2012年2月19日日曜日

東京図書館コレクション 番外編

以前23区の図書館利用者カードを特集した事が有った。

しかし一部の区では利用者登録の要件を満たせず、
また23区外の自治体も無理そうだったので、
一旦カード収集を打ち切った。

ところが先日、偶然自転車で通り掛かった図書館で
予想に反して新たに利用登録できてしまった。
23区シリーズの途中だが番外編として紹介する。



趣旨説明とシリーズの記事一覧はこちら


凡例

-----------駐輪場評価-----------
収容台数の余裕 ★★☆
地球ロック可 yes/no
ラック有り yes/no
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収容台数の星印の目安は、
★☆☆ 余裕無し。駐輪場外に溢れている。
★★☆ 余裕は少ないが、停める場所は有る。
★★★ 余裕有り。簡単に空きが見付かる。

地球ロック可」は、図書館の敷地内で、通行の妨げにならない場所に、
ワイヤーロックなどで自転車を繋ぎ止められる構造体が有る事。
但し、樹木の幹などは構造体に含めない。
(自転車がぶつかると樹がダメージを受けるため)

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■寄居町立図書館

寄居町(よりいまち)は埼玉県北西部、関東平野の縁に位置する町。
図書館が一館、移動図書館が一台有る。
番外も番外、東京ですらない。

寄居駅北側に公民館が在り、

隣接して町立図書館。


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建物は上から見ると変則的なF字型になっており、

「F」の二本の横画の股に相当する部分、写真中央が入口。
珍しい造りだが、行き止まり感、隅っこ感、両側からの圧迫感が有る。

建物は写真右が一般書、左が児童書と分けられている。
写真には写っていないが、「F」の縦画部分には
YA・新聞雑誌・視聴覚・参考資料・地域資料。

全体的にユニークな建物だが、
一番の目玉は一般書コーナーだろう。

コーナー全体が吹き抜けで抜群の開放感、
横幅一杯の長い書架が整然と並び、
両脇の通路には学習席やソファ。

想像以上に贅沢な空間で度肝を抜かれた。

他にもグループ学習室や研究個室、視聴覚ブースなども備え、
近年建て替えられた23区の図書館と比べても何ら遜色無い。


----利用登録とカード----


利用登録の要件は
「日本国内に住所又は居所をお持ちの方」という寛大さ。

「観光やお仕事で来町の記念に図書館を」(公式ページ
という狙いで2008年に登録要件を緩和したそうだ。

登録できた事に感激して本を一冊借りてしまったが、
返しに行くのに自転車で往復170km。一冊が重い。

利用者カードはこんなデザイン
片栗の葉に腰掛けて本を読んでいる
ゆるキャラは雉のKizzy……って、
危ないスラングっぽいけど大丈夫かな。

町の花・木は今でもちゃんと自生している片栗・山桜。
植物のネタに乏しい23区からすると羨ましい。


----駐輪場----


収容台数は少なめだが、車で来館する人も
多そうだったので丁度良い規模なのかもしれない。

屋根付きの部分。
これだけ構造物が有れば地球ロックには不自由しない。

後日、本を返しに行った日の駐輪場の様子。
やや台数が増えたがそれでも余裕が有った。

-----------駐輪場評価-----------
収容台数の余裕 ★★★
地球ロック可 yes
ラック有り no
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自転車で来る地元の人は
どのくらいの範囲から来ているんだろう。
同じ町内でも一番遠い所からだと10km近く有るが。


----たまよど号----


返却しに行った日は図書館前に「たまよど号」が来ていた。
初めて移動図書館というものを見てテンションが上がる。

除籍本を無料配布する日で、本の展示台として
移動図書館も駆り出されていたようだ。


----民話公演----


この日、館内では「図書館祭り」と題して
布絵本の展示や栞作り体験などの企画も有った。
中でも注目は地元寄居町の民話の生語り。
滅多に無い機会だからじっくり聴いてきた。

  • 鉢形城の濠に住んでいた男が竜宮に行った
  • 八高線の鉄橋で狐に化かされた
  • 東上線で音のしない電車と衝突しそうになった
  • 西行が和歌修行に行こうとして引き返した橋
  • 疣が治ると言われている大岩
  • 鎌倉時代から使っていた石橋が
    工事の業者に持って行かれそうになった
  • 寄居は地盤が固く井戸が出ないので、
    昔は「寄居には嫁に行くな」と言われていた
  • 群馬に近いので方言は強い口調

などなど、後半は語り手だけでなく
地元の参加者からも話が飛び出る。

こういう記憶に接すると、今までサイクリングで
通過するだけだった風景が活き活きと輝き出す。

最近流行の聖地巡礼は話を聞いてから現地に行くものだが、
その逆の順序でも楽しめる。

図書館開催のイベントとしても、
子供向けに偏りがちな図書館が多い中、
大人の知的欲求にも応える企画という点で魅力的だった。


----寄居町の図書館サービス----


田舎は広いと言うが、寄居町のスケール感が分からない。
図書館を基準にして東京23区と比べてみた。

寄居町は総面積64.17km2を図書館一館で受け持っている。
受け持つ範囲を円形と見做すと半径は4.52km。
(但し地図上では一番遠い所まで10kmくらい。)

対して、23区で最も図書館密度が高い文京区は
11.31km2に11館有り、一館で1.03km2、半径0.57kmを担う。

つまりこういうこと↓

寄居は「たまよど号」の巡回点6ヶ所を加えても
9.17km2、半径1.71km2で、密度の差は大きい。

ところが、一館当たりの人口(昼間)は
寄居町32041人、文京区30566人で意外と近い数。


では人口当たりの蔵書数はどうか。

寄居町は昼間人口32041人(人口の89%)に対し、
158512点(公式ページの資料から推計。視聴覚資料含む。)
だから一人につき4.95点。

対して23区で昼間人口当たりの蔵書数が最も多い杉並区は
昼間人口439379人(人口の79%)に対し1932000点で、
一人につき4.39点。寄居に負けてる……。


----寄居の街並み----


遙々寄居まで来たので図書館近くの風景も見て回った。

寄居駅

駅前の即席「歩道」

部落解放都市宣言

駅前の商店街の入口に歓迎の看板が有ったが、
「寄居町商店街で」と書かない距離感覚。
熊谷辺りまでひょいっと買い物に行っちゃうんだろうか。

中心の通りからは山が見え、此処が関東平野の端である事を実感する。

旅館

おもちゃ屋

寄居まで来ておでん缶を目にするとは思わなかった。
自販機の左に在るのは印鑑。文房具も取り扱っている。


----寄居と鉄道----


寄居駅は三本の鉄道が集まる結節点でもある。

東武東上線(8000系)
踏切警報機の×の塗り分け方がJRや他の私鉄と異なる。

東上線は鉢形駅―男衾駅間が民話に登場した。


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夜間の単線区間で来る筈の無い対向列車が音も立てずに走ってくる。
最初は疑心暗鬼だったが、いよいよ危ないと思い急ブレーキで停車。
目を上げると対向列車は消えていた、という運転士の体験。

東上線が寄居まで開通したのは1925年だが、
この話はほんの30年くらい前の話だそうだ。
という事は写真の8000系が既に走っていた頃になる。

秩父鉄道(7000系)
元東急8500系のこの電車も東上線の話の頃には既に走っていた。

JR八高線(キハ112形200番台)
ローカル色の濃い二両編成のディーゼル車。
1970年までは蒸気機関車が走っていた路線。

八高線は寄居駅―折原駅間の荒川に架かる鉄橋が民話に登場した。


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腕の良い大工が川向こうに仕事で行き、棟上式で土産に寿司を山ほど貰う。
すっかり日も暮れた帰り、自転車を押して近道の鉄橋を渡っていたら
向うから女が一人で歩いてくる。擦れ違い様に顔を見るとのっぺらぼう。
怖くなって対岸目指して急ぐが、自転車がぐらぐら揺れ出して真っ直ぐ進まない。
やっとの思いで渡り切り、一服しようとマッチを擦ると、走り去る狐の影。
自転車に括り付けてあった寿司は全部無くなっていた、という体験談。

話の時代は恐らくSLが走っていた頃(~1970)だろう。
民話を聞きに来ていた地元の人が当時を覚えていて、
線路保守に軌道自転車(人力)が使われており、
線路に耳を押し当てて聞こえる音で
SLか保守車両かを聞き分けて遊んでいたそうだ。


----鉢形城----


寄居駅のすぐ南には荒川が流れており、
橋を渡った先には鉢形城跡公園が有る。
荒川と深沢川が合流する地形を天然の要塞として利用した城だった。


公園内の起伏に富む地形が面白く、擬似3D写真を撮ってみたが、
撮影の時間差で枝葉の位置が変わってしまうのが弱点。

春には江戸彼岸桜と片栗が楽しめるそうなので
もう一度訪れたい。