2017年7月22日土曜日

南多摩尾根幹線道路の感想と自転車利用者の4分類

今年2月の尾根幹騒動で注目された場所の一つ、唐木田車両基地の上の区間
(2016年11月に撮影)

ここだけ見ると自転車に配慮されている風に見えますが、ここに到るまでのアプローチは

  • 停車帯の無い
  • 狭い1車線の
  • 登り坂で
  • 規制速度が50km/hの
  • 交通の激しい車道

という過酷な環境で、自転車で走れば後ろから車に煽られること必至なので、通勤通学や買い物でママチャリに乗る人がナビマークの恩恵に預かることはまず無いでしょう。私はロードバイクでしたが、ここで車道通行はさすがに無理と判断して歩道を選びました。帰り道は下り坂なので何とか車道を走れましたが。



この日の目当ては相模原の国道16号だったので尾根幹線道路の写真はほとんど撮っていませんが、途中おもしろい交差点があったので何枚か。


南豊ヶ丘フィールド前交差点(地図URL
2015年6月撮影のStreet Viewでは「南豊ヶ丘小学校前」でした。名前が変わったようです。


自転車横断帯を繋ぐだけの自転車レーンのようなものが歩道上に描かれています。
ここしか通ってはいけないルールなら交差点をグルグル回る羽目に(笑)


小野路配水場前交差点(地図URL
フィールド前交差点に続き、次の交差点にも同じような路面ペイントが。


うーん、やる事が中途半端で何を狙っているのかいまいち良く分からない。

交差点の角だけこうして整流化しても、街を行き交う自転車は必ずこの交差点を後にするわけですから意味が無いような……。


小山長池トンネルを抜けた先で飛行機が低空飛行していました(地図URL

尾根幹の終点間際。方角からすると米軍横田基地に向かう関係者用の旅客機かな。あ、でも機体の塗装はKalitta Airに似ているから貨物機かも。滑走路から15 kmも手前で、もうこんなに低いんですね。


おまけ


尾根幹の終点から先、相模原の市街地です。

尾根幹から国道16号に行く途中の神奈川県道503号(地図URL

道路空間のほとんどを車道に費やしています。地元のママチャリ利用者はこの平均台のように狭い側溝の蓋の上を器用に走っていました。車両乗り入れ部では急なスロープで上下するので結構ハラハラします。


米軍の相模総合補給廠(地図URL

横断歩道を渡った先に空が広がる図、結構好きです。この写真の奥の方、敷地の南西に当たる一角は日本に返還されてスポーツ公園として整備されるようですね。

相模原市「スポーツ・レクリエーションゾーン(相模総合補給廠共同使用区域内)基本計画について


感想


初めての尾根幹を全線通して走ってみて感じましたが、車との錯綜が想像より多くて心が休まらず、なぜこんな危険な道路がロードバイクのトレーニング場所として人気を集めているのか理解できませんでした。

もし社会調査などでここを通行するサイクリストをサンプリングしたら、自転車利用者全体の中では少数派の Strong and Fearless 層や Enthused and Confident 層の人ばかりが採れそうです。


自転車利用者の4分類


Strong and Fearless や Enthused and Confident というのはポートランド市交通局の資料に掲載されている、体力や気質に基づいた自転車利用者の4分類で、

出典:Roger Geller. (N/A). “Four Types of Cyclists” p.3

ポートランドでは車の恐怖をものともしない屈強なサイクリストは全体の1%にも満たず、自転車に関心があっても事故が心配で乗れない人が60%もいます。

日本は4分類のうち最多を占めるであろう Interested but Concerned 層を「歩道通行の容認」という妥協策で取り込むことに成功し、交通戦争以後も自転車文化を存続させることができたと考えられます。(都市部は駅を中心とするコンパクトな生活圏が多く、自転車の主な利用シーンに幹線道路が含まれない、という要因も有ると思います。)

記事の冒頭に挙げた車道端の自転車ナビマークは、この層の選好には凡そ適わないだろうインフラで、ポートランドで言えば全体の1〜7%程度に過ぎないニッチ層のみを対象とした施策と言えます。



都市交通の視点から見る尾根幹騒動


そのような背景知識を持った上で今年2月の尾根幹騒動を改めて見返すと、


その「安全に走れる」という恩恵を受けられていない非スポーツ志向の自転車利用者への配慮は無いのか、自分たちだけ良ければそれで良いのかと、強い違和感を覚えます。

スポーツ自転車愛好家として著名な高千穂先生はその後のツイートで、自分もママチャリ利用者であると主張し、尾根幹の整備計画に対する自分の意見を暗に擁護していますが、

普通の人はママチャリでそんな長距離を走れませんし、

甲州街道のような幹線道路の車道は怖くてとても走れません。


先生の発言はママチャリ利用者を代表するものとは言えず、むしろ Strong and Fearless 層の典型的な声になっています。

もちろん、今の尾根幹は「ロードバイクが多数派で、通勤通学や買い物、子供の送り迎えなどのママチャリは少ない」という事なのかもしれません(私はこれまで1、2回しか通ったことが無いのでよく知らないです)。であれば多数派利用者の便益を重視するのは合理的です。

が、それは今の尾根幹の危険すぎる道路環境や起伏の激しい地形がママチャリ利用者を遠ざけている結果かもしれず、道路が安全になったり電動アシスト自転車が普及すれば 、今後 Interested but Concered 層が増える可能性もあります。

高千穂先生の主張は、そうした潜在的受益者の参入を阻み、自分たち既存ユーザーだけで利益を独占しようとしているように見えてしまうのです。