2017年12月29日金曜日

「週刊 自転車ツーキニスト」760号の感想

TBSプロデューサーの疋田智氏が自身のメールマガジンで韓国大統領の声明を取り上げ、それに関連する話題として、近年増えている韓国からの旅行者が来店予約を無断で破棄し、店に損害を与えることが多いとして、同国全体の国民性を非難しています。

本当にそんな事実があるのだろうかと調べてみたところ、
  • 韓国国内で客による予約の一方的な破棄が社会問題として報じられているのは事実。
  • プーケットでも韓国人旅行者が同様の問題を起こしているとの報道がある。
  • しかし日本やその他の国を訪れた韓国人旅行者については確たる情報が無い。
ことが分かりました。



疋田氏の主張


まずメールマガジンの問題の部分を確認します。

疋田(2017-12-29)「週刊 自転車ツーキニスト」760(http://melma.com/backnumber_16703_6627987/
常に自分の都合でのみ、ものを考え、他者について考えがいたらない。自分に都合の悪い約束は、その場で破ったってかまわない。理由なんて後でいくらでもつけられる…。

そういった姿勢を、大統領みずから「国家としての姿勢であります」と満天下に示してしまったのが、今回の話でね。私など「もしかして(もしかせんでも)大統領以下、国家国民全員がもつ体質なのか」とすら疑ってしまうわけだ。だってね、次のような話が、それをみごとに証明してるんだもの。

このところ増え続ける海外からの観光客なんだけど、それにともなって急増してる問題に「ノーショー問題」というのがある。店の予約をしていたはずなのに、予定時刻になっても、客が現れもしない(No Show)という問題だ。もちろん店側はきちんと用意している。「予約」という契約を守る。でも客は来ない。当然ながら、店にとっては大ダメージだ。

韓国人旅行者に突出して多いんだという。

店側が連絡すると「別の予定ができたから」「店の評判がいまいちだったから」「急に気が変わって他の店にした」なんて悪びれもせずに答えるんだそうな。そんなのはアンタの勝手な都合だろうが、約束は守りなさいよ!……という怒りを押さえつつ、店が「困ります」と抗議すると、決まって逆ギレされるらしい。


さりげなく設定される議論のスコープ


最初に押さえておきたいのは3つ目の段落で
このところ増え続ける海外からの観光客なんだけど、それにともなって急増してる問題に
と書かれている点です。このメールマガジンは日本国内の日本語話者向けに配信されているものですから、特に断りがなければ、読者は
このところ増え続ける海外から(日本へ)の観光客なんだけど、それにともなって(日本国内で)急増してる問題に
と解釈します。

では、そのNo Show問題とは、何年何月、何県何市で起こった事なんでしょうか。疋田氏はメールマガジンで情報の出所を明かしておらず、あやふやな伝聞の形でしか書いていません。


情報源はどこだ


そこで、Googleで “韓国人 予約 No Show” をキーワードに検索し、ヒットした上位10件のウェブページを見たところ、

プーケットで韓国人旅行者による無断キャンセルが多いという朝鮮日報の2015年の記事を転載したもの
  • http://www.recordchina.co.jp/b124481-s0-c30.html
  • http://kima-mato.blog.jp/archives/1046895708.html
  • http://specificasia.blog.jp/archives/1046543490.html
  • http://ch.nicovideo.jp/ooguchib/blomaga/ar928412
  • http://www.wara2ch.com/archives/8427650.html

プーケットの記事と韓国国内での無断キャンセルの記事を転載したもの
  • https://ameblo.jp/sincerelee/entry-12101836501.html
  • http://sincereleeblog.com/2017/10/03/%E4%BA%88%E7%B4%84%E6%96%87%E5%8C%96/

韓国国内での無断キャンセルの記事を転載したもの
  • http://www.recordchina.co.jp/b193991-s0-c30.html

韓国国内の予約問題やその対策などを多面的に解説したもの
  • https://blogs.yahoo.co.jp/illuminann/15212746.html

韓国国内や海外での無断キャンセル問題を伝聞や体験談で書いたもの
  • http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20160425/frn1604250822001-n1.htm

という内訳で、疋田氏のメールマガジンから読者が想像するような、「韓国人旅行者による無断キャンセルで日本国内の店が実害を被っている」根拠と言えるものは見当たりませんでした。

また、これらの記事には、疋田氏が最後の段落で書いた
店側が連絡すると「別の予定ができたから」「店の評判がいまいちだったから」「急に気が変わって他の店にした」なんて悪びれもせずに答えるんだそうな。そんなのはアンタの勝手な都合だろうが、約束は守りなさいよ!……という怒りを押さえつつ、店が「困ります」と抗議すると、決まって逆ギレされるらしい。
に対応する記述は見られないので、この段落は疋田氏の創作である可能性が疑われます。


考察


以上から私は、疋田氏がプーケットについての記事を下敷きにしつつ、それがどの国での話なのかを伏せて、さも日本国内で生じている問題であるかのように切り貼りしていると感じました。

もちろん可能性としては、日本国内でも既に韓国人による無断キャンセルが多発している実態があって、疋田氏がメールマガジンには記載していない独自の情報源に基づいてそれを書いたとも考えられます(が、それを明かさないなら、ただの悪質なデマです)。

しかし、誰でも確認できる情報のみに基づいて検討するなら、確実に分かることは
  • 韓国人による無断キャンセルの横行を韓国メディアが問題視している
ことだけで、
  • プーケット以外の国、地域における韓国人観光客の無断キャンセル実態が不明
  • 韓国人とその他各国の人の無断キャンセル率の定量的比較が為されていない
などの問題や、
  • 韓国メディアが最も強い関心を持つのは自国民(韓国人)の振る舞い
というバイアスも考える必要があろうと思います。

だいたい、“マレーシア人 約束 すっぽかす” とか “インド人 約束 守らない” で検索したって夥しい数のページが出てくるでしょ? マレーシアの場合、新卒の応募者が就職面接に来ない no-show すらあります:

日本国内で散発的に現われる無断キャンセル報告にしても、
  • 旅館やホテルを無断不泊でキャンセル料踏み倒し…「駄々こねた者勝ちみたいなのどうにかならないかな」 (2017) Togetter. Available at: https://togetter.com/li/1149724 (Accessed: 29 December 2017).
特に外国人によるものだとは書かれていないものが殆どです。

要は、どの国の人だろうと予約をすっぽかす人は或る程度いて、情報の取り方のバイアスに自覚的にならなければ正確な実態は分からず、自分が見たいものが見えてしまう、ということです。


2018年1月1日追記{

問題のメールマガジンの次の号で疋田氏が読者から寄せられた意見に答えていました。

疋田(2017-12-30)「週刊 自転車ツーキニスト」761(http://melma.com/backnumber_16703_6627987/
ただし、少しだけ気になったのは、その中にほんの少数(数%)強圧的に「ヘイトはやめろ!」というようなものがあったことだ。
まあ不思議だ。
760号を読み返していただければ分かるけど、私は、普通に、論理的に「国家同士の約束というのはかくも重いものだ」と主張してるだけでね。ヘイトのカケラもないと思ってる。
私自身は意見を送っていないので、誰か他のメルマガ読者が疋田氏の no-show 批判部分について
  • 議論の地域設定すり替え問題
  • 情報の出典不提示問題
などを指摘していたのかどうかは分かりません。

ただ、問題の760号の
大統領以下、国家国民全員がもつ体質なのか
という部分は論理的ではないし、ヘイト要素ゼロとも言えないと思います。




メモ


最後に、予約の履行について定量的な国際比較ができそうな項目をメモしておきます。

公立図書館の予約本の受け取り


基本的に無料なので国民性が出やすいのでは? 公的機関なので利用統計も整備されているのでは? と思いましたが、これについて朝鮮日報の記事、
(ソウル図書館、予約本を受け取りに来ない人が47%)を読むと、予約本の取り置き期間がたった3日間なんですね。日本は図書館によって8日間だったり15日間だったりとまちまちですが、ソウル図書館ほど短い館は聞いたことがないです。これでは比較は難しそう。


航空便の予約と搭乗


図書館よりも厳密で網羅的な統計があると期待できますが、どこを調べたらいいのか分からないのでメモだけ。