歩道の自転車通行可規制と車道の自転車レーンは法的に矛盾するので併設できないという記事を見掛けましたが、矛盾はしません。それよりもっと根深い別の問題があります。
矛盾するという主張
ロードバイクが欲しい!初心者向けナビ (2021-01-15) 自転車レーンと、自転車通行可の歩道を併設することは事実上不可能に近い話。
自転車レーンがある道路では、自転車は自転車レーンしか原則通行できません。
(定義)
第二条七 車両通行帯 車両が道路の定められた部分を通行すべきことが道路標示により示されている場合における当該道路標示により示されている道路の部分をいう。(車両通行帯)自転車専用通行帯がある場合、原則として自転車レーンしか走れない。
第二十条2 車両は、車両通行帯の設けられた道路において、道路標識等により前項に規定する通行の区分と異なる通行の区分が指定されているときは、当該通行の区分に従い、当該車両通行帯を通行しなければならない。
なので歩道に【自転車通行可】なんて標識を立てた日には、法に矛盾することになります。
現実に併設している場所の情報(神戸市の大開通)がその記事のコメント欄 (*) に寄せられていますし、東京でも都道301号(後楽園)、都道308号(西葛西)、都道431号(幡ヶ谷)などがそうです。
(* 引用元のページに直接コメントできれば良かったんですが、私の環境では認証画像がエラーで表示されないので代わりに自分のブログに書いています。)
この見掛け上の矛盾は、道路交通法17条4項で追加提示されている「道路」の定義を読めば解消されるでしょう。
4 車両は、道路(歩道等と車道の区別のある道路においては、車道。以下第九節の二までにおいて同じ。)の[以下略]
この定義 (*) は問題の20条にも及ぶので、自転車は車道では自転車レーンを通行しないといけないが、歩道を通行する場合は関係ない、という解釈になるはずです。
(* こういう定義の後出しは不親切極まりないので法制局の人には撥ね付けて欲しいところ。)
もっと根深い矛盾
自転車レーンに関する道路交通法の矛盾でもっとずっと根が深いのは44条1項です。デフォルトの駐停車禁止場所(交差点や横断歩道、坂の頂上など)を列挙するこの条項には自転車通行帯が含まれていません(対して、ネーデルラントの交通法、RVV 1990, Artikel 23は2番目に自転車レーンを挙げています)。
路面を青く塗り、「自転車専用」と書き、標識を建てたところで、駐停車禁止の規制が無ければ(無理なく駐停車禁止にできるような交通状況でなければ)実質ただの色付き駐車帯と化します。このレーン塞ぎ問題は10年以上前から問題になっていて、ことあるごとに「対策が必要だ」と言われてきましたが、一向に解消されません。
車が駐停車に使ってきた空間(既得権益)を維持しつつそこを「自転車レーン」と呼び替えることで自転車インフラを整備できたことにするというのが2000年代以降の日本の自転車政策の本質 (*) だからでしょう。
(*「共存共栄」という美辞麗句、よく聞きますよね。しかし自転車政策の本質は、少なくとも欧州では、都市部とその周辺における車の利用抑制です。共栄などではありません。)
最近では、レーン塞ぎ問題を前提にした看板まで建つようになってしまいました。
再び国会通り(千代田区道 千146号)。「路駐問題は仕様です」と言わんばかりのマッチポンプ看板を追加で立てちゃうところが #残念な自転車レーン
— ろぜつ@自転車 (@rzt_ashr) December 11, 2020
※総幅員42.5〜43.7mの道です。 pic.twitter.com/5mUkYnRWmz
こんな具合ですから、自転車レーンを引いても車に塞がれて安全に通行できないことが自明な場合、それを正直に認めて歩道の自転車通行可規制をそのまま残すのは(方向性は消極的であるものの)良心的な措置だと思います。