「(ボトルゲージじゃなくてボトルケージ!)」と内心突っ込んでいる全国の皆様、ごきげんよう。
今回はこの間違いが生まれた原因について考えてみました。
本題に入る前に念のため確認しておくと、
ボトルケージ
これがケージ(cage)で、
プレッシャー・ゲージ(圧力計)
こちらがゲージ(gauge)。
リアディレイラー・ケージ
これがケージ(cage)で、
ディレイラー・ハンガー・アラインメント・ゲージ
こちらがゲージ(gauge)です。
用例数
まずは用例数をGoogleで検索してみました(2016年4月21日現在、以下同)。
- ボトルケージ 536,000件
- ボトルゲージ 244,000件
- ディレイラーのケージ 1,240件
- ディレイラーのゲージ 617件
- ロングケージ 18,800件
- ロングゲージ 6,580件
- ショートケージ 30,900件
- ショートゲージ 9,530件
しかし「ディレイラーケージ」では何故か
- ディレイラーケージ 1,550件
- ディレイラーゲージ 87件
自転車以外の分野
そもそも「ケージ」を「ゲージ」と言い間違えるのは自転車界隈に限った現象なのでしょうか。調べてみると他の分野にも同様の言い間違いが見付かりました。
ゴルフ
- ゴルフケージ 4万0400件
- ゴルフゲージ 8680件
ペット飼育
- ペットケージ 34万2000件
- ペットゲージ 32万0000件
野球
- バッティングケージ 6万5400件
- バッティングゲージ 13万5000件
分野によって誤表記率がかなり違います。正しい語形に触れる機会の多さや、間違いを指摘する事の心理的な敷居の高さが違うのかもしれません。
言い間違えの理由(消極的原理)
ではなぜ「ケージ」を「ゲージ」と言い間違えるのか。まずは消極的な原理として思い浮かぶものから。
耳馴染みの薄さ
清音と濁音の取り違えはどんな単語でも起こっているものの、普通は話し手、書き手が直ぐに気付いて修正しています。日常的な語として完全に定着している「ケース」を例に「スマホケース」で調べてみると、
- スマホケース 24,300,000件
- スマホゲース 9件
競合する同音語の不在
「ケージ」を「ゲージ」と言い間違えても他の同音語と競合しないのであれば意思疎通に支障は無いので、間違いだと気付いた人もわざわざ指摘しないでしょう。ゲージ単体では自転車で使う他の道具の名称と競合しますが、「ボトルケージ」のように複合語の要素としてなら誤解の余地はありません。「ディレイラーのケージ」のように文脈から明らかな場合も同じです。
言い間違いの理由(積極的原理)
ランダムに起こる間違いがそのまま定着したのではなく、話し手、書き手の能動的な意志で「ゲージ」と言っている可能性も有ります。
過剰修正
「デスクトップ(desktop)」を(「ディ」が発音できない日本人が「デ」で置き換えたのだと誤解して)「ディスクトップ」と言ってしまうあれです。英語と日本語、共通語と方言、古語と現代語などの間で発生します。
自転車界隈では「トー・ストラップ(toe strap)」を「トゥー・ストラップ」と言ってしまうのがその一例かもしれません(単純に"shoe"からの類推という可能性も有りますが)。
しかし、「ボトルケージ/ボトルゲージ」の場合、「ケー」も「ゲー」も元から日本語の音声として普通に使われているものなので、過剰修正が作用したと考えるのは苦しいですね。
連濁
もう一つ考えられる原因は複合語の連濁です。
- 古狸(ふる + たぬき → ふるだぬき)
- 隠れ里(かくれ + さと → かくれざと)
- 燕返し(つばめ + かえし → つばめがえし)
- 一番星(いちばん + ほし → いちばんぼし)
日本語に深く浸透した語は漢語でも連濁する事が有りますが、
- 水鉄砲(みず + てっぽう → みずでっぽう)
- 株式会社(かぶしき + かいしゃ → かぶしきがいしゃ)
- 隠れキリシタン → ×隠れギリシタン
- LANカード → ×LANガード
また、複合語ではなく「の」で繋いだ名詞句の中でも「ゲージ」と間違えた例が見られるので、
- 犬のケージ 163,000件
- 犬のゲージ 95,900件
ちなみに
「ケージ」の「ジ」を無声化した用例も少数ながら見付かりました。
- ボトルケーシ 245件
- ボトルゲーシ 10件
- ドッグ → ドック
- ベッド → ベット
- バッグ → バック
- ページ → ペーシ