2014年5月16日金曜日

サイクリストの挙動を考慮した自転車道の幅員

2.0m幅の自転車道

自転車道の幅員は
「2台の自転車が物理的に収まる」
というだけでは不充分です。



上の図は2.0m幅の自転車道でサイクリストが
どこを通行しているかをCADで描いたものです。通行位置は
私が過去に亀戸で調査した自転車道の利用実態を元にしています。

亀戸駅前自転車道の利用実態調査

図では自転車の車体中心が自転車道の左端から0.75m離れていて、
サイクリストの右腕が自転車道の中心から反対側にはみ出しています。
(調査結果では標本数93台の平均が0.73m、標準偏差が0.16でした。)

自転車道を走る自転車の速度は10〜20km/h程度ですが、
それでも端からこれくらい離れて走っているのが実態です。
私はこれを、縁石や柵にぶつかる不安の現われと解釈しています。


2.0m幅の自転車道でのすれ違い


図面の上では、自転車道の幅は2.0mも有れば
難無く追い越しやすれ違いができるように見えますが、
低速の自転車であっても「端から0.75m」が定位置でしたから、
上の図のように「端から0.5m」に寄らざるを得ない状況では
縁石や柵に衝突する不安感が強まっている可能性が有ります。
少なくとも私はそうです。

また、後述のように自転車のフラ付き幅を考慮すると、
平均的なサイクリスト同士でもタイミング次第では
すれ違い時に肘と肘が接触します。
(右肘同士の間隔0.3m、平均フラ付き幅0.3mとして。)


自転車のふらつきを考慮すると2m幅では足りない

自転車は左右にフラ付きながら走る特性が有るので、
その分も考慮すると2m幅では全く足りません。

上の図ではフラ付き幅を0.64mとしていますが、
これでは片方の自転車が自転車道の外に半分くらい
はみ出さないと安全にすれ違いできません。

(0.64mという数字は亀戸調査の95パーセンタイル値です。
平均値は0.29m、標準偏差は0.18ですが、道路は様々な利用者が
使うものなので平均値で考えるべきではありません。
また、亀戸の調査地点は平坦な道路でしたが、
上り勾配では速度が低下するのでフラ付き幅は更に拡大します。)


自転車通行指定部分(薄灰色)でのサイクリストの挙動

上の写真は自転車道ではなく歩道上の自転車通行指定部分です。
柵や縁石など、回避幅の制約になる構造物が有りません。
こういった場所での通行実態を見れば、すれ違い時の衝突の不安を
解消する為に、本来どれほどの間隔が必要なのかが良く分かります。


3.0m幅の自転車道

以上のように、柵や縁石からの心理的な安全マージンや
自転車のフラ付き、自転車同士の衝突の不安を考慮した場合、
自転車道の最低限の幅員は3.0mが適当なのではないかと思えます。

なお、一方通行の自転車道であっても、
追い越しが頻繁に発生するような状況なら
双方向の自転車道と同等以上の幅員が必要です。

(対面すれ違い時は互いに視認できているが、
追い越し時は前走車が後続車に気付かず
突然方向転換したりフラ付いたりする恐れが有る為。)


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さて、ここまでは低速の自転車のみを考慮してきましたが、
自転車道はクロスバイクやロードバイクの通行も考慮する必要が有ります。
劣悪な自転車道を嫌って敢えて危険な車道を走る自転車が出るのは、
サイクリストにとってもドライバーにとっても望ましい状況ではないからです。

劣悪なインフラが招く危険

30〜50km/h程度の中・高速域で安心して走行するのに必要な
安全マージンについては調査や論文が見当たりませんが、
私自身が2.0m幅の自転車道(かえで通り)を30km/hで走ってみた印象では、

30km/hで走行すると2m全部が必要

自転車道の幅員を目一杯に占有してギリギリという感じでした。
当然、走行位置は自転車道の中央です。これを単純に2倍にすると、

4.0m幅の自転車道

こうなります。自転車版の高速道路ですね。

ちなみにオランダには5.5m幅の自転車専用道が実在します。
車道のネットワークとは完全に独立していて、交差点も殆ど有りません。
High Speed Cycle Route Hattem – Zwolle

こうした高規格な自転車道は何もスポーツ自転車のみに
利するものではありません。

ママチャリや小学生の自転車でも
下り坂では軽く30km/hくらい出るので、
歩行者の横断が少ないとか見通しが確保できるなど、
道路環境が許す限りは自転車道の高速対応を検討すべきでしょう。

「スピード落とせ」の警告を乱発するより
安全にスピードを出せる構造にした方が
サイクリストにとっては快適なので。

(そしてその快適性が自転車の魅力に繋がり、
モーダルシフトを後押しする原動力になります。)