2013年8月12日月曜日

一度作ってしまった自歩道は直せない

各地で自転車歩行者道(自歩道)が増殖していますが、
これは将来の選択肢を狭める危険な傾向です。

永代通りの自歩道


自転車歩行者道は、利用実態の上では「単なる広い歩道」であり、
歩行者と自転車を分離する効果が薄い事が多いです。

山手通りの自歩道

これでは自転車はスピードを出せませんし、一部の自歩道では
徐行運転を強制するためにわざとデコボコの舗装材を用いています。
縁石の段差も有りますから、短距離の移動でも疲れてしまいます。

世界では自転車にとって便利で快適なインフラを整備する事で
中距離(例えば片道15kmくらいまで)の移動手段を車から自転車に転換し、
環境負荷や医療費を抑えようという動きが広まりつつありますが、
自歩道という整備形態はこの流れに反するものです。

従って、自歩道の整備は避けるべきですし、
既存のものは再整備して歩道と自転車道
(または歩道と自転車レーン)に分離すべきです。

ところが、一度作ってしまった自歩道は
容易には造り替えられないので、
そのまま固定化される恐れが非常に大きいです。

岡山の失敗事例がその理由を物語っています。



1. 切り下げできない

歩行者は縁石や嵩上げによって歩道を歩道と認識しているようです。
歩道と同一平面の自転車道にしばしば歩行者が迷い込んで来るのも
それが原因でしょう。この行動は植栽や柵などで
物理的に区切られている自歩道でも観察できます。

山手通りの自歩道

従って、歩行者と自転車を確実に分離するには、
自転車道を歩道から一段下げ、そこが歩道ではない事を
明確に示す必要が有ります。

ところが、近年整備された自転車歩行者道は、
その地下に電線や通信回線などを収めた共同溝が設けられている事が有ります。

地上設備と点検蓋

C.C.BOXと呼ばれる方式の共同溝

この為、自歩道の一部を自転車道に造り換えようにも、
地中設備の存在が制約になって、そのまま掘り下げる事ができません。
共同溝の移設をする場合は工期とコストが大幅に増えてしまいます。

結果、自転車道は元々車道だった部分に整備するのが現実的
という事になり、自歩道の無駄に広いスペースを活かす事ができません。



2. 歩道とのバランスを取れない

このように広大な歩道が残されたまま
車道の端に狭い自転車道が整備されると、
大半の自転車は歩道の上を通ってしまい、
自転車道はあまり利用されません。

岡山の自転車道もどき(Google Street View より)

これは岡山でも亀戸でも全く同じです。

日本では自転車の歩道通行が文化として
完全に定着してしまっているので、
自転車道の利用率を100%にするには
並大抵の努力では足りません。

自転車道が自転車にとって圧倒的に快適で安全であり、
敢えて他の部分を走る意味が無くなるくらいでないと、
文化を書き換えていく事は不可能でしょう。

自歩道は、その文化シフトを大幅に遅らせる原因になります。



3. 緩衝帯を設置できない

自転車道は純粋に自転車が通行する空間だけ
有れば良いというものではありません。

自転車道の横を通る車の風圧や圧迫感、
路上駐車の開くドアから自転車を保護しなくてはなりませんし、

バス停でバスを降りた先がいきなり自転車道の上というのでは、
バスの乗客の安全が確保できません。

また、自転車道と車道が隙間を空けずに隣接していると
歩行者が横断しにくくなりますし、
横断時の安全確認でも認知エラーを起こしやすくなります。
(複数の安全確認を一ヶ所で集中的に行なう必要が有るので。)

これら全ての問題に対して、
自転車道と車道の間に数メートルの緩衝帯を設ける
という一つのシンプルな解決策が有り、
オランダでは広く用いられています。

オランダ・アームスフォートの道路(Google Street Viewより)

オランダ・アームスフォートの道路(Google Street Viewより)

全ての交通参加者の安全を守り、快適な通行環境を実現する為には、
この緩衝帯は是非とも必要ですが、問題はスペースです。

仮に、安全・快適な自転車道の最低限の幅員を3m、
緩衝帯の幅員を2mとすると、合計で5m必要になります。
しかし、自転車道のために車道を1.7車線分も潰せるでしょうか。

現実的にはかなり難しいでしょう。



まとめ: 自歩道を作るな

日本は土地が狭いから自転車道は作れないと言われますが、
幹線道路にはかなり広い土地が確保されており、
現状でも十分なゆとりを持っている場合が有ります。

本来であれば、沿道の土地の買収などしなくても、
元から有る空間のやりくりで自転車道を捻出できたはずですが、
自転車道に転用できない自歩道が有ると、無駄にスペースを食い潰され、
空間の再配分が著しく困難になってしまいます。

何事もそうですが、既に出来上がっている物を作り替えるのは、
新しくゼロから生み出すより遥かに制約が多いものです。

自転車の歩道通行という長年の悪習の延長線上で
いま自歩道を作ってしまえば、
10年先、20年先の未来まで縛る事になり、
将来の世代も自転車の歩道走行を
当然視し続ける事になるでしょう。


結論。もうこれ以上、自歩道を作ってはいけない。