そしてこれも説明しましたが、この通行方法では車と自転車の事故が起こりやすく、既にラウンダバウトのノウハウが積み上がっている海外では利用者に対して注意喚起したり、
Radfahren im Kreisverkehr
(Landeshauptstadt Düsseldorf より)
環道の外縁ではなく車線の中央を走るように注意喚起している。
環道の外縁ではなく車線の中央を走るように注意喚起している。
安全な構造への改修が行なわれています。
改修後の平面図
(フェルスン市の意見公募ページに載っている資料の図面を加工)
(フェルスン市の意見公募ページに載っている資料の図面を加工)
日本国内の専門家も既にこの危険性を認識しています。
吉岡 慶祐・小林 寛・山本 彰・橋本雄太・米山 喜之(2013)「ラウンドアバウトに関する設計基準の海外比較と我が国での幾何構造基礎検討」『土木計画学研究・講演集』Vol.47 CD-ROM
pdf p. 5
自転車の通行位置に関して、ドイツ・アメリカ・イギリスでは流出車両との巻き込み事故の危険性があるため、環道部の外端を走行させないよう、環道内に特別な路面標示等は行わないほうが良いとしている。(自動車と自転車は一列通行を推奨)2016年7月10日追記 但し、日本もそれに倣うべきだとは結論付けていません。
では一体なぜ、危険な構造のラウンダバウトが日本国内では標準化しつつあるのでしょうか。
その理由の一端が窺える資料を見つけました。
主に警察関係者が投稿している雑誌、『月刊交通』の2015年11月号(ラウンダバウト特集号)です。
勝又 憲彦(2015)「イギリスとの比較を通じて見る、我が国における環状交差点の普及の可能性・今後の展望について」『月刊交通』2015年11月号
http://ci.nii.ac.jp/naid/40020656556
http://www.tokyo-horei.co.jp/magazine/kotsu/201511/
勝又氏は千葉県警察本部交通部交通規制課所属で、道路工学の専門家ではないものの、イギリス滞在の機会に現地の種々のラウンダバウトを観察し、交通警察官として感じた点をこの論考に纏めています。その中で自転車の通行位置について、
p.28
(4) 自転車の通行
環状交差点においては、自転車は車道通行を原則とし、通行部分を明示しておくことが望ましいが、特に径の大きい交差点においては、自転車に図3-1/*右隣の枝に環道経由で大回りして行く図*/のように進行をさせることが妥当でない場合も考えられる。また、自転車利用者としては、降車した上で図3-2/*右隣の枝に横断歩道経由でショートカットして行く図*/のような進路を選択することも可能なため、当該環状交差点における自転車の通行実態を踏まえ、自転車をどのように通行させることが最も適当かを検討する必要がある。
との考えを示しています。
やっぱり。自転車の車道通行原則論がここにも蔓延っている。
なぜ自転車に車と同一の空間を通行させた方が良いのか、合理的な根拠を全く示せていません。「原則だからそうすべきだ」という単純な権威論証に陥っています。交通規則を根拠に(その規則が依って立つ土台であるはずの)道路構造を論じるのも転倒した論理です。
このような誤謬にまみれた発想の仕方が警察の組織風土に染み付いたものだとすれば、単路部の車道左側通行原則をラウンダバウトにも適用しようという安直な結論が警察から出て来て、それが設計を歪めたであろう事は容易に想像できますね。こんな適当な考えの組織に命を弄ばれているのだとしたら、道路利用者としては堪ったもんじゃないです。
ただ、勝又(2015)は自転車の大回り通行の妥当性を疑う指摘もしています。これが単純に利用者にとっての利便性や現場の警察官にとっての取り締まり時の説得のしやすさを念頭に置いたものなのか、それともラウンダバウト大回り時の車とのコンフリクト・ポイントの数(リスク暴露量)を考慮したものなのかは分かりませんが、良い視点です。
一方で、降車すれば横断歩道も使えるという考え方はいかにも警察らしい形式論ですね。現実には、自転車で横断歩道を渡る時に(歩道から渡るにせよ、車道から右折して渡るにせよ)わざわざ降車する人はほとんどいません。乗ったまま安全に通行できる構造を採用すべきです。
Google Maps @ 52.9994464,6.550639 を加工
郊外型のラウンダバウト。横断箇所では敢えて車側に優先通行権を与えている。
車道と自転車道を或る程度離し、サイクリストとドライバーの双方に
判断の余裕時間を与えているのもポイント。
郊外型のラウンダバウト。横断箇所では敢えて車側に優先通行権を与えている。
車道と自転車道を或る程度離し、サイクリストとドライバーの双方に
判断の余裕時間を与えているのもポイント。