日本では自転車道(や歩道上の自転車通行空間)が幅員 2.0 m で建設されることが多いです。これらは道路構造令の最低基準(10条3項)を機械的になぞったものと思われます。
しかし、道路管理者が有効幅員 2.0 m のつもりで設計した自転車道の【体感的な】幅員は、柵や縁石からの圧迫感がある分、物理的な幅員より狭くなりがちです。
物理的な幅員と体感的な幅員の違い
京葉道路、亀戸駅前の自転車道の場合、
- 車道側の横断防止柵で -0.325 m (*)
- 歩道側の縁石で -0.125 m (*)
* 値の根拠はオランダの自転車インフラ設計指針の現行版 CROW (2016) Design manual for bicycle traffic, p.49
オランダの設計基準から見た亀戸の自転車道
そもそも、道路構造令が示す「二メートル」という最低基準 (*) は自転車道を双方向通行で運用するには狭すぎます。前述の CROW (2016:237) が示す最低幅は 2.5 m(自転車のピーク時交通量が0〜50台/hの場合)です。
* 道路構造令は「やむを得ない場合においては、一・五メートルまで縮小することができる」と付け加えていますが、これは論外です。現実にはすれ違い不能で、どちらかの自転車が自転車道の外にはみ出すか、狭い区間を交互通行する形になります。恒久的なインフラに工事現場の簡易通路のような水準を容認するのはやめてほしいですね。
加えて、亀戸では自転車交通量がピーク時に「約200[台/時]程度」(*) に達するとされているので、 CROW (2016:237) 基準に照らせば 3.5〜4.0 m が必要になります(同じ交通量なら一方通行の場合でも 2.5〜3.0 m)。道路構造令の最低基準では全く足りません。
* 宮原ゆい and 兵藤哲朗 (2009) ‘画像処理技術を用いた亀戸自転車道の利用実態の分析’, 土木計画学研究・講演集(CD-ROM), 39, p. 365.
亀戸の自転車道の実効幅は望ましい幅の半分未満
以上をまとめると、亀戸の自転車道は
- 物理的な幅員で 1.5〜2.0 m 不足
- 心理的な余裕幅で 0.45 m 不足
設計基準の欠陥
亀戸のような狭すぎる自転車道が整備される原因の一つは設計基準の欠陥でしょう。自転車道に関連する「道路構造令」、「自転車道等の設計基準」、『自転車道等の設計基準解説』には、
- そもそも最低幅員の水準が低すぎる(双方向通行の場合)
- 自転車交通量の多寡に応じた幅員の決定方法が不明瞭
- 圧迫感を考慮した建築限界が明確に定義されていない
設計基準として未完成な上、肝心な部分を実務者に丸投げする内容なので、それを読む人間の能力差を平準化するマニュアルとして成立していません。これでは現場が面倒がって最低基準値の 2.0 m を濫用し、欠陥インフラを蔓延させるのも当然です (*)。
* ただでさえ自動車の交通容量の維持・拡大を無意識的に優先しがちなのですから。
亀戸にあり得たもう一つの空間配分
自転車道の整備以前、亀戸駅前の京葉道路の車道は2方向 × 4車線でした (*)。
* 小松武弘 (2008) ‘道路空間の見直しによる自転車道整備について’, 国土交通省国土技術研究会報告, 2008, pp. 96–99.
整備前の横断面(幅員は江東区の道路台帳を参考にした大まかな近似値)
両端の車線は事実上の駐車スペースだった
両端の車線は事実上の駐車スペースだった
もしこれを素直に
- 第1車線→自転車道
- 第2車線→停車帯(と乗降時の安全地帯)
- 第3車線→通行帯
- 第4車線→通行帯
余裕を持たせた無理のない横断面構成
自転車道は少し狭いですが、柵の圧迫感が和らぐように余白を取れています。停車帯もドア開閉や乗り降りの空間を確保できています。通行帯は上下線とも(形式的には2本ずつ、実質的には1本ずつ)減りますが、それは現実の整備後の構成でも同じです。
出し惜しみの結果、全てが中途半端に
ところが東京国道事務所は、通行帯を失うことによほど抵抗があったのか、第1車線を
- 自転車道 2.0 m
- 停車帯 1.5 m(実際は柵の分で削られて 1.5 m 未満)
この結果、
- 自転車道は狭すぎる
- 停車帯は荷捌きトラックの車体が収まらない
- 第1車線は駐停車車両のはみ出しで走行空間として機能不全
特に改修後の第1車線は、第2、第3車線の渋滞を横目に走り抜ける小型車やバイクが、
- 駐車車両から降りてきた乗員
- 車道を横断しようとして駐車車両の影から出てきた歩行者
中途半端に塞がった第1車線を走り抜けるバイク
(以前の記事で使った写真のコントラストを和らげて再掲)
横断歩道ではない場所で車道を横断する歩行者
関連記事
サイクリストの挙動を考慮した自転車道の幅員
だいぶ前に書いた記事です。亀戸の現地で観察した自転車の走行位置(柵からの距離)やふらつき幅に基づいて、望ましい自転車道の幅員について検討しました。