条文と解釈のズレの歯痒さの視覚化
条文
(横断歩道等における歩行者等の優先)第三十八条 車両等は、横断歩道又は自転車横断帯(以下この条において「横断歩道等」という。)に接近する場合には、当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下この条において「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。
文の意味の視覚化
条文の文字通りの意味
判例や解説書が示す解釈
条文と解釈のズレの歯痒さの視覚化(再掲)
参考資料
解説
野下文生. 2010. 執務資料 道路交通法解説. Edited by 道路交通執務研究会. 15‐2訂版. 東京: 東京法令出版. p.364
“【判例】自動車対自転車〜横断歩道上での事故(平成20年6月1日道路交通法改正後の判例).” 2013. 交通事故慰謝料協会. November 7, 2013. https://xn--3kq2bv26fdtdbmz27pkkh.cc/%e9%81%8e%e5%a4%b1%e5%89%b2%e5%90%88/crosswalk/.
判例
- 業務上過失傷害被告事件. 1974. 福岡高等裁判所 第三刑事部. http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail3?id=23569
- 運転免許取消処分取消請求事件. 2006. 最高裁判所 第二小法廷. http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=33349
2019年6月14日追記{
道路交通法は誰に向けて書かれるべきなのか
道路交通法38条1項が文字通りの意味で解釈されない理由として同法の2条4号、2条4の2号、12条1項、63条の6などを挙げる解説があります。横断歩道は歩行者のためのもの。歩行者は横断歩道で車道を横断すべし。自転車横断帯は自転車のためのもの。自転車は自転車横断帯で車道を横断すべし。だから38条もそれを踏まえて解釈すべきなのだ。ですがそれはそれ、これはこれです。38条の問題は、そのような定義・規定に関わらず、横断歩道を渡る自転車も自転車横断帯を渡る歩行者も保護対象であるかのように読めてしまう点です。
もし道路交通法が、警察官や法律家などの専門職の人間だけが読み、理解できれば良いソースコードのような法律であれば、それでも構わないでしょう。しかしこの法律は一般市民の日常生活に深く関わっており、誤解が生じることによる弊害は無視できません。
法律を仕事の道具として日常的に使っているわけではない一般市民に対して、ある条文が文字通りの意味に解釈されるのか、立法者の意図を汲んで解釈されるのか、といった込み入った事情の理解まで求めるのは、社会を円滑に回していく上であまり効率的なやり方ではないでしょう。
道路交通法を一般向けに噛み砕いた「交通の方法に関する教則」というものもありますが、これは文体を日常的な表現に置き換えただけで、論理的な骨格は変わっていません。この記事で指摘した解釈上の問題は相変わらず残っています。
(2) 横断歩道や自転車横断帯に近づいたときは、横断する人や自転車がいないことが明らかな場合のほかは、その手前で停止できるように速度を落として進まなければなりません。また、歩行者や自転車が横断しているときや横断しようとしているときは、横断歩道や自転車横断帯の手前(停止線があるときは、その手前)で一時停止をして歩行者や自転車に道を譲らなければなりません。大元に問題があるとその派生物にも同じ問題が引き継がれてしまいますし、誤解を解くために余計な手間も掛かってしまいます。
ですから私は、「n条にこれこれの規定があるから38条はこう解釈するものなのだ」という解説には首肯しかねますし、そういう解説をされても歯痒さが募るばかりなんです。