『成功する自転車まちづくり〜政策と計画のポイント〜』
初版第1刷、学芸出版社
を読みました。
嘘は言ってないけど
現実を正確に伝えているわけでもない本でした。
p.132
(3)自転車専用レーンに駐車するか?
仮に車道内で専用空間を設ける場合に、その専用空間に違法駐車がある可能性があり、せっかく設けたレーンを安全に走行できないとする意見が強い。すなわち、専用レーンは意味がないとするものである。
しかし、最近のアンケート調査で、物理的に分離せず、単に色を濃く塗り、駐車禁止を明示する看板を立てた自転車専用レーンの場合の駐車の可能性の有無を質問した。「色彩と看板のみの自転車専用レーンにあなたは、駐車しますか」というアンケート調査を、車で来店している人が多い商業施設の約300人とその施設が立地している駅前の駐輪場の利用者約530人に対して実施した。アンケートの結果このような派手な色塗りで、注意看板もしっかりあるような場合、「絶対駐車しない」「駐車しない」「ほとんど駐車しない」を会わせると、97%が駐車しないと答えている(図3•23)。
控えめに見ないといけない部分があるが、重要な点は、少なくともほとんどの人は、専用レーンが明確に表示してあることで、他の人に見られてすぐわかる場所の駐車には抵抗感は持っていることである。しっかりと広報啓発すると、心理的には駐車を相当しにくくなる。行政がしっかりとその気持ちの後押しをするような注意をすることで、違法駐車は、ゼロにはならないが、相当程度防止することができる。ある地区では、明瞭な青色の自転車専用レーンの設置により、設置後の環境がよくなったとする報告がある(図3•24)。
ここで問題なのは「どこでアンケートをしたのか」という事です。
p.132
図3•23 自転車専用レーンがある場合の駐車の有無
※来街者は、ほとんどの回答者が車での来街である
(出典:「柏の葉キャンパスタウン来街者・駅前駐輪場
利用者へのアンケート調査2009」より筆者作成)
柏の葉キャンパス。
つくばエクスプレスと共に開発された旧東葛飾郡の新興都市ですね。
あの辺は土地だだ余りで、どの店も自前で駐車場を持ってるのが
当たり前じゃありませんでしたっけ?
そんな地域の住民にアンケートしても大都市には参考にならないでしょう。
また、自転車レーンを通るサイクリストにとって問題なのは
路上駐車に限りません。自分が通るその時その瞬間に
レーン上を塞ぐ車がいるかいないかが重要なので、
乗り降りや積み降ろしの為の数分の停車も困るんです。
(私自身はそれほど困りませんが、車道に不慣れなサイクリストや
老人、子供の自転車には厳しいでしょう。)
アンケートはこれを尋ねていません。
2015年11月21日追記{
改めて古倉(2010, p. 132)を読み返していて気付いたんですが、このページの記述には他にも幾つか注意すべき点が有りますね:
1. アンケート回答者の属性が偏っており、ドライバー全体を代表していない。
回答者の内36%(297人)は「ショッピングセンター来街者」(ららぽーと柏の葉かな?)、つまり買い物客という立場での回答を求められた人だと考えられます。ここには配送などの業務で車を運転する人が含まれていないのではないでしょうか。
残りの64%(531人)は「駅前駐輪場利用者」ですから、普段全く自転車に乗らない他のドライバーよりも、自転車に配慮した回答をする可能性が有ります。
このように、特定の属性を持ったドライバーのみを抽出しているわけですから、この調査結果に基づいて現実の多様なドライバーの路上駐車行動を予測するのは難しいはずです。
2. 微妙な、しかし決定的な表現のすり替えをしている?
アンケートの質問票で用意されていた選択肢は、古倉(2010, p. 132)の図3-23を見る限り、
- 絶対に駐車を控えたい
- 駐車を控えたい
- できるだけ駐車を控えたい
- 駐車を控えることはない
- 運転しないのでわからない
- その他
- 控える = do less frequently
- しない = do not
3. アンケート調査の詳細が分からない。
このアンケート調査は、結果だけなら各所に引用されていますが、結果ではなく調査報告書のような原典はネットで検索しても全く出てきません。
- どんな質問票を使ったのか
- どのように回答者を集めたのか
- 回答は筆記形式だったのか、問答形式だったのか
}
古倉氏はもう一つ別の調査結果を挙げていました。
p.133
図3•24 自転車専用レーン設置後の環境の変化
(出典:東京都『旧玉川水道道路における自転車レーンの整備効果』2008年)
出典はこれですね。場所は幡ヶ谷です。
http://www.kensetsu.metro.tokyo.jp/douro/jitensya/kennsyoukekka.pdf
出典の文書の pp. 3-5 に、自転車レーンの整備後の印象として
「駐停車する車両が減った」という回答が確かに見られます。
が、あくまで印象評価であり、路駐車両の台数を
実測したわけではないのが微妙に曲者です。
Google Street View(2009年12月撮影)でざっと見た限りでは、
路駐がみっしり連なっている
「自転車専用」の文字の真上にまで
困ったー。
クロスバイクでも歩道を走る
当たり前のように路駐されています。
路駐しないと街が機能しない。
これが都会の道路の現実です。
心理的な抵抗感以前の、構造的な問題です。
このような道路でも、何も無いよりは
青いペイントが有るだけマシと考える事はできます。
その場合、ペイントによってどれだけの人が
- 自転車で走る場所を歩道から車道に変えたか
- 自転車での移動距離を延ばしたか
- 車から自転車に乗り換えたか
整備前から自転車で車道を走っていた人にとって少し快適になった程度であれば、費用対効果の点では
構造分離型の自転車レーン(自転車道)の方が
優れていたという事になるかもしれません。
(路駐の取り締まり費用や、
路駐が一因になって生じた事故の損害など、諸々含めて。)
2014年5月23日追記{
何にせよ、路上駐車需要が存在している道路の区間に
視覚分離型の自転車レーンを設置する事には、
安全の持続性(Sustainable Safety)の観点から問題が有ります。
路駐取り締まりの手を緩めればすぐに元通りというのでは、
構造上、問題を解決した事にはなりません。
道路空間をもっと抜本的に再構築できないか検討すべきです。
}
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上に引用した部分に限らず、どうもこの本は
「自転車レーンこそ至上!」という結論ありきで書かれているようです。
都合の良い証拠を引っ張ってきて無理やり拡大解釈しています。
その一方で、構造分離型の自転車レーン(自転車道)については、
オランダに優れた事例が有るのに、あまり詳しく紹介していません。
自分の主張に都合の悪い情報はフィルターアウトしています。
古倉氏の他の著書も読めば、氏が各国の事例やノウハウに
知悉している事が分かります。ですが、残念ながらこの本では
その広く深い視野は読者に提供されませんでした。
シリーズ一覧
『成功する自転車まちづくり』の欺瞞 (1)
『成功する自転車まちづくり』の欺瞞 (2)