2016年6月28日火曜日

自転車の事故、ハザード、盗難、インフラの情報を一枚の地図に

Chris and Melissa Bruntlett. (2016-06-25). "BikeMaps.org uses “citizen science” to improve the urban cycling experience". DailyHive Vancouver

記事要約
  • 市民一人ひとりの体験(事故、ニアミス、危険箇所、盗難)を一枚の地図に集めて自転車環境の改善に活かそうという取り組み
  • 発案者は、カナダ・ビクトリア大学で地理学を教えるTrisalyn Nelson博士
  • 当初は地元だけでと軽く考えていたが、 Kay Teschke教授に触発され他都市にも拡大
  • ネット上での広報に留まらずバンクーバーの街中の駐輪場でサドルカバーやタオルを配布し、地図への投稿を呼び掛け
  • 市民の声を都市計画に反映させるプラットフォームとして投稿者たちから評価
  • 集まったデータを実際にビクトリア市が自転車インフラ整備のルート選定に活用

面白そうな取り組みだったので早速そのBikeMapsを使ってみました。



気付いた点:
  • 自分の関心のあるエリアを線を引いて囲むと、その範囲内の投稿の通知を受け取れる。
  • 地図にStravaのヒートマップが統合されているので路線毎の自転車の多さも分かる(Stravaのデータはレクリエーション目的のライドが殆どではないかと言われるが、Strava labの推測では通勤のデータが4割との事)。
  • ユーザーが投稿できるのは事故、ニアミス、ハザード(危険箇所)、盗難の情報。
  • 投稿フォームの「ハザード」には26分類が用意されている(当初は分類が少なく「その他」の投稿が多過ぎた)。
  • 投稿数は今の所バンクーバーとビクトリアが多いが、既に世界各都市にも投稿が見られる(日本では横浜駅近くの細街路のY字路が左折時衝突の危険箇所として報告されている)。
  • 一方、自転車インフラの情報はユーザーが投稿できず、管理者が入力している模様。
  • 自転車インフラ情報は今の所、カナダのビクトリア、カルガリー、オタワと、オーストラリアのブリスベンの計4都市のみだが、断片的になりがちなユーザー投稿と違って網羅的(各都市の行政がデータ提供?)。
  • スポンサーはカナダ自動車協会やカナダ公衆衛生庁など8団体

自治体が自転車ネットワーク計画で整備路線の選定をコンサルタント会社に依頼すると一千万円程度の費用が掛かるそうなので、市民から広く報告を募って危険情報を集約するというのは、(地図サービスの管理や広報の費用が安く済むなら)理に適った方法ですね。特に、警察に報告されない軽微な事故や事故以前のニアミスの実態を掴めるというのが画期的です。

実際、BikeMaps.orgは今年4月、ユーザー投稿と公式の事故統計を組み合わせてドア開き事故の多発路線をデータから明らかにし、自転車利用者と自治体双方に向けて提供しました(車の突然開いたドアに衝突する事故は、バンクーバーの自転車事故では最も多い形態だと上のリンク先記事に書かれています)。

この他、BikeMapsという試みの詳しい解説が論文として発表されています:
Nelson, TA, Denouden, T, Jestico, B, Laberee, K, and Winters, M. (2015). BikeMaps.org: a global tool for collision and near miss mapping. Frontiers in Public Health.doi:10.3389/fpubh.00053 



危険情報を地図に集約して役立てようとするサイトはBikeMaps以外にも有ります。私が見付けたものでは、

Ongelukken op de kaart
自転車以外も含むあらゆる交通事故の発生地点・様態が分かるオランダの地図。但し事故データはRijkswaterstaat発表のもので、投稿型サイトではない。

Routeplanner
自転車に特化した経路検索サービス。駐輪場や貸し自転車のポート、工事箇所、観光名所などのスポットや、車道から構造的に分離された自転車道や信号機の有無など非常に充実した情報が集まっている。オランダ各地の自転車協会員の手で日々更新されている。

自転車大好きマップ
ユーザー投稿型の地図。駐輪場や自転車店、トイレ、要注意交差点、走りやすいルート、自転車インフラなどの情報が集まっている。ただ、地域によっては僅か数人の非常に精力的な投稿者が広範囲を調査して地図に貢献しているようで、

交通事故発生マップ
警視庁が発表している交通事故マップ。単位面積当たりの件数と発生地点は分かるが、個々の事故の詳細については掲載されておらず、具体的なインフラ改善の参考にはならない。

自転車関連事故マップ(小学校区別)
尼崎市が公開している事故発生地点の地図(PDF形式)。特に事故が多い地点に限って、事故の様態と当事者の種別が書かれている。データ提供は尼崎市内の警察署。

などが有ります(ルートの検索や共有を主軸とするサイトはこの記事に詳しい)。ただ、日本国内では類似の地図サービスが幾つも立ち上がって、情報が分散してしまっている印象は受けます。