2018年1月28日日曜日

都市計画へのStravaデータ活用は既に始まっている

前回の記事では(主にスポーツ自転車の)通行実態をStravaの公開データを利用して推測するという試みをしましたが、これは何も新しい手法ではなく、海外では2013年頃から交通政策の分野で実際に応用され始めているものです。



旧来の交通量調査を圧倒するビッグデータ


従来の交通量調査は一年にせいぜい1、2度の実施で、サンプリングも市内のわずか数ヶ所で数時間から数十時間、そこを通り掛かった自転車を観測するだけという、針の穴から天を覗くようなものでしたが、Stravaなら、自転車の移動軌跡を丸ごと、速度データと共に掴めるわけで、情報量が段違いです。

Walker, P. (2016) に拠れば、2013年頃それに目を付けた都市計画の担当者がStravaにデータ提供を依頼したことがきっかけでStrava Metroというサービスが始まり、記事の取材時点では世界76都市で活用されているそうです。

もちろんStravaユーザーの動きしか把握できないというバイアスはあるんですが、Walker, P. (2016) に拠れば、
However, when authorities started buying the data and comparing it against their own information, they found Strava tended to capture a solid 5-10% of all bike movements. Moreover, they discovered that, especially in cities, those with the app tended to ride the same routes as everyone else.

// 引用者訳
しかし幾つかの当局がデータを買い始め、それを自らの交通調査の結果と突き合わせると、Stravaのデータが全ての自転車移動の概ね5〜10%を捕捉していることが分かった。さらに、市街地ではStravaユーザーも他の自転車利用者と同じ経路を走る傾向があることを発見した。
とのことで、日本でも同様に計画策定の基礎資料にできるのかもしれません。


Stravaを活用するならこんな事に注意が必要?


ただ、Walker, P. (2016) も触れているようにStravaには、そのsegment機能がユーザーの競争心を煽り、スピードの出し過ぎに繋がっているのではという批判も投げ掛けられています(最近はその競争文化が弱まってきているそうですが)。

ですから例えば、国土交通省の研究部署や市の都市計画担当課などがデータの質を充実させようと、市民にStravaをインストールして日頃から使うように広く呼び掛けると、今まで普通に自転車に乗っていた市民の一部が同様に、安全よりスピードを追求した走り方をするようになる可能性が、もしかしたらあるかもしれません。

また、或る特定の区間の走行実態を詳しく知りたいという理由で市当局が新たにsegment(有り体に言えばタイムトライアル区間)を作ると、そこを通過するサイクリストの一部が速さを競うようになる可能性があります(観測行為自体が観測対象を変化させてしまう)。


私企業の利益追及が社会を良くする可能性


これは自治体視点からは少し離れますが、Walker, P. (2016) の末尾でStravaの共同創立者が描いていた未来予想には結構ワクワクします:自治体がStravaのビッグデータを活かして自転車レーンなどのインフラ整備を進めれば自転車に乗る人が増えてStravaのダウンロード数も伸びる。私企業の営利活動がそのまま都市の環境改善に貢献できれば、とても良い循環だろうと感じました。


出典


Walker, P. (2016) City planners tap into wealth of cycling data from Strava tracking app, the Guardian. Available at: http://www.theguardian.com/lifeandstyle/2016/may/09/city-planners-cycling-data-strava-tracking-app (Accessed: 27 January 2018).