2012年8月10日金曜日

「スポンサードする」という言い方の背景

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This article discusses a strange usage of the word "sponsored" in Japanese.
Last year, I noticed some people using expressions like
弊社はアスリートをスポンサードしています。
(Our company do sponsored athletes.)


What?! ... do you want to say?! Aren't you a sponsor?
Or are you saying that you receive money from athletes?
Wait, aren't you supposed to be taught the past participle
in compulsory education when you were 14 or 15 years old?

This active-voice "sponsored" has been pointed first in 2004
and now in 2012 its usage exceeds the correct expression by 147 percent.

Why did such a stupid phenomenon happen?
Is it simply because the English ability of Japanese is right rotten?
Or are there convincing reasons that explain its uncontrollable spreading?

In the following sections, I give some likely reasons
and also make some predictions concerning the current phenomenon.

(煽り文だけ書いて力尽きたので後は日本語でだけ書きます。)


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最近、「スポンサードする」という言い方を耳にする事が増えた(*1)。
弊社がスポンサードする選手
などの用例を見ると、「活動資金を提供する」という
能動の意味で使われている様だ。初めて聞いた時は唖然とした。

移入元の英語はsponsoredで受動分詞の形。
中学英語の知識で分かるはずの間違いが何故ここまで広がったのだろうか。
(尤も、こういう予想外の変化が起こるから言語の歴史は面白いのだが。)

*1 自分が気付いたのは今年に入ってからだが、
2004年の時点で既に話題に上っている。

2


まずは基本を押さえておく。

英語のsponsorは「資金提供者」という意味の名詞だが、
このままの形で「資金提供する」という意味の動詞にも使われる。
従って、本来であれば日本語に移入した場合でも
「スポンサーする」の形を使うのが自然な筈だ。

この両者の用例数をGoogle検索で比較してみると、
  • "スポンサーする" 6万5600件 (*2)
  • "スポンサードする" 16万2000件
と大差が付いた(検索結果は2012年8月9日現在)。

これは……、
英語下手の人が多いという事だけで説明できるんだろうか。
寧ろ「スポンサーする」を避けたい心理が有って
「スポンサードする」を選んでいるのでは?

*2 ちなみに、文法的に正しい「スポンサーする」の用例には
シマノがスポンサーするアスリート
が有った。さすが世界に羽ばたく企業は違うね。


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考えられる理由は、うーん、まずは「スポンサード」という語形を
目にする機会が増えた事が有るだろう。

インターネットの普及で英語が大量に流入する様になり、
日本語としてキチンと訳語を用意する手間を惜しんで
カタカナで音写する例が増えた。

IT化著しい今日では「スポンサードリンク(*3)」などの文字が
検索サイトに飛び交っている。
*3 スポンサー・ドリンクではなく、スポンサード・リンク。
まあ、Redbullはあちこちでスポンサーになってるけど。

これを見て、「ああ、スポンサードは提供するって意味か」と勘違い……、
いやいや、日本人の英語能力がそこまで低いとは、あ、でもどうかな。


次に考えられる理由は語の使用場面。

日本語では「スポンサー」が「提供者」という名詞で既に定着しているので、
「スポンサーする」では砕けた語調になってしまう。
例 「社長する」、「サラリーマンする」
「スポンサードする」という言い方が使われる元々の動機は恐らく、
外来語を使って格好付けたいという点に有るだろうから、
語調が砕けるのは避けたい筈。

また、動作性が希薄な名詞(*4)に直接「する」を付けるのは
日本語では嫌われるからかも知れない。
*4 英語ではbookを「予約する」という意味にも使うが、
日本語では「本する」とは言わないし、言っても意味が通じない。
ただ、「スポンサー」は語源に動作の意味を含むので、この仮説は弱い。

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では英語以外の言語は、
英語から移入したsponsorを動詞として使う時、
どのような処理をしているのだろうか。

フランス語では名詞sponsorに対し動詞sponsoriser、
イタリア語では名詞sponsorに対して動詞sponsorizzare、
ドイツ語では名詞sponsor(in)に対して動詞sponsernを用いる。

どの言語も動詞には別の形を用いている。
日本語も含め、語形変化の体系が豊かな言語では
品詞が別なら語形も変えたいのだろう。


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ところでフランス語のsponsoriserを見ると、英語にも共通する
動詞化接辞の-iser(英語では-ize)が使われている。

だったら英語もsponsorをそのまま動詞として使うのではなく、
sponsorizeとでも言えば良いではないかと思ったが、
英語の-izeには「何々にする」という意味が有るので、
これだと「(誰かを)スポンサーに仕立てる」という意味に成るんだろうね。

なら別の動詞化接辞はどうか。

-ate なら「…に成る」という意味の動詞を派生できるので、
例えばsponsorateとか、或いはsponsorから行為者名詞の語尾を外して
spons-にした上で-ateを付け、sponsateというのはどうだろう。

だがこれも駄目だ。

sponsorの語源であるラテン語のsponsor(保証人、名付け親)は
sponsusに由来するのだが、これは動詞
spondēre(約束する、保証する)の完了受動分詞形。

一方、英語で動詞化接辞として使われる-ateも
ラテン語の完了受動分詞形に由来するものなので、
sponsateでは同種の接辞を二重に付ける事になる。

美しくないので却下。

語源のspondēreの完了受動分詞形が-tusで終わる形なら
素直に-ateで動詞化できたのにね。


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そこで気になってくるのが、sponsusと同じく受動完了分詞が-susで終わる
ラテン語動詞に由来する他の語が英語に入ってからどうなっているかという事。
もしかしたら名詞と動詞を綺麗に区別できている例が有るかも知れない。

"sus"の後方一致で英和辞書を検索してみた。


census (n. 国勢調査)
語源はラテン語の動詞 censēre (戸口調査する)。
英語では census のままで動詞「(国勢)調査をする」にもなるし、
同語源の名詞 censor (検閲官)もそのまま流用されて動詞「検閲する」になる。

excursus (n. 補説、余談)
語源はラテン語の動詞 excurrere (走り出す、伸び出る、(話が)脱線する)。
英語では excursus は名詞のみだが、同語源の名詞 excursion (遠足)は
そのまま流用されて動詞「遠足に行く」になる。

lapse (n. 迂闊な失敗、v. うっかり間違う)
語源は名詞と動詞で別経路だが、結局同じ形に収まった。
名詞の lapse はラテン語の動詞 lābī (滑り落ちる)の完了受動分詞 lapsusから。
動詞の lapse は上記 lapsus から派生した動詞 lapsāre (滑る、躓く)から。

versus (prep. に対して)
語源はラテン語の動詞 vertere (向きを変える)。
英語では versus は前置詞のみだが、ラテン語の vertere から派生した
動詞 versāre (試案を巡らす)を経由して英語化した versed は「熟知している」。


以上を見ると、sponsor以外の語でも何だかんだで名詞と動詞が
同じ形になってしまっている例が多い。やはり、-sus終わりの完了受動分詞は
英語に入ると扱いが厄介なのだろうか。(それとも端から区別する気が無いのか。)
 

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ん? 語源が動詞だったんなら、それをそのまま使えば良いんじゃ…。
「スポンサー(ラテン語ではスポンソル)」の動詞形は「スポンデーレ」。
当社がスポンデーレする選手が優勝しました!
……。

駄目だ。語感が酷い。これでは新手のツンデレかと間違われる。
ちなみに完了時制だと「スポポンディー(1st, sg, pf)」になる。更に怪しい。

だいたいカタカナ語で格好付けたがる人が求めているのは
英語っぽい響きなんだよね。こんな何語か分からない響きでは
絶対に広まらない。


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では、適当な語形が無いという問題に日本語の側で対応できないだろうか。
例えば、
(誰々の)スポンサーをする
と言えば日本語の文法には違反しない。但しこれでは
「スポンサードする」という表現が謂わんとしている事とは若干ずれる気がする。

「当社がスポンサードする選手」に比べ、「当社がスポンサーをしている選手」だと、
会社がどのような役回りを演じているかという事にも焦点が当たってしまわないだろうか。

もしこの感覚が広く持たれているなら、
文法的に正しい「スポンサーをする」が使われず、
間違った「スポンサードする」が普及した要因の一つに数えられるだろう。

(誰々の)スポンサーになる
ならどうかと思ったが、これだと「当社がスポンサーになっている選手」と言う場合、
共通語ではテンスとアスペクトの解釈が複雑になってしまう。
「なりつつある」のか、「既になった状態が続いている」のかが不明瞭だ。

更に言えば、「(誰々を)スポンサードする」という
直接目的語+他動詞
の構造に比べると表現が迂遠で、選手と企業の一体感が弱く感じる。
こう考えると、「スポンサードする」にも一理有るような気がしてきた。


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さて、「スポンサードする」に代わる語形や表現が無いという事態に至って、
ここでもう一つの疑問が生じる。

sponsoredと同じく受動の意味を含んだ漢語の場合、
直接「する」を付けても文法的に正しいと判断されるのだ(*5)。
被弾する、被災する、被爆する、被曝する
勿論これらは「銃弾を当てる」とか「災いを齎す」という能動の意味ではなく、
被害を受ける事を意味している。

だとしたら、「スポンサードする」も順当に考えれば
「資金提供を受ける」という意味になるのではないか。
山田選手は田中商事からスポンサード(≒受益)している。
だが、筆者の文法意識ではこの言い方は間違いで無意味で不適切だ。

漢語が正しいと判断されるのは、「被」が日本語で「こうむる」と読まれ、
意味上は受身でも形式上は能動態であるから
(「被災する」は「災いを被る」と言い換えられる)で、

英語の「スポンサード」は元から形式上も受動態なので、
移入した日本語でも態を一致させて「スポンサードされる」と言わなければならない。

*5 「被」が付く語の全てが「する」を付けられる訳ではない。

被害と被虐は「する」を付ける用法が無いし、
被疑-者、被験-者、被告-人、被雇用-者、
被差別-部落、被食-者、被用-者、被傭-者は
名詞化接辞を付けた形で固定されているので「する」が付かない。

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などと色々考えてきたが、最後に今後の言語変化の予想をしてみよう。

もし、「スポンサードする」という突飛な表現が生まれた原因が
sponsored by というフレーズが氾濫していた事に有るなら、
同じ様な使われ方をする別の表現も今後、
何かの拍子に誤用され、伝播するかもしれない。

候補として思い付くのは
  • brought to you by
  • choreographed by
  • created by
  • powered by
  • presented by
辺りだが、「クリエイト」と「プレゼント」は既に浸透しているので、
誤用発生の可能性が高いのは「パワード」辺りだろうか。
そうすると「パワードする」で「力を与える」という意味になるだろう。
(それってempower……)
ジーメンスがパワードする京急2100形
うーん、これは出そうだ。

残念ながら2100形からは既にジーメンス社製のインバータ機器が
外されてしまっているので今後誤用が発生する可能性は低いが、
歴史の歯車が巧い具合に食い違っていれば有り得ただろう。

有名アーティストがコレオグラフトしたダンス
こっちも出るかも。
通を気取る為に新奇な用語を求め続ける業界だけに
すんなり普及しそうだ。


てなところで今回の考察終了。