2014年12月2日火曜日

設計速度と規制速度のズレ

clicccar.com に良い記事が載っていました。
歩行者にも速度違反を警告!「生活道路の新型オービス」期間限定で設置!!
(リンクは3ページ目)
このオービスは、ドライバーにとってマジヤバです!! 

制限速度は40km/hですが、歩道が完全に分離して道幅にも余裕のある直線路。道路環境がよく、交通量が少なくなるとついスピードがノりがちです。しかも、警告板からオービスまで、なんと約50mしかありません。

「あれ? この先で速度取り締まり??」「どこだろう?」なんてキョロつく間もなく、仮に70km/hのスピードなら2.6秒でオービスの横を通過してしまいます。
道路交通システムの欠陥をドライバーの視点から的確に突いています。



鉄道ではATS-PやATCなどの速度照査システムが働いていて、列車が制限速度を超過しそうになると自動でブレーキが掛かる仕組みになっています(全ての速度制限箇所で機能しているわけではありませんが)。いくら運転士が高いプロ意識を持っていようとも、システムとしては人間の判断を信用せず、機械で制御するという発想です。これは、100年以上の歴史を持つ鉄道が、数多くの悲惨な事故の経験から学んできた教訓です。

これに対して道路交通システムには速度照査機能が有りません。制限速度の標識が立っているだけです。規制速度を超過しても自動でブレーキが掛かったりはしません。取り締まりや罰則は有りますが、これらはいつでもどこでも機能しているものではなく、運転速度は実質的にドライバーの自由意志に任されています。

その代わり、道路交通システムではドライバーの心理を利用して目標速度に誘導するという方策が取られています。その手段の一つが、車道の幅員です。例えば幅員を狭めると、ドライバーは心理的な余裕を失うだけでなく、車道脇の構造物が近くなる事で、実際よりも高い速度で走っているように錯覚します。また、道路(車線)の線形も速度誘導に使えます。遥か彼方まで一直線に延びている道路より蛇行した道路の方がスピードを出しにくくなります。

これらは速度制御の手法としては、迂遠で、不確かで、しかも高度な心理学の知見を必要としますが、他に現実的な方法が無いのだから仕方無い。

しかし、目標速度に合わせて道路構造を決定するという考え方は必ずしも全ての道路で活かされているわけではありません(*)。道路ネットワークで下位に位置付けられる市街地の中小路線が、何らかの事情で高速道路並みの高規格な構造になってしまっている場合が有ります。

* というより、「狭いのは困るが広い分には何も問題ない」とか考えてたりするのかな?

clicccar.comが報じている川口市のけやき通りも恐らくそれで、Google Maps(*)の航空写真で見ると、車道の幅員は約9.5mと、制限40km/hの二車線道路としては大幅に過剰です(路上駐車が多い道路であれば話はまた別ですが、この地域は沿道に駐車場が豊富に用意されています)。記事では「70km/h」という、ちょっと議論を呼ぶような数字が例示されていますが、恐らくドライバーの感覚からすると、それくらいの速度が普通に感じられるほど広いのでしょう。

* 川口市戸塚東で、左手にキタムラ、右手にAOKIが見える地点なので、たぶんここ。 

交差点手前で右折レーンを設ける為にこの幅を確保するのは分かりますが、単路区間でも横着してそのままの幅で作ってしまったのが裏目に出ましたね。一応、導流帯のゼブラペイントで車道の中央の余分なスペースを視覚的に塞いではいますが、ペイントしたからといってそこを走れなくなるわけではないので、ドライバーに狭さを感じさせるには力不足なのでしょう。

単路区間で幅員を物理的に絞り込んだり、交差点の前後に緩やかなカーブを付けるなどの工夫が必要だと思います。

お箸を並べたような構造から、

フォークを並べたような構造へ。