2017年8月1日火曜日

トロントの自転車レーンと海外の研究結果の解釈

トロントの市公式ページには、インフラの形態別に表示をON/OFFできる自転車マップが掲載されています。地図に掲載されている整備路線のうち幾つかをStreet Viewでざっと見たところ、日本との大きな違いが分かりました。

最終更新 2017年8月10日



市内各所の自転車レーン


路上駐車需要のある中心市街地で従来一般的だった自転車レーンの配置地図URL

歩道側の駐車枠が現われる手前で自転車レーンを縁石から離し、駐車枠の左側に通しています。停車帯と自転車レーンが兼用の場合が多い日本とは全く違いますね。

ただし、自転車レーンは駐車枠に密接しており、ドア衝突のリスクが高そうです。二重駐車への耐性も期待できませんね。



旧来の自転車レーンを転換する形で増えている自転車道(地図URL

トロントは近年、自転車レーンが路上駐車に塞がれるのを防ぐため、自転車レーンと駐車枠を入れ替えたレイアウトの導入を商業地域で進めています。これは日本人の目には「自転車レーン」に見えるかもしれませんが、市公式ページでは “cycle track”(自転車道)と呼ばれています。

この横断面構成の方が安全で利用者も増える事はニューヨークの調査で明らかになっていますね。



中心市街から離れた道路では自転車レーンの配置は日本と同じ(地図URL

郊外の幹線道路。沿道の住宅は基本的にどこも駐車場を持っており、路上駐車需要が無いのでしょう、自転車レーンを塞ぐ車は見当たりません。

日本も含めた世界各国が自転車レーン上の路駐問題で苦しんでいるのは、この構造の自転車レーンを、路駐需要の多い区間という全く異なる環境に持ち込んでいるからです。



交差点手前で左折車線が付加されても自転車レーンは打ち切られない地図URL

これが最大の驚きでした。日本では最初に一定幅で車道を作ってしまい、その中で停車帯や右折レーンをやりくりしている都合上、交差点の前後で自転車レーンが途絶する例が多いですが、トロントのこの路線はきちんと連続しています。


日本とカナダのインフラ実態の違いが意味すること


今回あちこち見て回って分かったのは、同じ「自転車レーン(bike lane)」でも日本とカナダではその実態が全く違うという事です。日本で「自転車レーン」と言えば
  • 大量の路上駐車に塞がれてまともに機能していない
  • 交差点の前後で途切れてしまう
  • 幅が狭すぎる
などを思い浮かべますが、トロントのそれはまるで違いました。

これが何を意味するのかというと……



カナダには、自転車インフラの形態別の事故リスクを調査したトロント(とバンクーバー)の研究が有ります。そこで示されているオッズ比(p.2340)を一部抜粋すると、

Variables Adjusted OR (95% CI)
Major street route, parked cars
    No bike infrastructure
1.00 (Reference)
Off-street route
    Sidewalk or other pedestrian path
0.87 (0.47, 1.58)
Major street route, parked cars
    Bike lane
0.69 (0.32, 1.48)
Off-street route
    Cycle track
0.11* (0.02, 0.54)
*はP値が5%水準で有意

となっています。この結果からは、
事故が起こる確率が最も低いのは自転車道であるものの、自転車レーンも歩道よりはオッズ比が低い。この結果を日本に当て嵌めるなら、自転車レーンはベストではないが歩道よりはベターで、暫定措置としての自転車レーン整備は、現状の改善に繋がる合理的な施策である
と言えそうに思われるかもしれません(議論を簡単にするため、ここでは信頼区間は無視します)。

しかし、Street Viewから分かるように、そもそも「自転車レーン(bike lane)」の名で呼ばれている対象の実態が日本とカナダでは違うので、カナダの研究結果をそのまま日本の施策の根拠として使うことはできない、ということなんですね。



ちなみにこの研究には対象路線の交通量や実勢速度の調査結果も載っていますが(p.2339)、Major street(幹線道路)でも車の速度(中央値)は40km/h前後です(mphではない)。同じ「幹線道路」と言っても、日本の都市部の主要幹線道路で見られるような、
  • 規制速度が50〜60 km/hで、しかも
  • 車の流れが規制速度を10〜20km/h超過しているのが当たり前
の「幹線道路」とは性格が全く違うので、この点にも注意が必要です。