道路構造令では自転車道の幅員を「2メートル以上」と規定していますが、
多くの道路管理者はこれを「2メートル」と解釈しているようで、
全国各地に整備されている自転車道は大抵2メートル幅です。
しかし、実際に2m幅で整備された自転車道(亀戸、三鷹)や、
歩道上の自転車通行指定部分(山手通り)を走ってみると、
- 横から歩行者が飛び出してきたら咄嗟の回避が難しい
- 対向車とすれ違う時、狭くて怖い
- 他の自転車を追い越すのが危なっかしくてできない
対向車とすれ違う時、自転車通行指定部分の外に
大きくはみ出す例(山手通り)が見られます。
自転車道の幅は、どうも2mでは足りないようです。
では、本当は何メートルの幅員が必要なのでしょうか。
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まず、自転車道の分離工作物に対して
利用者が取る安全マージンはどうでしょうか。
亀戸駅前の自転車道を通行する自転車を観察すると、
対向自転車が来ていない状況では、
その自転車の左手の縁石から車体中心までの距離が
4分の3メートル(約75cm)程度の自転車が多いです。
2012年7月3日追記
亀戸駅前の自転車道を通行する自転車を録画して分析した結果、
標本数95台の縁石からの距離は平均で0.73m、標準偏差は0.17だった。詳細はこちら。
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次に、他の自転車とすれ違う場合や、
追い越し/追い越されの場面ではどうでしょうか。
これについては心理実験に基づくリスク感知モデルが有ります。
山中英生、半田佳孝、宮城祐貴(2003)
「ニアミス指標による自転車歩行者混合交通の評価法と
サービスレベルの提案」『土木学会論文集 No.730』
実験では被験者に自転車同士でのすれ違い、追い越しをさせて、
危険を感じたかどうか判断させ、その結果を元に
モデルのパラメーターを推定しています。
そのモデル(p.31)に拠ると、
いずれの場合も回避幅が狭くなればニアミス生起確率が上昇するが、という推定曲線を示しています。
// 中略
自転車同士では対向で1m、追越しでは壁の有無に影響を受けるが
1m〜1.5m程度を下回ると急激にニアミスの発生確率が高くなっている。
(「回避幅」は2台の自転車の車体中心間の側方距離です。)
但し、この実験では自転車の速度は最高でも18km/hに過ぎず、
クロスバイクやロードバイクといった、
30km/h以上が当たり前の車種の場合は考慮されていません。
また、自転車を漕いだ被験者は学生のみで、
ふらつきの大きい高齢者の自転車の場合も不明です。
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仮に以上の二項目を
対面通行の自転車道に当て嵌めて考えると、
レーン端
│
(75cm)
│
自転車
│
(150cm)
│
自転車
│
(75cm)
│
レーン端
で、必要な幅員は合計で 3.0m という事になります。
もちろんこれは、
- 自転車の速度は最高でも 18 km/h
- どの自転車も左右にふらつかない
という特殊な条件での値ですから、
様々な速度、様々な運転技能の自転車が入り交じる
現実の自転車道に単純に適用するわけにはいきません。
この幅員に更に 0.5〜1.0m ほど加えてやっと
「快適」な自転車道になると考えられます。
参考:オランダの自転車レーンの幅員
これ以外にも、例えば
- すぐ横の車道を大型トラックが飛ばして行く
- ビル街で横から突風が吹く箇所がある
自転車道と車道の間に緩衝帯を挟む必要が出てきます。
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長くなったので続きは別の記事に分けました。
自転車道の仕様を巡る考えの転換