2018年11月25日日曜日

方向別車線に挟まれた自転車レーンを批判するドイツのデモ

交差点流入部で車の左折レーン(欧州では右折レーン)と直進レーンの間に自転車レーンを挟む形式(通称 „Fahrradweiche“)は、日本国内では
  • ヨーロッパの先進的な自転車インフラ!
  • 自転車を車と同列に扱っていて素晴らしい!
  • 日本も見習うべき!
などと持て囃され、国のガイドライン (国土交通省道路局 and 警察庁交通局, 2012:Ⅱ-63) にも設計例が掲載されていますが、その構造を多用してきたドイツでは最近、Holzmarktstraße (Mitte, Berlin) に新設された自転車通行空間のFahrradweichen部分を危険として批判するデモ活動が行なわれました。



デモでは2台のセミトレーラーを配置し、間に挟まれた自転車レーンに子供を走らせることで、速度も重量も全く異なる移動体を交錯させることの危険性が視覚的に訴えられています。

このキャンペーンを行なった団体、Changing Citiesは、Fahrradweichenを今後一切新設せず、既存のものも改修するよう求めています (Fahrradweichen: Brutal und gefährlich, 2018)。



ベルリン初のprotected bike laneだが…


ホルツマークト通りに試験導入された問題の自転車通行空間は、単路区間では車道からボラードで保護されたベルリン初のprotected bike lane ("der erste geschützte Radfahrstreifen in Berlin" (Fahrradweichen: Brutal und gefährlich, 2018)) で、幅員も3.50m (Spiegel Online, 2018) と潤沢なのですが、交差点の手前で分離が打ち切られ、右折車と直進自転車を鋭角に交差させる構造になっています。

ドイツの自転車利用者団体ADFCのベルリン支部も、protected bike lane自体は歓迎しつつ、バス停や交差点周辺での打ち切りレイアウトについては「改善が必要 ("Da wünschen wir uns noch Nachbesserungen")」と述べています (Spiegel Online, 2018)。


設計の問題点


Fahrradweichen構造についてFahrradweichen: Brutal und gefährlich (2018) が問題視しているのは以下の点です(原文では "Dabei wird der . . ." から始まる段落 ):
  • コンフリクトポイントでの車と自転車の速度が交差点内より遥かに高い
  • 自転車が両側から車に挟まれ、車との側方距離が近すぎる
  • 車が渋滞すると自転車レーンが塞がり、自転車が進めなくなる
特にコンフリクトポイントでの速度の高さは、交差点内で右折車と直進自転車を交差させるレイアウトより衝突時に深刻な結果に繋がりやすいと考えられるため、見過ごせません。

他の道路に整備された既存のFahrradweichen構造でどのような交通実態が見られるのかもツイートされています。
もし右折車と直進自転車のコンフリクトポイントが交差点内であれば、右折車は小さな隅切り半径の縁石に沿って曲がらざるを得ず、その速度は自ずと低く抑えられますが、Fahrradweichen構造は単路での車線変更とほぼ同じなので、自転車とのコンフリクトポイントで車がかなりスピードを出せてしまうことが分かります。これは自転車利用者にとって、安全性の面でも安心感の面でも程度の低い設計と言わざるを得ません。


既知の解決策


単路がprotected bike laneなら交差点もprotected intersectionに („Zu jedem geschützten Radweg gehört eine geschützte Kreuzung – die Niederländer zeigen schon lange, wie das geht!“)。Changing CitiesのJens Blume氏も指摘するように、Fahrradweichen構造よりも優れた交差点の設計手法は随分前からオランダが示してきました (Fahrradweichen: Brutal und gefährlich, 2018)。



インターネット上でも7年前にWagenbuur (2011) が動画付きで解説していましたね。アメリカはこれに触発されて早くも2015年に同様の交差点構造を試験導入しています (Andersen, 2015)。


「利用者目線」の罠


ドイツでは危険性が指摘されるようになったFahrradweichen構造ですが、日本ではスポーツサイクリストからの評判がすこぶる良く、「こんなレーンを作って欲しい」と賞賛されているのを見掛けます。

ですがそれは、自転車を全く考慮しない交差点設計(最左車線が左折専用レーン、など)を物ともせずに車道を走ってきた筋金入りのサイクリストから見て「素晴らしい」というだけの話であって、一般的なママチャリユーザーや子供、老人が安心して快適に使える設計ではありません。

国土交通省や警察庁、設計の実務を担うコンサル会社の人に向けて言いたいのは、スポーツサイクリストというごく少数の利用者層の意向に合わせた政策や設計が、自転車利用者全体にとっても等しく好ましいものだとは、ゆめゆめ思わないで欲しいということです。

「自転車利用者の目線を理解するためにロードバイクを始めました」という設計者の方もいますが、スポーツ自転車の目線に染まるあまり他の大多数の一般的な自転車ユーザーの選好を忘れることのないよう、くれぐれも注意していただきたいです。


出典

Andersen, M. (2015) America’s first protected intersection is open in Davis - and working like a charm, PeopleForBikes. Available at: http://peopleforbikes.org/blog/americas-first-protected-intersection-is-open-in-davis-and-working-like-a-charm/ (Accessed: 5 October 2017).

Fahrradweichen: Brutal und gefährlich (2018) Changing Cities e.V. Available at: https://changing-cities.org/presse/artikel/fahrradweichen-brutal-und-gef%C3%A4hrlich (Accessed: 24 November 2018).

Spiegel Online (2018) ‘Mehr Sicherheit für Radfahrer: Erster geschützter Fahrradweg in Berlin eröffnet’, 9 November. Available at: http://www.spiegel.de/auto/aktuell/berlin-erster-geschuetzter-fahrradweg-eroeffnet-a-1237657.html (Accessed: 24 November 2018).

Wagenbuur, M. (2011) ‘State of the Art Bikeway Design, or is it?’, BICYCLE DUTCH, 7 April. Available at: https://bicycledutch.wordpress.com/2011/04/07/state-of-the-art-bikeway-design-or-is-it/ (Accessed: 5 October 2017).

国土交通省道路局 and 警察庁交通局 (2016) 安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン. Available at: http://www.mlit.go.jp/road/road/bicycle/pdf/guideline.pdf (Accessed: 24 November 2018).