旧世代の自転車レーン
(2008年6月撮影の Google Street View を加工)
(2008年6月撮影の Google Street View を加工)
これはオランダ、アムステルダムの主要環状道路〈s100〉です。
道路ネットワークの中での位置付けは
東京で言えば外堀通りと似ています。
写真の2008年の時点では、
ペイントによる自転車レーンが車道の端に有りました。
ところが、
更新後の自転車レーン
(2010年8月撮影の Google Street View を加工)
(2010年8月撮影の Google Street View を加工)
2010年には、自転車レーンは広大な緩衝帯で
車道から物理的に区分されています。
良く見ると、駐車スペースと自転車レーンの位置関係が
以前とは逆転している事が分かります。
なぜこのような改修を行なったのでしょうか。
更新前の自転車レーン
(2008年6月撮影の Google Street View を加工)
(2008年6月撮影の Google Street View を加工)
以前の道路構造では、自転車レーンはこのように
車道と駐車スペースの間に挟まれていました。
自転車と車の通行空間
(2008年6月撮影の Google Street View を加工)
(2008年6月撮影の Google Street View を加工)
この構造は、「自転車は車両である」という基本的な分類や、
「速く移動するものほど中央に」というシンプルな指針に
良く合致する事も有って、日本では評価する人もいます。
シンポジウム「自転車の公共政策を斬る」の感想 (2)
最後にですね、外国の諸事例では例えばアムステルダム、2018年10月3日 公式の書き起こし文の出典を追加{
オランダなどの自転車先進国に於いては、
そういった自転車道ではなく、自転車レーンが普及していると。
で、そういった自転車道を造って車道から区分けするのは
寧ろ自転車後進国に見られる例が多いという事もございます。
こういった事から、私は自転車道ではなく、
自転車レーンを以て自転車の走行空間とすべきと考えております。
——木内秀行氏(弁護士)
第二東京弁護士会 (2014)「シンポジウム「自転車の公共政策を斬る」」p.14
}
しかし、
自転車の動線
(2008年6月撮影の Google Street View を加工)
(2008年6月撮影の Google Street View を加工)
この通行位置では、
(2008年6月撮影の Google Street View を加工)
路上駐車の車が出たり、
(2008年6月撮影の Google Street View を加工)
入ったり、
(2008年6月撮影の Google Street View を加工)
突然ドアを開けたりして自転車と衝突する危険が有りました。
(オランダは右側通行で、車は左ハンドルです。)
2015年12月19日追記{
この道路とほぼ同じ構造の別の道路で2013年に死亡事故が発生しています。詳しくは下の記事を参照:
関連記事
オランダの幹線道路の自転車レーンで起こった死亡事故
}
仮にドライバーと自転車利用者の双方が互いに充分注意し、
接触事故が回避されているにしても、
すぐ横の空間を車が走る事に対する
心理的な不安感までは拭い切れません。
単なる物理的な安全だけでなく、
心理的な安心も必要だという判断の結果が、
(再掲)
これです。
歩行者の視点から見ても、横断歩道が分割された事で、
一度に横断する距離が以前よりも劇的に短くなっていますね。
道路を人の手に取り戻そうとする
オランダ人の情熱が伝わってきます。
2014年3月11日追記
同様の改修事例が Eindhoven(エイントホーヴェ)でも見られます。
次のブログ記事に改修前の2012年と改修後の2014年を
比較した写真が掲載されています。
Eindhoven, nominee for best cycling city
(「Glaslaan in 2012 and 2014」というキャプションが付けられた写真。)
アムステルダムの道路が全てこのような構造分離型の
自転車レーンを備えているわけではありませんが、
それは単に〈まだ改修されていないだけ〉かもしれません。
また、幹線道路以外の道路であればクルマの脅威が小さく、
視覚的な分離で事足りるという場合も有るでしょう。
先に引用した木内弁護士のような理解はあまりに表層的で、
オランダの現実を歪曲していると言わざるを得ません。
---
続いて、同じ道路を別の角度から見てみます。
交差点手前で分岐する自転車レーン
交差点で車道を横断する自転車が待機できるように
自転車道の幅員が拡大され、分岐しています。
これなら直進自転車の進路が塞がれる事も無いですね。
もしこのような工夫が無ければ、
直進自転車は横の歩道を走ってしまうでしょう。
また、この写真の道路は丁字路の横画に当たりますが、
北側の自転車レーンを直進する自転車は、信号待ちのクルマを横目に、
足止めされる事なくいつでも交差点を通過できる構造になっています。
これも利用者本位の合理的な工夫ですね。
改良された自転車レーン
道路のこちら側は運河に面しているので駐車スペースは有りませんが、
それでも車道と自転車レーンの間には広大な緩衝帯が挟まれています。
これのお陰で自転車はクルマの騒音や排気ガス、風圧から離れられますし、
車道と自転車レーンが柵で区切られていなくても安心できます。
(柵が有ると、それが心理的な境界を生んでしまい、
ドライバーが自転車の存在を見落としやすくなるので
交差点での衝突リスクが高まると言われています。)
改良前の交差点構造
(2008年6月撮影の Google Street View を加工)
(2008年6月撮影の Google Street View を加工)
改良前、この交差点で出会う s100 と
Oosteinde(*)の車道は平面で接続していました。
*「東端」という意味。通りに名前が付けられた1866年当時、
ここに有ったUtrechtsepoort(ユトレヒト門)
から見て東側に引かれていた事に因む。
一応、自転車レーンの存在は
四角いドットの連続(通称「象の足」)で示されており、
三角のマーク(通称「鮫の歯」)で
自転車・歩行者に優先通行権が有る事も分かります。
しかし物理的な構造自体はクルマ中心時代のものを引き摺っています。
改良後の交差点構造
それがこう改良されました。
横断歩道は消滅し、連続した歩道に作り替えられています。
自転車レーンも同様ですね。
煩雑だった路面標示は一掃され、
構造自体が自転車と歩行者の優先を雄弁に語っています。
ここを横切るクルマは段差を乗り越えなければならないので、
自然と徐行する事になります。
オランダは、単なるペイントで済ませていた段階を卒業して、
インフラ整備の次のステージに進みつつあるようです。
(再掲)
交差点の構造改良と合わせて、新たにゾーン30
(30km/h-zone)の標識が立てられていますね。
これは、以前は橋を渡った先の対岸に立てられていたものです。
車道の構造的な分断を
ゾーン30の入口のサインとしても活用しているんですね。
同じ橋を対岸から望む
以前は、2本の車線の間に自転車レーンが挟まれていました。
(日本の左折に相当する)右折時巻き込みを防ぐ為の処理ですが、
クルマの流れのただ中に自転車を放り込むという野蛮な設計でした。
この問題も今では、
(再掲)
車道とは独立に双方向の自転車レーンを整備する事で解決しています。
こうした改善の動きを知らない日本の国交省は、2012年に、
「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」p.90 掲載の図
その旧世代の構造を取り入れたガイドラインを発表しています。
また、ガイドラインの図では幹線道路への整備例が示されていますが、
この自転車レーン配置は、クルマの速度が高く交通量の多い幹線道路に
適用して良い種類のものではありません。
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海外事例の本質を理解せずに
表層だけ見て猿真似したのでしょう。