2019年3月20日水曜日

【自転車インフラのレシピ】9m幅の車道に自転車レーンを設置するなら

いま国土交通省の道路局が、日本各地で整備事例の増えている自転車レーンを改正道路構造令で正式に規定しようとパブリックコメントを実施していますが、そもそも日本の自転車レーンは利用者の安全・安心に十分配慮できていません。

最も典型的な整備環境と思われる、車道の幅が9mの道路を例に、ありがちな駄目レイアウトと、オランダの現行基準を参考にした望ましいレイアウトを作図して対比しました。

日本で事実上の標準となっているレイアウト

自転車レーンのありがちなレイアウト(Streetmixで作図)

問題点

  • センターライン(黄色の実線)が車の速度上昇要因になる(橋本 2010)
  • 車がセンターラインに沿って走ることで、自転車を追い越す際に十分な側方間隔を取らなくなる(Rik de Groot 2017, p.112)
  • 自転車レーンが狭すぎて、自転車同士の並走・追い越し時にレーンからはみ出す(Zeegers et al. 2015)
  • L形側溝のエプロン部分をペイントしていないので自転車レーンが狭く感じられ(実質92cmしかない)、安心感が低い

オランダの現行基準を参考にしたレイアウト

オランダの設計指針を参考にした空間配分(Streetmixで作図)

変更点

  • センターラインを消去して車の速度を抑制、かつ通行位置を中央寄りに誘導
  • 自転車レーンをオランダ基準の最低幅(区分線を含まず1.7m)に広げ、自転車同士の並走・追い越しがレーン内で完結するようにした(これでも乗員の体の一部ははみ出す)
  • エプロンの無いタイプの縁石に変更し、車道の端までペイント



解説

オランダではDuurzaam veiligという体系的な交通安全施策の下、道路は3カテゴリ(高速道路、幹線道路、生活道路)に整理されており、その構造や規制速度はカテゴリ間で明確に区別されています。しかし現実には中間的な性格の「グレーロード」も存在します(幹線道路なのに幅員が狭すぎる、生活道路なのに交通量が多すぎる、など)。

上図のような空間構成はそのグレーロードを対象としたもので、Duurzaam veiligの大原則である「低速交通と高速交通の分離」を確実に履行できない(例えば大型車同士がすれ違う際には車体の一部が自転車レーンに入ってしまうでしょう)ことから、車のスピード抑制で補おうとしているものと思われます。


路上駐停車が発生する場合

上の例は路上駐停車が発生しないことが前提条件です。自転車レーンが路上駐停車に塞がれると自転車利用者は車の流れの切れ目を見計らって車道の中央寄りに出なければならず、子供や女性、高齢者にとっては通行の危険度、難易度が一気に上がります。これは実質的に自転車インフラが無いのと同じです。

路上駐停車が発生している/発生が見込まれる場合は、自転車通行空間とは別に駐車枠を用意した上で、車が自転車通行空間に侵入できないように構造的に分離する必要があります。15m幅の道路ではかなり厳しいですが、下図のように詰め込むことも一応可能です。類例がロンドン(East-West Cycle SuperhighwayNorth-South Cycle Superhighway)やアームスフォート(Barchman Wuytierslaan)にあります。


自転車道、駐車枠を片側に集約したレイアウトStreetmixで作図)

主なポイント

  • 植樹帯を撤去して空間を捻出
  • 駐車枠を片側のみに設置して空間を節約
  • 自転車通行空間を片側に集約して空間を節約
    • 双方向通行でも快適に通行できる最低限の幅員を確保
    • 車の侵入や駐車車両とのドア衝突を防ぐ緩衝帯を設置
    • 車道から視覚的に区分する必要がなくなるので路面着色は省略
もちろんこのレイアウトが交通実態に合わない場合もあるでしょう。あくまで選択肢の一つです。ただ、国土交通省はこういう整備の仕方を自治体に向けて例示せずに、「自転車道は整備が進まないから自転車レーンだ」と安直に方針化して、自転車レーンの欠陥(路上駐車に塞がれる、大半の自転車がレーン整備後も歩道を通行している)には目を瞑っています。それはないでしょう。


出典

Rik de Groot, Herwijnen, ed. 2017. Design Manual for Bicycle Traffic. Record 28. Amersfoort: CROW.

Zeegers, Theo, Otto van Boggelen, Peter Morsink, and Jos Hengeveld. 2015. “Evaluatie Discussienotitie Fiets- En Kantstroken: Een Praktijkonderzoek Op 23 Locaties.” 28. CROW-Fietsberaadpublicatie. CROW. https://www.fietsberaad.nl/CROWFietsberaad/media/Kennis/Bestanden/Fietsberaadpublicatie-28_Evaluatie-discussienotitie-fiets-en-kantstroken_def.pdf?ext=.pdf.

橋本成仁, 谷口守, 水嶋晋作, and 吉城秀治. 2010. “街路空間要素が自動車走行速度に与える影響に関する研究.” 土木計画学研究・論文集 27: 737–42. https://doi.org/10.2208/journalip.27.737.