2020年4月12日日曜日

ベルリン当局による仮設自転車レーンの設置基準(COVID-19対策)

COVID-19の渦中、海外の幾つかの都市は道路を自動車に対して封鎖ないし車道を縮小して、より多くの人(歩行者、自転車)が互いに距離を取って街中を移動できるようにし、同時にバスや鉄道の混雑(人の密集)も緩和しようとしているようです。

2020年4月15日追記{
後藤恭子 (2020) 新型コロナ感染対策で自転車が活躍 ニューヨークで新たなトレンドに | Cyclist. Available at: https://cyclist.sanspo.com/519883 (Accessed: 15 April 2020).


ベルリンは市内の数カ所で、車道の既存の車線を暫定的に自転車通行空間に転換するパイロットプロジェクトを進行中で、
州の環境交通気候省は早くも、仮設方法を標準化した図(“Regelpläne” 道路工事保安施設設置基準に相当)を発表しました。各地域が同様のプロジェクトを検討できるようにとの趣旨のようです。

Regelpläne zur temporärer Einrichtung und Erweiterung von Radverkehrsanlagen (no date). Senatsverwaltung für Umwelt, Verkehr und Klimaschutz Abteilung VI - Verkehrsmanagement. Available at: https://www.berlin.de/senuvk/verkehr/politik_planung/rad/infrastruktur/download/Regelplaene_Radverkehrsanlagen.pdf.

Senatsverwaltung (p. 6) ※図面を素材に引用者がデザイン

本稿では感染防止策としての是非には触れず、設置基準としての質の高さに焦点を当て、日本の現行ガイドラインと比較します。

なお、前掲PDFから引用した図面は Senatsverwaltung (p. ) の形式で出典表示します。



自転車レーンの幅

Senatsverwaltung (p. 2)

仮設する自転車レーンの幅は既存の車線の幅との説明があります。
Die Breite des Radfahrstreifens ergibt sich durch die Breite des vorhandenen Fahrstreifens.
車線幅が3.0mであればそれがほぼ丸ごと自転車レーンの幅になります。

日本であれば「自転車道の幅は道路構造令で2.0mとされているから2.0mにして、残りを停車帯にしよう」という結論——全てが中途半端で誰にとっても使いにくいレイアウトになってしまうでしょうね(亀戸のように)。

過去の関連記事

亀戸駅前の自転車道は何メートル幅で整備すべきだったのか


歩道側の駐車枠との間隔

Senatsverwaltung (p. 3)

歩道側のパーキングベイ等との間に設ける緩衝帯の幅を0.75mと数値指定しています。これはドア開放事故の防止に欠かせない安全マージンです。

対して日本の国土交通省・警察庁が2012年に策定、2016年に改定した(仮設ではなく正式な)自転車インフラの設計ガイドラインは安全マージンの必要性には言及しているものの数値規定がありません。

国土交通省・警察庁 (2016, p.II-34 (p.72))

関連記事

Wikipedia「ドア開放事故


車道中央側の駐車枠との間隔

Senatsverwaltung (p. 4)

元々通行帯だった車道の只中に駐車枠を「浮かせる」レイアウト、floating parking lane の場合も自転車レーンとの間に安全マージンを設けています。こちらは車のドアを全開にしても収まるくらいの1.00m幅。

対して国土交通省・警察庁のガイドラインは安全マージンを不要としています。その場合、ドア開放事故を防ぐには柵が必須のはずですが、設置は任意としています。

国土交通省・警察庁 (2016, p.II-33 (p.71))

これと同様のレイアウトが都道480号(品川区港南)や都道301号(文京区白山)で既に整備されていますが、どちらも安全マージンなし、柵なしでドア開放事故のリスクを孕んでいます。


屈曲部の線形

Senatsverwaltung (p. 7)

自転車レーンを左右にシフトさせる箇所の線形は滑らかな曲線で描かれており、シフト比は1:10と余裕のある設定です。

対して国土交通省・警察庁のガイドラインはカクカクと直線的に折り曲げた線形を示し、シフト比も1:4や1:3など、かなり急な値を例示しています。

国土交通省・警察庁 (2016, p.II-15 (p.53))


まとめ

今回ベルリンが発表した仮設自転車インフラの設置基準は、仮設と言ってもかなり質の高い内容でした。感染症だけでなく交通事故増加のリスクにも目を配った施策ですね。

逆に、日本の現行ガイドラインはベルリンの仮設レベルにも満たない劣悪さです。設計の参考にすべきではなく、早急に改訂すべきです。そうしないと、ガイドラインに準拠した劣悪なインフラが本整備としてこの先何十年間も固定化されることになります。


追記(2020年5月12日){
ベルリンの仮設自転車レーン事業を支援したネーデルラントのコンサルタント会社、Mobyconからより詳細な計画・設計ガイドが公開されています。

Diepens, J. et al. (2020) Making Safe Space for Cycling in 10 Days: A Guide to Temporary Bike Lanes from Friedrichshain-Kreuzberg, Berlin. Mobycon. Available at: https://mobycon.com/wp-content/uploads/2020/05/FrKr-Berlin_Guide-EN.pdf.(掲載ページ