- ランキング日記(2017/12/14)「自転車の左側通行で、死者は半減するのか?検証疋田智説」http://otenbanyago.at.webry.info/201712/article_2.html
- 政府統計の総合窓口(2017年3月17日)「GL08020103 平成28年のおける交通事故の発生状況」p.29 (pdf p.31) http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001176564
違反があった事故のみ
違反なしも加えた全体
2017年12月21日追記{
もし事故当事者が複数の法令違反をしていて、その中の一つだけが事故統計に反映されているとしたら、一種のバイアスが働いている事になります。場合によってはその所為で右側通行の統計上の件数が実態より小さく現われているのかもしれません。
そこでこの点について、警視庁の統計係に電話質問してみました(初めに警察庁に電話したら「その件なら警視庁ですね」ということだったので)。回答を以下にまとめます:
- 警察庁の事故統計に用いる、全国共通の統計原票というものがあり、そこには一つの法令違反しか記載できない。
- 統計原票の取り方は都道府県によって違うと思う。
- 警視庁では、当事者が複数の法令違反をしていた場合、事故要因としての割合が高いものを記載する。従って、どの法令違反を記載するかは個々の事故によって異なる。
- どの違反が最大の事故原因か分からない場合は過失の高いもの(罰条の多いもの)を記載する。
- 当事者が右側通行と同時に行なっていた他の法令違反の方が事故要因として大きいと判断されるケースが多いからかもしれない。
- どの違反行為が主因か判断できない場合も、他の法令違反の方が形式上、大きな過失と見做されているからかもしれない。
ちなみに道路交通法では、左側通行を求める18条1項には違反に対する罰則がありませんが、左右の見通しが悪い交差点での徐行を求める42条1項や、無信号交差点の手前の停止線で止まるよう求める43条への違反には、それぞれ罰則(119条1項2号、同条2項)が用意されています。
- 電子政府の総合窓口(2017年6月2日最終更新)「道路交通法」
これとは別に反則金制度の点数もあり、そちらでは通行区分違反は点数加算の対象行為ですが。
- 警視庁(2017年3月12日更新)「交通違反の点数一覧表」
}
2017年12月28日追記{
関連記事
警察庁の交通事故統計を解釈する上での注意点——電話回答のメモ
}
2017年12月28日追記{
冒頭のランキング日記の記事にはちょっとした意外性がありましたが、自転車事故の大きな原因が自転車の飛び出しであることは、誰もが前々から直感的には分かっていた事だと思います。本来であれば、特に驚くような事実ではありません。
それが意外性を帯びたのは、疋田氏が従来の常識とは異なる意外な主張(「自転車の右側通行が事故多発の最大原因」)をして世間の耳目を集めていたところ、その主張に大きな詭弁が隠れていると暴かれたからでしょう。
斬新な説の思わぬ陰、二度驚きはありましたが、裏の裏で一周回って戻ってきただけ、と言えばそれまでです。
ただ、事故原因についての誤った主張を発したのが、社会的な発信力の強い疋田氏だった事もあって、その誤解は一般市民だけでなく国の機関にまで浸透しており、今でもその影響が残っているようです。それが窺えたのが、最近、警視庁広報課が流したこのツイート:
ツイートのテキスト部分では事故統計に現われている通り、【交通安全情報】自転車をご利用の皆さん、交通ルールを守っていますか?— 警視庁広報課 (@MPD_koho) December 26, 2017
自転車事故の死者・重傷者の8割が交通違反をしていることがわかりました。特に信号無視・一時不停止・安全不確認が重大事故に繋がっています。
自転車も車と同じ、交通ルールを守り安全運転をしましょう。 pic.twitter.com/AamBLHdbtw
信号無視・一時不停止・安全不確認を主な要因と指摘しているものの、添付のポスター画像では、
- 自転車は、車道が原則、歩道は例外
- 車道は左側を通行
- 歩道は歩行者優先で、車道寄りを徐行
- 安全ルールを守る
- 飲酒運転・二人乗り・並進の禁止
- 夜間はライトを点灯
- 交差点での信号遵守と
- 一時停止・安全確認
- 子どもはヘルメットを着用
2番目の車道左側通行も事故リスクを左右する項目ではありますが、それを原因とする事故件数は、最多3類型の安全不確認+動静不注視+交差点安全進行の合計件数の約25分の1に過ぎず、rationalな順位付けではないですね。比率の面でも、合理性の面でも。
(ひょっとしたら、「大勢の人がこの違反をしている!」と広報する事で却ってその違反行為をする人が増えてしまうbad nudge効果を警戒しているのかもしれませんが……。)
そして1番目の「車道が原則」については、そもそもそれが本当に安全に繋がるのかどうかすら、まだ十分な証拠が揃っていない状況です。
これに関してはランキング日記の他の記事や、
- 自転車は本当に車道のほうが安全なのか?
- 自転車-車道走行の危険性を検証する。国土交通省資料のウソ
- 自転車-車道と歩道の事故率 毎日新聞を検証(1) ほとんどが歩道からの事故というのは本当か
- 150件の自転車死亡事故を分析する(1)
- 150件の自転車死亡事故を分析する(6)対歩行者・自転車相互
- Lusk, A. C. et al. (2011) ‘Risk of injury for bicycling on cycle tracks versus in the street’, Injury Prevention, 17(2), pp. 131–135. doi: 10.1136/ip.2010.028696.
- Teschke, K. et al. (2012) ‘Route Infrastructure and the Risk of Injuries to Bicyclists: A Case-Crossover Study’, American Journal of Public Health, 102(12), pp. 2336–2343. doi: 10.2105/AJPH.2012.300762.
- 横関俊也 (2015) ‘自転車の通行区分による危険性比較 (特集 自転車交通の実態をさぐる)’, 月刊交通, 46(5), pp. 23–31.
以上見てきたように、公的機関の施策判断に非科学的な流言が入り込んでしまっているのが日本の現状である以上、自明な事であっても客観的データに基づいて指摘しているランキング日記の記事は、やはり意義深いものだと思います。
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