2015年9月26日土曜日

なぜ自転車通行空間を屈曲させてはならないのか

急角度で屈曲した自転車通行空間(@35.7179711,139.6884257

急角度で屈曲した自転車通行空間(@35.700405,139.6831893

自転車通行空間を直線的に折り曲げるとどのような問題が生じるかを説明します。



双方向通行の場合、自転車は矢印のような動きを——

——しません。できるだけ滑らかな曲線を描いて走ろうとするので、
屈曲部に先に進入した自転車が対向自転車の進路を塞ぐ形になります。
タイミングや視距などの条件が悪ければ正面衝突の危険を感じさせ、
利用者に急ブレーキを掛けさせる事になります。
私は実際にこの状況に何度か遭遇しています。

模式化するとこうなります。屈曲部が(物理的な見掛けと違って)
機能的には単線の交互通行になっています。
西武新宿線の本川越〜脇田信号場間と似ていますね。
ただ、自転車の場合はレールに載っている訳ではないので、
どちらか一方が、屈曲部に差し掛かる前に
自転車通行空間の外に回避する場面がしばしば見られます。

屈曲ではなく滑らかな曲線にした場合は、

通常の複線区間と同じように機能します。
もちろん、幅員や曲線半径、視距に一定の余裕は必要ですし、
曲線区間にはセンターラインを連続的に引くなどの追加的な工夫も施すべきです。

今度は追い越しの場合を見ます。
(敢えて屈曲箇所で追い越しに踏み切る人は少ないでしょうが……)

先程と同じく先に進入した自転車はできるだけ滑らかな曲線を描いて
屈曲部を通過しようとするので、右側から追い越そうとした後続自転車は
進路を急に塞がれる形になります。追突や側面衝突のリスクが有ります。

右側からの追い越しを中止して左側に回り込んでも、

屈曲通過後に元の位置に復帰した先行自転車に再び進路を塞がれます。


対向すれ違いと追い越しの場合を見てきましたが、どちらも単に進路を塞がれる事だけが問題なのではありません。屈曲箇所で相手の自転車がどのように振る舞うかが予測しにくくなるという副作用も有ります。人によって速度やハンドル操作は様々だからです。

このような不確実な状況では運転者の情報処理リソースが大きく消費される為、周囲(付近を歩いている歩行者や、脇道に出入りする車、路上の障害物など)への注意に充分なリソースを割けなくなる恐れが有ります。

また先述の通り、現実の利用者はそうした状況を嫌って自転車通行空間の外にはみ出す事も有るので、歩行者やドライバーから見ても、道路形状から予測される自転車の動きと実際の自転車の動きが食い違う事になります。

まとめると、屈曲は
  • 通行空間としての機能低下
  • 利用者の不規則な振る舞い
  • 利用者相互の予測可能性の低下 
  • 快適性評価の低下と事故リスクの増加
を招く欠陥構造です。


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なお、国土交通省の「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」(2012)には、バス停や歩道橋の前後の線形として屈曲が図示されていますが、

国土交通省(2012, p. 52)

国土交通省(2012, p. 55)

国土交通省(2012, p.41)

これが欠陥指針である事はもうお分かり頂けるでしょう。

(屈曲の曲げ角度を極力緩やかにすれば問題は無くなるでしょうが、それができるくらい余裕が有る場所なら曲線で繋ぐ事もできるはずなので、そこで敢えて屈曲を使う利点は、設計・施工の手間を少し減らせる事くらいではないでしょうか。)