2014年3月7日金曜日

自転車道の仕様をめぐる考えの転換

自転車道に関する過去の記事を大幅に修正しました。
これは修正後の記事で、前回からの続きです。



2年前に公開したこの記事では、当初、
道路構造令の最低幅より広い自転車道
(構造分離型の自転車レーン)について、

自転車の為だけにそんなに空間を割けないというなら
原付との共用空間にすれば良い。
もちろんレーン内は一方通行で、車道と同一平面に設置。

と書きました。しかし、この考え方には重大な誤りが有ります。


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まず原付との共用というアイディアですが、
これを先行して実施しているオランダでは、
自転車道を高速で飛ばすモペッド(原付バイクの一種)が
社会問題になっており、規制を求める声が上がっています。

http://bicycledutch.wordpress.com/2013/02/23/the-moped-menace-in-the-netherlands/

オランダの交通社会ではモペッドは少数派ですが、
日本では原付や小型のスクーターは比較的多いですから、
もしそうしたバイクに自転車道の通行を許せば、
オランダ以上に深刻な問題が起こるでしょう。

環境負荷を下げるという趣旨からも、
自転車道へのモーターバイクの乗り入れは禁止すべきですね。


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次に、「車道と同一平面に設置」ですが、
これについて記事の公開当初は、
自転車側に適度な緊張感が生じ、一方通行の遵守率が上がる
と書いていました。しかし、この主張には三つの誤りが有ります。


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第一に、緊張感を強いるようなインフラでは、
子供から老人まで誰でも安心して使える通行環境には成り得ません。

自転車の走行環境を整備する目的は、安全確保はもちろんですが、
それと同じくらい重要なのが、歩道と同じ安心感を確保しつつ、
もっと快適な走行環境を提供して、
自転車のトリップシェアとトリップ距離を伸ばす事です。

具体的には、今まで「危険だから」、「疲れるから」と
自転車通学/通勤を避け、電車やバス、マイカーに頼ってきた人々に、
自転車という選択肢を魅力的に見せる事です。

緊張感を強いるインフラではその目的を果たせません。


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第二に、自転車利用者が通行方向を守らない事については、
利用者のルール無視が悪いのではなく、
インフラの形が利用者のニーズに合っていないのが悪い
という見方もできます。

言わば、自転車インフラは商品で、
自転車利用者はお客様という見方です。

自転車という移動手段を魅力的に見せるという目的を考えれば、
この見方も充分合理的と言えるでしょう。

となると、顧客の利益を考えず、
求められてもいないものを押し付けては、
上手く行かないのは目に見えています。

顧客ニーズに逆らって一方通行のインフラを整備するくらいなら、
最初から双方向通行にしておく方が交通秩序も保てるでしょう。

(自転車道が双方向通行だと
交差点での事故リスクが上がると言われています。
しかし、リスク上昇を補償する手段が無い訳ではありません。
オランダは様々な手法を駆使して、双方向通行の自転車道でも
安全性が確保されるように配慮しています。)


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第三に、自転車道が車道と同一平面だと、
排水の問題と、車の横断の問題が生じます。

排水は分かりやすいですね。
街渠は車道の端、この場合は自転車道の端に設置されますから、
大雨が降れば真っ先に自転車道が水浸しになります。
雨の翌日も路面に水が残り、泥水を靴や背中に跳ね上げる事になります。

それなら、自転車道を車道から一段嵩上げして、
車道と自転車道の境界に街渠を置いた方が良いですね。


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車の横断というのは、幹線道路と細街路の合流地点や、
幹線道路の沿道の駐車場の出入り口で、
車が自転車の動線を横切る問題の事です。

自転車道が車道と段差無く続いていると、一部のドライバーは
車の速度を落とさないまま細街路に出入りしようとするので、
自転車と衝突事故を起こす恐れが有ります。

もし車道と自転車道の間に歩道の縁石のような段差が有れば、
ドライバーは充分速度を落として慎重に乗り越えますから、
車、自転車双方が事故を回避しやすくなります。


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ただ、自転車道を嵩上げすべきとは言っても、
せいぜい数cm上げてあれば充分です。
現在の歩道の縁石のように20cm近くも引き上げる必要は有りません。

また、「嵩上げ」と言うと、信号機付き交差点の手前で
自転車が縁石の段差を乗り越えなければならないのでは
と思われるかもしれません。

しかし、そういった箇所では
なだらかなスロープで車道と同じ水準まで下げ、
段差無く繋げる事もできます。

これなら自転車の快適性は損なわれませんね。
(もちろん、スロープの前後を縦曲線で繋げる配慮は欲しいところです。)

逆に、歩道と同じ高さまで上げてしまうと、
歩行者が境界を意識せずに自転車道に入り込んで来てしまいます。
自転車道はあくまで「車両」である自転車の通行空間ですから、
歩道とはしっかり区別する必要が有ります。


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以上を総合すると、自転車道を含む道路の望ましい姿は、

歩道

(縁石を挟んで少し下げ、)

自転車道

(縁石を挟んで少し下げ、)

車道

という3水準で構成したものとの結論が導かれます。
(必要に応じて、自転車道と車道の間に緩衝帯を挟む。)

オランダ、アームスフォートの道路
画面左から、車道、緩衝帯、自転車道、歩道
(2010年に現地で撮影)