2014年12月6日土曜日

前後即因果の誤謬

OBS大分放送ニュースにこんな記事が掲載されています。

2014年12月4日「自転車の右側通行禁止で事故が2割減少

先に起こった出来事が後に起こった出来事の原因だと
誤って判断してしまう〈前後即因果の誤謬〉の例ですね。



去年2013年12月に道路交通法が改正され、自転車で進行方向右側の路側帯を通行する事が禁止されました。記事は、大分県内で自転車事故が減った事をこの道交法改正と関連付けて報じています。

OBS大分放送ニュース(2014年12月4日)
去年12月道交法の改正により、自転車の右側通行が禁止となりました。県警が調査した結果、今年10月末までの県内の自転車事故は前の年に比べて2割減少していることが分かりました。

// 中略

県警の調査によりますと県内の自転車事故の件数は今年10月末現在で437件となり、去年の同じ時期と比べて2割減少したことが分かりました。事故が減少した要因について県警は「制度の変更に伴い自転車利用者の交通安全意識が高まっている」と分析しています。

記事のタイトルは「自転車の右側通行禁止事故が2割減少」、つまり両者が因果関係にあると表現しています。しかし、本当にそうでしょうか?

例えば、自転車の運転行動が変わらなくても自転車全体の交通量が減れば事故件数は減るでしょう。具体的には、県内の工場や事務所の閉鎖で、自転車移動の機会そのものが消失した、などの場合が考えられます。

また、交通量が一定で運転行動が変わったのだとしても、その変化の原因が法改正とは限りません。自転車事故裁判で高額賠償を命じる判決が連発されたり、賠償リスクを訴える保険商品の広告が増えた事が理由かもしれません。

こうした不確実性が有る以上、
  • 事象1 昨年末の法改正
  • 事象2 今年の事故件数の減少
が因果関係であるとは判断できません。記事が提示した情報から確実に言えるのは、まず事象1が起こり、次に事象2が起こったという前後関係だけです。


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付記1
OBS大分放送ニュースの記事を見て、「自転車の右側通行が事故原因だったのだ」と解釈する向きも有るようですが、記事では、自転車の右側通行自体が減ったかどうかは示されていません。仮に減ったのだとしても、事故の発生メカニズムに自転車の右側通行が関与していたかどうかを個別の事故ごとに検証しなければ、「右側通行が事故原因」とは判断できません。


付記2
今回のようなスタイルの記事の場合、「警察が〜と発表した」とか「専門家は〜と指摘する」のように〈発言という事実〉を書いている分には嘘にはなりません(検証能力に乏しい報道機関の常套手段ですね)。しかし、OBS大分放送ニュースの記事はタイトルを「自転車の右側通行禁止で事故が2割減少」としてしまっており、一線を越えています。


付記3
記事中、「自転車利用者の交通安全意識が高まっている」という大分県警の主張が有りますが、その根拠は何でしょうか?
  • 普段の業務で目にする交通実態の主観的な印象?
  • それとも、事故件数の数字から当て推量しただけ?
前者であれば、自分が期待する事象だけを選択的に認識する「確証バイアス(confirmation bias)」が働いた可能性が有りますし、後者だとすれば根拠にすらなっていません。しかし逆に、本格的な調査を実施して、その結果に基づいて発言している可能性も有ります。
  • 標本の偏りや誘導的な設問を注意深く避けたアンケート調査を実施した。
  • 法改正の前後それぞれの一定期間、街頭をビデオカメラで録画し、自転車利用者の運転行動を比較した。