講演内容の要約
渋滞のボトルネック箇所でドライバーに1〜2ユーロ課金しただけでラッシュ時の交通量が20%減り、それだけで渋滞が大きく緩和した。渋滞は、交通量が或る水準を超えると急激に悪化する非線形現象で、逆に交通量が少し減ると急激に改善する。しかも課金の効果は時間が経っても薄れなかった。
渋滞課金の導入時、住民の70%は反対していたが、導入後は賛成が増え、70%が課金制を支持している。聞き取り調査をすると、ドライバーたちは自分が今まで通り車を使っていると思い込んでいた。しかし実際は無意識のうちにラッシュを避ける行動を取っている。
複雑な社会問題を解決するコツは、人々に命令するのではなく、さり気なく仕向ける事。
つまり、反対されたからといって導入しないのは間違いだと。とりあえず試験導入してしまい、その鮮やかな効果を体感させてから、継続するかどうかを改めて問えば良いんですね。
社会からのこういう反応はAppleのiPadを思い起こさせます。発表時は「誰がそんなの欲しがるんだよ」と言われていたのに、いざ世に出ると大人気。ユーザー自身が気付いていなかったニーズの存在を証明しました。
課金額が100〜300円くらいで良いというのも意外です。そのくらいの額なら東京でも反対を押し切って試験導入まで漕ぎ着けられるかも。
そしてこの金額の低さは、東京ではもう一つの意味を持ちそうです。ストックホルムは水路の多い都市なので、中心市街に向かう橋を全て押さえれば漏れなく課金できそうですが、例えば東京の環七を課金ラインにしようとすると、生活道路という無数の抜け穴を、(鼠返し的な)一方通行規制なりボラードなりで塞がないと、課金を嫌って生活道路をすり抜けようとするドライバーが出るかもしれません。しかし、100円程度ならわざわざ課金逃れをする誘因としては弱いので、大多数の良識有るドライバーは今までどおり幹線道路を使ってくれるんじゃないでしょうか?
ドライバーの無意識下の心理にほんの少し働き掛けるだけで社会全体に大きな変化を起こせたストックホルムの例を見ると、その複雑なメカニズムを果たしてモデル化できるんだろうか、それよりもまず試験導入して、理論は後から組み立てていけば良いのではないかと思えます。
ん? もしかして鉄道でも、ICカード化が進んでいる今ならラッシュ時の加算運賃とかできるんじゃないでしょうか? 昔はオフピーク時間帯限定の回数券くらいしかインセンティブ付与手段が有りませんでしたけど、今なら入場/出場時刻に応じて(定期券利用者にも)5円とか10円とか上乗せできますよね?
Wikipedia(2015年11月5日19:30版)"Stockholm congestion tax"(2015年12月24日閲覧)
The amount of tax payable depends on what time of the day a motorist enters or exits the congestion tax area. There is no charge on Saturdays, Sundays, public holidays or the day before public holidays, nor during nights (18:30 – 06:29), nor during the month of July.[9][10] The maximum amount of tax per vehicle per day is 60 SEK (7.23 EUR, 9.47 USD).
課される税額はドライバーが渋滞課税区域に出入りした時間帯によって異なる。土曜日、日曜日、祝日、祝日の前日、夜間、そして7月の間は課金されない/* この部分の出典は2つともリンク切れ */。車両1台当たりの1日の最大課税額は60スウェーデン・クローナ/* 現在のレートで約870円 */。
Time of day Tax In other currencies¹ 00:00 – 06:29 0 SEK 06:30 – 06:59 10 SEK 1.21 EUR, 1.58 USD 07:00 – 07:29 15 SEK 1.81 EUR, 2.37 USD 07:30 – 08:29 20 SEK 2.41 EUR, 3.16 USD 08:30 – 08:59 15 SEK 09:00 – 15:29 10 SEK 15:30 – 15:59 15 SEK 16:00 – 17:29 20 SEK 17:30 – 17:59 15 SEK 18:00 – 18:29 10 SEK 18:30 – 23:59 0 SEK
/* 10 SEKは約143円、20 SEKは約287円 */
/* 中略 */
Payment of the congestion tax cannot be made at the control points — they merely register which vehicles have passed them. A bill is sent to the vehicle owner at the end of each month, with the tax decisions for the preceding month's control point passages. The bill must be paid before the end of the next month. The vehicle owner is responsible for the payment of the tax, even if the bill does not arrive.[13]
渋滞税の支払いはチェック・ゲートで行なわれるわけではない。チェック・ゲートは通過した車両を記録しているだけである。車両の所有者には各月末に、前月のチェック・ゲートの通過回数に基づく税額決定通知と共に請求書が送付される。請求額は次の月の末日までに支払わなければならない。請求書が届かなかった場合でも車両の所有者には税の支払い責任が有る。
transportstyrelsen.se(公開日記載なし)"Congestion taxes in Stockholm and Gothenburg"(2015年12月25日閲覧)
Changes to the congestion tax in Stockholm渋滞課税の
On 1 January 2016, changes will be made to the congestion tax in Stockholm as follows:
- Increase in the congestion tax for central Stockholm
- Introduction of congestion tax on Essingeleden
- Increase in the maximum charge levied per day
Increase in the congestion tax for central Stockholm
The congestion tax will be raised on 1 January 2016. The new charges for entering and leaving the congestion tax zone in Stockholm is SEK 11, 15, 25 and 35, depending on the time of day.
Congestion tax on Essingeleden
A special congestion tax will be introduced for driving on Essingeleden from 1 January 2016. The amount charged is SEK 11, 15, 22 or 30, depending on the time of day.
Higher maximum charge
The maximum congestion tax payable per day will be raised to SEK 105 per day and vehicle.
- ストックホルム中心市街での増額
- 高速道路への新規導入
- 1日当たりの最大課税額の引き上げ
CityLab(2015年12月23日)"Stockholm's 'Reverse' Congestion Charge Would Pay Cyclists With Driving Fees"(2015年12月25日閲覧)
Some money earned through the congestion charge (which covers most of the inner city) could be funneled back into cycling benefits—not as cash in hand, but as credits towards bike repairs or upgrades to studded tires for winter riding.スウェーデン王立工科大学が渋滞課金の新たな活かし方を提案しています。記事は、過去の他地域での自転車利用推進策の失敗例と比較する事で、ストックホルムの新たなアイディアが成功しそうだと予想しています。
渋滞課税(中心市街の大部分をカバーしている)の収入の一部を自転車利用者に還元しても良いのではないか。現金ではなく、自転車の修理や冬用の鋲付きタイヤの購入に対する税額控除として。
/* 中略 */
While the city proper has become increasingly bike-, public transit-, and pedestrian-friendly, the wider suburbs are still lagging behind. This is understandable, given that densities are lower and that longer distances to the city center make cycling there a less casual undertaking. Providing active encouragement to residents outside the current congestion zone to pedal into the city could help tip the balance.
中心市街区域は徐々に自転車と歩行者に優しくなり、公共交通が充実してきているが、郊外には依然としてその流れが届いていない。人口密度の低さや市の中心部までの距離を考えれば、郊外住民の自転車利用がそれほど一般的でないのは当然だ。現行の渋滞課税区域の外の住民にも自転車に乗るよう積極的な支援策を提供する事は、その状況を動かす助けになるだろう。
/* 中略 */
an experiment in France last summer where a control group of 10,000 employees were paid €0.25 a kilometer to cycle to work. This had only limited success, partly because commuters still had access to free parking.
……昨年夏にフランスで行なわれた実験では1万人の従業員が自転車通勤1km当たり0.25ユーロを支給されたが効果は限定的だった。理由の一つは、通勤者がそれまでどおり無料駐車場を使えた事だ。