2017年10月20日金曜日

既存の道路用地でできる交差点改善イメージ集


現実の道路を題材に、その既存の道路用地内でどれだけ自転車の安全性・快適性が高められるかをデモンストレーションする改善イメージ図。最近の作品をまとめました。(今年の CycleHack Tokyo で私が発表したものです。)



半蔵門交差点


内堀通り・半蔵門交差点の現況(右が北)
画像出典:macOS Sierra Maps app

新宿通り(写真上)から内堀通り(写真右)への左折レーンが交通需要に対して供給過剰です。また、内堀通り(写真左)から新宿通り(写真上)への左折バイパスは曲線半径が大きすぎで、スピードを緩めず通過できてしまうので、横断歩行者の優先を無視するようドライバーに促してしまうバッドデザインです。

自動車の車線数を削減して自転車道と緩衝帯に置き換えた例

上で指摘した問題を解消し、さらに自転車の安全で直感的な通行空間を設けました。また、細街路との無信号交差点は、通過する自動車に対して速度抑制作用を持つ段差が事故リスクを下げるとの Schepers et al. (2011) の研究結果に基づき、切り開き構造から切り下げ構造に変更しています。

Schepers, J. P. et al. (2011) ‘Road factors and bicycle-motor vehicle crashes at unsignalized priority intersections’, Accident; Analysis and Prevention, 43(3), pp. 853–861. doi: 10.1016/j.aap.2010.11.005.




中落合二丁目交差点


山手通り・中落合二丁目交差点
画像出典:Google Maps @35.7190392,139.6892318

交差点の隅切り部が異様に広いのは、整備前に有った自動車用の左折バイパスを撤去して歩道に転換したからです。しかし自転車インフラはこの潤沢な空間資源を全く活かせていません。

地上から見た自転車横断帯の現況(2015年4月に筆者撮影)

改善イメージ

交差点手前で打ち切られていた自転車通行指定部分を自転車横断帯に直結させ、同時に双方向通行に十分な幅に拡幅しました。縁石を排し、車道面に擦り付ける想定なので、新たに自転車用の停止線も加えてあります。

自転車横断帯は、半蔵門交差点と同じく Schepers et al. (2011) の研究結果に基づき、左折車ドライバーからの視認性を考慮して車道からのオフセット量を増やしてあります。


地上から見た交差点隅切り部の現況(2015年4月に筆者撮影)

写真奥をよく見ると分かりますが、灰色の自転車通行空間が斜めに折り曲げられています。単路ではもっと民地寄りだったものを、交差点手前でわざわざ車道側に寄せ、歩行者の滞留空間に向けて自転車を誘導するという馬鹿馬鹿しい設計です。

このような構造の交差点隅切り部で歩行者と自転車が無秩序に入り乱れてしまうのは、道路利用者のマナーの問題ではないでしょう。利用者がそう振る舞うよう設計してしまった道路管理者側の問題です。


改善イメージ

この場所を題材にした改善イメージは以前にも描きましたが、当時はGIMPを使いこなせておらず、出来栄えに不満を感じたので、一から描き直しました。

自転車通行空間の現況の屈曲は全く意味が無いので、単路での位置を基準に直線的に引き直し、そのぶん植栽を拡大しています。(歩行者滞留空間の奥で一部、植栽を拡大していない部分があるのは、共同溝の点検蓋を避けるためです。)

屈曲を解消したことで、自転車通行空間の延長線上から横断歩行者の滞留空間が外れたので、自転車通行空間は交差点手前で打ち切らずにそのまま延長しました。このように通行空間と滞留空間を明確に区別することで、横断待ちの歩行者・自転車が、交差点を通過する自転車の動線上に立ち塞がらないよう意識すると期待できます。

路面の白い逆三角形は「ゆずれ (yield)」を意味する欧米で一般的に使われている表示です。


唐木田三丁目交差点


南多摩尾根幹線道路・唐木田三丁目交差点(仮称)の現況
出典:Google Maps @35.6119869,139.3991811

掘割構造での整備計画を破棄し、広大な中央分離帯を温存したまま片側2車線化を進めている同路線、道路用地を無駄なく活かせば理想的な自転車通行空間も整備できますが、建設事務所は片側2車線化を速やかに完成させることを最優先課題にしています。

(全線で片側1車線化した方が車線減少のボトルネックも解消できるし、自動車での移動需要も自然と抑制されて一石二鳥なのではと個人的には思いますが。)

そこで、この非効率な空間配分の道路でも整備できる自転車通行空間を模索してみました。


既存の歩道空間内に整備できる自転車通行空間(一方通行の場合)

自転車通行空間(双方向通行の場合)

自転車通行空間はいずれも2.5m幅との設定で作図してあります。双方向通行で運用する場合は、これが快適性の観点から最低限確保すべき幅員です(すれ違いの際に接触の恐怖感をギリギリ感じない程度)。

自転車通行空間は交差点の手前で車道から引き離すようにカーブさせています。これは、歩行者と自転車の滞留空間を確保するためと、左折車が自転車を視認しやすくするためで、自転車横断帯(的なもの)は車道から5mオフセットしてあります。

このデザインは実際に南多摩東部建設事務所に提案し、採用するよう働きかけていますが、交差点の手前で自転車通行空間を打ち切らずに連続させるデザインは「前例がない」との理由で、工事担当者から難色を示されています。ただし、担当者のこの認識は事実誤認で、実際には東京都品川区南大井の南大井四・五丁目交差点や、愛媛県今治市南宝来町の日吉小学校前交差点など、日本国内にも少数ながら整備事例が存在します。