米運輸省の事故調査では、事故を起こしたのは
高齢者や他地域から来たドライバーではなく、
「ラウンダバウトに慣れた地元の25~50歳の人で、
彼らはスピードを出し過ぎたり不適切なレーン選択をしている。」

// あれ、慣れると却って事故リスクが増してる?

米運輸省の広報担当官は、
「ドライバーが標識やスピード、優先通行権を意識して
運転すれば、事故は減らせる」と話している。

// ドライバーは規制標識なんか見ませんし、
// 視覚による速度認知の誤差も酷いものです。
// 道路設計は人間のこういう特性まで織り込まないと駄目です。


記事全体としては、
渋滞解消の為にラウンダバウトは歓迎できるけど、
スピードの出し過ぎと他車の優先権には気を付けようね
って感じですね。

歩行者というものが全然出てこない辺り、
大変アメリカ的です。



はい、次。



イギリスの登録慈善団体、London Cycling Campaign が
交差点の改修案に反対して2012年10月に書いた記事。

ランベス橋のラウンダバウト再設計はオランダ方式で

私たちはロンドン交通局が出した不適切な案ではなく、
オランダ方式のラウンダバウトを求めています。
オランダ方式 (写真は元記事から)


// 以下要約

ラウンダバウトの現在の構造(広い二車線と中央の小さな安全地帯)は
車のスピードを上げさせ、自転車の通行が頻繁なこの地点で
衝突事故が多い原因になっている。

現行の二車線構造を温存すると
自転車にとって通行が難しく危険なので、強く反対する。

// 交通局の案では車線数は削減しない事になっています。

交通局の「二段構造」案にも反対する。
この案では「臆病な」自転車は歩道を通り、
「勇敢な」自転車は危険を我慢して車道を通る事になっている。
これは、車道の改善もせず、自転車に特化した方策も取らないで
言い訳だけしている様に聞こえる。

// なんだか疋田さんと東京都建設局の対決構図と似てますね。

地元のサイクリストは、「交通局案の『車道の路面に青ペイントを施して
ドライバーが自転車を意識する様に促す』や『ラウンダバウト周辺の歩道を
歩行者と自転車の共用空間にする』は馬鹿げている」と訴える。

「本当に必要なのは自転車だけのレーンという分離システムで、
こうすれば歩行者とぶつかったり車に殺されないで済む。」

オランダではラウンダバウトは入口、出口とも一車線で
コーナーもきつく、車の流れを劇的に遅くさせている。
またラウンダバウトの外周に自転車専用のレーンが有り、
自転車には車より高い優先権が与えられている。

// このタイプのラウンダバウトは
// 以前オランダ旅行をした時に貸し自転車で体験しました。
// ただ、交差点の全容や方角を把握しにくくて大変だったので、
// 自転車の安全性までは気が回りませんでした。

ランベス橋交差点は交通局にとっても運輸省にとっても
オランダ型を試す絶好のロケーションだと思う。
このタイプが全ての道路利用者にとって安全で便利だと分かる筈だ。

交差点に接続する道路はどれも元から一車線なのだから、
ラウンダバウトの出入り口を一車線化しても
大した渋滞は起こらないだろう。

それに出入り口には既に横断歩道が有るから、
ドライバーはここで交通弱者を優先するのに慣れている。

// だから自転車レーンをここに設置するのが合理的と。
// ただ、日本のドライバーは信号の無い横断歩道では
// 99.99%が歩行者に道を譲らない印象が有ります。
// 車が途切れない地方都市の朝ラッシュなんかだと、
// 歩行者はまともに歩けなくなりそうです。

妥協案としては、もっと単純なヨーロッパ型のラウンダバウトを
設置する事が考えられる。車線は狭く、コーナーはきつくして
スピードを抑えさせ、車線の分離は行なわない。

この案は英国の指針や規則の枠内で簡単に実現できるし、
交通局案とほぼ同じコストで作れる。

という事で、実際どの程度事故が起こっているのか数字が出ていませんが、
碌に考えずに導入すると利用者から猛反発を喰らうという例でした。

また、日本の低級な車文化を考えると、ラウンダバウトの導入は
今以上に車の権益を拡大するだけで、他の道路利用者に
危険と不便を強いるものになる予感がします。



あともう一つ。




デンマークで行なわれた交通事故の統計研究を見てみましょう。

ラウンダバウトの構造特徴がサイクリストの事故率に及ぼす効果
『事故の分析と予防』 第39巻2号、2007年3月、pp.300-307
Tove HelsさんとIvanka Orozova-Bekkevoldさん


概要部分だけ訳します。

ラウンダバウトは従来型の交差点より交通事故が少なくなる事で知られている。
しかしこれは車にとってであり、自転車にとっては然程正しくない。

// アメリカでは寧ろ多くなりました。

この論文ではポワソン回帰とロジスティック回帰による分析で、
サイクリストの年間事故率に対する、ラウンダバウトの幾何学形状、
使用年数、交通量(車と自転車)の関係を統計的に記述する事を目的とする。

// 古いラウンダバウトが危なそうだという事が
// 感覚的に分かっていたんでしょうね。

我々は、デンマークのオーデンセ町病院の救急部門が
1999年から2003年に記録した全ての自転車事故(N=171)を、
デンマークのフューネン島の全ラウンダバウトの
幾何学的特徴、使用年数、交通量と関連付けた。

自転車と車の通行量は、我々のモデルの大半で有意な予測因子
となる事が分かった。つまり、交通量が多いほど、事故が多い。

// そりゃそうだ。

更に、車のpotential速度やラウンダバウトの使用年数も有意な
予測因子となった。つまり、古いラウンダバウトほど事故率が高かった。

// 研究者の予想通りでした。「古い」というのは構造設計? 状態劣化?

48件の単独自転車事故を除外すると、事故に対する、
車と自転車の通行量及び車のpotential速度の関係が強くなった。

これは複数の主体が関わった事故での速度と交通量の有意性を強調する。

48件の単独自転車事故は自転車のみの交通量と有意な関係が有った。

我々が観測した事故事例は限られている為、
このモデルは示唆的なものと捉えるべきである。

// 残念ながら、この論文では
// 従来型の交差点との比較は語られませんでした。



さて、最後に再び冒頭の日経新聞の記事を読むと、
影響力のある人が随分と無責任な事を書いているなあという印象を受けます。

記事のコメント欄に「よくぞ言ってくれた」的な
読者投稿が殺到していて不安になります。

記事を掲載した日経も日経で、車が売れるか売れないか
しか考えてませんね。経済新聞だから仕方ないか。



私自身は今の所、
ラウンダバウトの導入には賛成でも反対でもありません。
ただ、導入するとなったら

  • 通過車両のスピードを落とさせる構造である事
  • ドライバーが自転車や歩行者を確実に視認できる構造である事
  • 弱者保護と弱者優先の原則を徹底する事

の三点は必ず押さえて欲しいと思います。