2017年7月21日金曜日

都道19号・鶴川街道の自転車レーン

自転車レーンの北側の端、下石原一丁目交差点

2016年11月(夕方と夜)と2017年6月(朝)に撮影した鶴川街道の自転車レーンの写真です。



場所は京王線調布駅の少し西で、約350mの区間に整備されています(地図URL

下石原一丁目交差点は自転車横断帯も自転車ナビラインも無く、
私以外の自転車利用者は全員、歩道上で信号待ちをし、横断歩道上を渡っていました。

自転車レーンは交差点を抜けた先で唐突に始まります。
よく見ると「自転車専用ここから」標識の先の縁石は
自転車の出入りに配慮したスロープ形状のものが使われています。

規制速度は50km/h、車線数は2方向×2車線、
中央分離帯で上下線がハードに分離された、紛れもない主要幹線道路です。

大型車混入率も高く、海外基準では構造分離型の自転車通行空間が求められる環境で、ここに視覚分離型のレーンを整備したのは明らかに失策です。実際、ほぼ全ての自転車は歩道を通行しています。道路自体、整備されたのはつい最近で、自転車利用者に対する設計者の配慮の無さが見て取れます。



自転車レーンを南へ走っていくと、カーブの手前でレーンがいきなり途切れました。
ここから先は車道混在通行かと思いきや……


矢印で歩道に誘導しています。
初めて通った時は突然すぎて反応できず、素通りしてしまいました。

2008年頃であれば、モデル事業として整備されていたこの種の自転車レーンは交差点の手前で「普通自転車の交差点進入禁止」表示と共に打ち切られていました。

鶴川街道の自転車レーンも路面の矢印が示す意図は本質的には変わっていませんが、進入禁止の強制力が無くなり、利用者が歩道に上がろうと、そのまま車道を走り続けようと、どちらでも良いという曖昧な態度になっています。自転車の車道通行原理主義の人たちがクレームを付けた結果かもしれません。「歩道に上げるとは何事か」と。

しかし、大きな交差点の手前で自転車を車の通行空間から引き離し、交差点で直進自転車と左折自動車を直角に交差させる構造は、左折巻き込み事故の防止や、自転車と車の優先/劣後関係の明確化に有効で、大まかな方向性では間違っていません。



問題は、車道から分離した先で自転車専用の通行空間を維持せず、歩道に吸収してしまっていた事と、その遷移箇所の線形があまりにも急で無駄な減速を強いていた事です。

言い換えれば、自転車利用者に対して安全・快適な通行空間を、途切らせずに一貫して提供するという仕事を設計者が放棄していたのが問題でした。

しかしこの新しい自転車レーンは本質的な問題を放置したまま、ただ単に「車道を走らせろ」というクレームに受動的に応じて微修正しただけのような構造になっています。


歩道への流出部の長さは縁石3個分(ブロック1個が60cm長なら1.8m)しか無いので、
車道を走ってきた自転車は急な徐行を強いられる。

歩道に上げるなら上げるで、転倒するほどの最徐行を強いる急な屈曲は快適性を大きく低下させるので、もっと滑らかな線形と勾配で擦り付けないと利用者に忌避されますし、上がった先の歩道上で歩行者と衝突しないように、歩道に十分な幅員を割き、柵や色分けで区分する必要がありました。

車道を走らせるなら走らせるで、車に幅寄せされないように自転車レーンを維持すべきでしたし、交差点では左折する大型車の死角に入って巻き込まれたりしないように自転車専用の信号を設けて分離制御する事が必須でした。

いずれを選択するにせよ、まともな自転車通行空間を整備するには道路用地の確保の段階でそれを織り込んでおかなければなりませんが、プロジェクトの工程にそれが含まれていなかったのか、あるいは自転車インフラの設計ノウハウが貧弱すぎたのか、鶴川街道はせっかくの工事の機会を無駄にしてしまっています。


珍しく他の自転車が自転車レーンを走っています。
レーン終端部でどうするのかなと見ていたら、


私と同じようにそのまま車道を走っていきました。


ただ、この先は車道の端の余白が無くなり、幅員全体が通行帯で使い尽くされています。

レーン整備後に初めて通った時、それでもまあ大丈夫だろうと画面奥の鶴川街道交差点から先もずっと車道を走っていたんですが、後から来た黄色いダンプカーに散々煽られた挙句に幅寄せされて死ぬかと思いました。全然大丈夫ではなかった。

不十分な自転車レーンでも全く無いよりは幾分マシという事が分かる経験でした(但し、自転車通行帯指定のない単なる停車帯に比べて良いかどうかは疑わしいところ)。



レーン自体も交通の激しさに不釣り合いな狭さです。

画像から簡易的に測ると、L字ブロックのエプロン部分が50cm、白線が15cmなので、青くペイントされた部分は95cmくらいという事になります。自転車レーン幅員の(例外措置としての)最低基準1.0mを割り込んでおり、大型車混入率の高さを考慮するまでもなく、明らかに幅員が不足しています。

参考までに、この写真では自転車レーンの右端からバスのタイヤまでの距離は約67cmです。乗員含め幅60cmの自転車が青くペイントされた部分の中央を走ると仮定すると、バスとの側方間隔は約85cmで、接触事故を意識し始める近さですね。(もちろん写真のバスの挙動は自転車がいない状態のものなので、実際に追い越すときはもう少し右に離れるでしょうが。)

この路線で飽くまで自転車レーンに拘るのであれば、安心感を確保するためには最低でも1.7mくらいの幅は必要でしょう。現行の標準幅員の1.5m幅でもまだ足りません。


同じ場所から振り返ったところ

歩道は自転車レーンより広く、植栽によって激しい車の流れから守られており、歩行者もそれほど多くないので、路面の平滑度を別にすれば快適に走れます。


時間帯に依るようですが、撮影時は路上駐車が大量発生していました。

自転車レーンが路上駐車で断続的に塞がれていたので、整備区間の前半はほとんどずっと車の通行帯を走らざるを得ず、自転車レーンの無意味さに笑ってしまいました。


これは別の日に撮影した、自転車レーンの南側の起点です。

道路の反対側と同じく共同溝の地上機器が設置されてしまっているので、空間の再配分は今後数十年間は無理ですね。


こちらも始まりは唐突です。


元から車道端を走っていた自転車と歩道から飛び出す自転車の事故を
誘発するかのようなデザインです。

現地でしばらく観察していましたが、ここで歩道から車道に出る自転車は本当に止まらずに飛び出す(利用者視点で表現すれば「慣性を維持して走る」)ので、却って危険です。一貫性に乏しい構造の自転車レーンは整備すべきではないと私は思います。


縁石の拡大。エプロンとの段差が無く、滑り止めの突起が付いています。
しかし乗り入れできる部分の長さが短すぎます。


ロードバイクが青くペイントされた部分の中央を走っています。
街渠のエプロン部分は自転車レーンには含まれないものと認識されているのでしょう。


車が結構飛ばすので怖いです。
通行位置が安定せず、白線のキワまで迫ってくる事もあります。


交通の激しさと自転車レーンの貧弱さがあまりに不釣り合いです。


大型バスの移動経路にもなっているようです。


大型貨物車の通行も多いですね。



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今回撮影した鶴川街道をそのまま北上した先にある武蔵境通りの写真です。両路線は交通の激しさはほとんど同じですが、自転車インフラは全く違うタイプです(質が低い点は同じですが)。