「自転車レーンならドライバーからの視認性が高いので安全」
という主張が幅を利かせていますが、これは時代遅れの謬見です。
世界で最も安全な自転車環境と
高水準な自転車モーダルシェアを誇るオランダでは、
走行インフラの大部分は自転車道であり、
自転車レーンの整備は推奨されていません。
今回はその理由の一端を説明する記事を訳しました。
以下は、オランダの自転車インフラのノウハウや事例集を提供している
Fiets Beraad というサイトに掲載されている記事の一つです。
オランダ語版も有りますが、訳の底本には英語版を使いました。
Theo Zeegers and Govert de With (2008)
Bicycle paths and bicycle lanes
Fietsersbond, Ketting nr. 189, pp. 6-7
凡例
- 訳文中のリンクは私が適宜加えたものです。原文には有りません。
- ( )内に原語表記や英語訳を補っている場合が有ります。
- /* から */ までは訳注です。
- 「サイクリスト」は「自転車に乗る人一般」を指す言葉として使っています。
それではどうぞ↓
『持続的安全(Duurzaam Veilig, Sustainable Safety)』に拠れば、幹線道路では(50km/hでの走行が許可されているどの道路でも)、サイクリストは安全上の理由から通過交通から分離されているべきだし、サイクリストも分離された自転車道の方をハッキリと好んでいる。しかし、その他の幾つかの面では欠点が指摘されており、自転車レーンも一つの選択肢であるように思える。「自転車レーンでも分離は分離だよね?」「自転車レーンは安全なんじゃないの?」今回の記事では多数のガイドラインを取り上げ、それらがこの種の議論に具体的にどう反論しているかを紹介する。
直感的には自転車道の方が自転車レーンより安全だというのは明らかに思える。なんだかんだ言ってもレーンというものは分離と呼べるような代物ではないし、『持続的安全』でもそう規定されている。子供を連れた親に「自転車で走るならどこか」と訊いてみれば良い。それに、もし自転車レーンに駐車スペースが隣接していたら、どうしたって車はレーンを横切るだろう。事実、ヴェルモンとダイクストラ(Welleman and Dijkstra, 1988)の比較研究では、単路区間では自転車道は自転車レーンに比べ大幅に安全だと分かった。イェンスンとニルスン(Jensen and Nielsen, 1996)はデンマークで、狭い自転車レーン(最大で1.2m幅まで)が、広いレーンに比べ3倍から4倍危険である事を明らかにしている。オランダのサイクリスト協会 /* Fietsersbond */ が推奨しているレーン幅——できれば2m、どんな場合でも1.5m以上——は、この点からも合理的と言える。
自転車レーンを設置するゆとりが有るなら自転車道も設置できる(アムスタダムのヤン・エイヴァーツ通り(Jan Evertsenstraat))
しかし、殆どの交通事故は道路の単路区間ではなく交差点で起こっている。これはサイクリストにも当て嵌まる。そしてヴェルモンとダイクストラの研究(Welleman and Dijkstra, 1988)では、自転車レーンが自転車道より優れているのは、まさにその点だとされている。なるほど、サイクリストがメインの車道から離れる程、ドライバーは自転車を見落としやすくなるだろう。だが、ヴェルモンとダイクストラの研究は『持続的安全』の考え方が登場する /* 1991年 */ 以前のものだ。当時は交差点に速度抑制の工夫 /* 小さな曲線半径や段差 */ が施される事は稀だったし、モペッドは例外無く自転車道を走っていた/* 現在はモペッド通行禁止の自転車道も有る */ し、ラウンダバウトは大型環状交差点の形のものしか無かった。/* 現在は道路の性格に合わせて、車の通行容量より自転車や歩行者の安全を重視した小型タイプのものと使い分けられている。*/
その後、交差点は幾つもの具体策によって遥かに安全になっているし、今後さらに安全になるだろう。つまり、安全性が向上するのは主に単路区間だが、それと同時に交差点にも特別な注意を払っているのだ。/* 小さな曲線半径や段差の他には、車と自転車の交差角度を可能な限り直角に近付ける構造や、車と自転車の青信号の完全分離などが有る。*/
これらの理由から、『自転車交通設計マニュアル(Ontwerpwijzer Fietsverkeer, Design Manual for Bicycle Traffic)』(CROW, 2006)では、自転車レーン方式を許容できるのは自転車ネットワークの簡易路線(自転車の通行量が750台未満/日)だけだと明言している。(主要)自転車路線では、交差点で追加的な措置を施す限り、分離された自転車道が望ましい。これが現実に成功を収めている事は、特にアムスタダムのビルダーダイク通り(Bilderdijkstraat)の改修により実証されている。分離された自転車道の建設により、この道路では死傷事故が50%も減ったのだ。
駐車
意外にも、多くの事故は車が駐車している時に起こっている。車を駐車枠に入れるという操作自体に限らず、開くドアや、二重駐車、回避行動によって、サイクリストは後方から車に撥ねられてしまう。こうした問題は分離された自転車道では滅多に起こらない。駐車されるのが自転車の左側 /* オランダは右側通行なので、車道中心側 */ だからだ。従って、ASVV 2004(CROWから出ている市街地内の道路設計マニュアル)は幹線道路で自転車レーンと路上の縦列駐車スペースの組み合わせを避けるように指示している。また、自転車レーンに言及する時は必ず、車の開くドアの危険性も指摘している。
持続的安全の観点から推奨されているのは、縦列駐車スペースが無く、分離された自転車道が有る幹線道路だ。/* 幹線道路は流れの機能に特化すべきで、積み降ろしは下位道路に担わせるという考え方。*/ 自転車レーンでも良いが、その場合は縦列駐車スペースとは組み合わせてはならない。逆に、縦列駐車スペースが有るなら自転車レーンと組み合わせてはならない。
「でも自転車道を作るには空間が足りない事が多いんじゃないか?」『自転車交通設計マニュアル』の118ページでは、この良く聞かれる反論が実は正しくない事が明らかにされている。縦列駐車スペースと並行して自転車レーンを引く余裕が有るなら、分離された自転車道を引く余裕だって有るのだ。もちろん、その自転車道は最小限の幅員になってしまう場合も有るだろう。それでも、かなり狭い道路であっても、駐車スペースと分離型の自転車道という断面構成を選択するという決断は可能だ。
ユトレヒトのアムスタダムセ通りはその好例だ。道路全体の断面構成は、両端から歩道、自転車道、そして少し間隔を置いて路上駐車枠 /* と車道 */。これらが、向かい合ったファサードの間、21m幅に収まっている。これはとても効果的で、自転車道が無かった以前の状況からすれば絶大な改善だ。
まとめ
サイクリストは自転車レーンより自転車道の方を好む。
しかも自転車道の方が安全。但し、交差点には特別な注意が必要。
縦列駐車スペースは自転車道の必要性を生むだけ。
自転車レーンと縦列駐車スペースを作る余裕が有るなら、
縦列駐車スペースと自転車道を作る余裕も有る。
参考文献
- CROW, 2004: ASVV 2004
- CROW, 2006: Ontwerpwijzer fietsverkeer
(particularly table 14, p. 108)- Jensen, S.U. and M.A. Nielsen, 1996:
Cykelfelter; Sikkerhedsmaesssig effekt i signalregulerede kryds.- Welleman, A.G. and A. Dijkstra, 1988:
Veiligheidsaspecten van stedelijke fietspaden.
R-88- 20 SWOV, Leidschendam
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The Pedal Project: Three Cycling Cities – From Dublin to London to Amsterdam from DCTV on Vimeo.
自転車の観点でダブリン、ロンドン、アムスタダムの三都市を比較したルポです。
13分50秒からアムスタダム編で、今回訳した記事の著者、
Theo Zeegers氏がインタビューを受けています。