2017年7月27日木曜日

ヘルメットのコピー品と不正競争防止法

Amazonで売られている或る激安ヘルメットがどう見てもGiroのAttack Air Shieldのコピー品なのですが、その事実をGiro社に知らせても、一向に商品が削除される様子が有りません。開発コストを丸ごと盗まれているに等しいのに何故オリジナルの販売者はこれを差し止められないのか、関係する法律を調べてみました。



コピー品を禁じる法律


このようなコピー品の輸入や販売は不正競争防止法で「不正競争」と定義されており(2条1項3号)、差止請求権(3条1項)や損害賠償責任(4条)、罰則(21条2項3号)などが定められています。
  • 総務省行政管理局(公開日記載なし)「不正競争防止法」法令データ提供システム

また、そのような商品の輸入差し止めを申し立てる権利が関税法(69条の4)に定められています。(いずれも経済産業省の資料から辿れました。)


短い保護期間


しかし不正競争防止法による保護は日本国内で最初に販売された日から3年経過すると消滅します(19条1項5号イ)。

Giroのオリジナル品が日本国内で発売されたのは、cyclowiredの新商品紹介記事に拠れば2013年5月(予定)で、早い例で2013年5月20日には自転車店のブログに入荷・完売情報が掲載されています。

一方、問題のコピー品がAmazon.co.jpに掲載されたのは(商品ページの情報を信じる限り)2016年12月06日(最も早く投稿されたレビューもこれより後)で、不正競争防止法による保護の対象外です。

関税法による輸入差し止めも同様に、日本国内での販売開始から3年経過していない事を申し立ての要件としています(規則1条1項3号)。

ちなみに形態模倣品の輸入差し止め実績は2009年以降は0件が続いていて、手続きの敷居の高さが窺えます。


保護期間が過ぎても


3年経過後であっても
民法の不法行為責任(民709条)による損害賠償請求権は、理論的には行使できるはず
との考えも有ります(不正競争防止法の保護期間の趣旨を巡る過去の判例についての疑問も)。


模倣は文化の一部


日本国内については以上のようになっていますが、一方で、問題のコピー品を販売している業者(自転車ヘルメット以外にも様々な分野のコピー製品を扱っている)は所在地が中国の深圳。コピー品製造でも有名な都市で、コピーが当たり前の文化と言われています。

Josh Horwitz. (16 Oct. 2016). “Your brilliant Kickstarter idea could be on sale in China before you’ve even finished funding it
Much like how programmers will freely share code for others to improve upon, Shenzhen manufacturers now see hardware and product design as something that can be borrowed freely and altered.

しかも中国では企業名や商品名を偽らない限り単純なコピーは合法です。

特許庁(公開日記載なし)「産業財産権侵害対策相談 事例 QA集(意匠)
このように、中国の不正競争防止法には、我が国や韓国の不正競争防止法が有するような「外観のデッドコピー行為規制」に関する規定は存在していません。したがって、単純に外観をコピーした、という行為だけでは違法行為として排除されません。

2016年2月に発表された同法の改正草案をジェトロによる訳で読んでも、2章の各条が定める不正競争行為に「形態の模倣」は含まれていません。

というわけで、Giroや日本の輸入代理店(ダイアテック)がコピー品業者に対抗するのはかなり面倒なようです。


誰が買っているのか


ところで、通気性を犠牲にしてエアロ性能を追求したこのヘルメット、普通に考えればかなりのニッチ商品で、コピー業者が目を付けるのが不思議なくらいですが、一体どんな人が買っているのでしょうか。

Amazon.co.jpのレビューを見ると、普通にロードバイクやクロスバイクでのレクリエーション目的で使っていると思しきレビューに混じって、

  • 小さいので自転車の前かごに入って買い物の時に助かる
  • レーシングタイプのヘルメットは嫌だという子供の通学用に
  • とにかく安いものを
  • 自動二輪用に(本来の用途ではないのでノーヘル扱いで捕まるとのコメントあり)

といった投稿が散見されます。

どうやら、その外観から街乗り用の手頃なヘルメットと思われているようで、運動強度の低さ故、通気性の悪さもネガティブ要素とは意識されていないようです。これがエアロヘルメットのコピー品だと分かっているレビュワーは(少なくとも文面を見る限りは)一人もいませんでした。競合品は恐らく、ホームセンターの自転車売り場で売っているような普及品のヘルメットなのでしょう。

また、

  • メガネを掛けているのでバイザーが有って助かる

という趣旨のレビューも多数見られました。自転車ヘルメット業界では空力を重視した最上級モデル以外にはシールドを付けないメーカーが殆どなので、普及価格帯のシールド付きヘルメットは、実は空白地帯です。コピー品業者が目を付けたのはそんな所だったのかもしれません。だとすれば本業のメーカーより潜在需要を良く分かっていますね。

これはアメリカのAmazonで売られている同じコピー品(デザインや販売業者名は違う)についてのレビューを見ても同様に感じられます。