2015年1月18日日曜日

全部雪のせいか?——雪国の自転車インフラ未整備について

昨年末に国交省が設立した
安全で快適な自転車利用環境創出の促進に関する検討委員会
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/cyclists/cyclists_20141219.html
の会議資料に、自転車ネットワーク計画を作らなかった全国654の自治体の言い訳が載っています。その一つが雪でした。



資料4-1 自転車施策の取組の状況 ~ 計画策定について ~
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/cyclists/pdf/01jitensha_07.pdf
p. 6 (pdf p. 7)
自転車ネットワーク計画未策定654自治体アンケート:計画策定が困難な理由

// 中略

積雪寒冷地で自転車利用が出来る期間が短いため 54件

雪が降ったら自転車は走れない。だから自転車インフラの整備は割に合わない。
これは本当でしょうか?

Copenhagenize.com
Copenhagen Cycling in the Snow(2010年11月20日)
80% of Copenhageners continue to ride through the winter.
コペンハーゲンでは/*自転車利用者の*/80%が冬の間も自転車に乗り続ける。
冬になっても自転車インフラの利用率があまり低下しないようですね。
なぜか。


Snow Removal on Copenhagen's Bike Lanes from Copenhagenize on Vimeo.

市が自転車道の除雪をこまめにしているから、というのが理由の一つでしょう。

Copenhagenize.com
Snow Clearing(2010年1月2日)
The City is responsible for clearing the bike lanes of snow and debris. House/building owners, like most places, are responsible for the sidewalks.
自転車レーン上の雪やゴミの除去は市が責任を持つ。歩道は他の大半の地域と同じく、/*沿道の*/建物所有者が責任を持つ。

Brushes are used on the bike lane maintenence /*原文ママ*/ vehicles. At the back, salt is spun out onto the bike lane. The brushes are generally adequate even in heavy snowfall since the snowploughs will run up and down busy sections in repetitive cycles if need be. As opposed to waiting for the snow to fall and THEN clearing it.
ブラシは自転車レーン保守車両に装着して使われる。車両の後部では塩を自転車レーンに撒いている。豪雪時も含め、大抵の場合はブラシで充分だ。何故なら、自転車の交通量が多い区間はスノープラウが必要に応じて何度も往復するからだ。これは降雪を待ってから除雪するのとは対照的だ。
除雪した雪は、記事の写真を見る限り、車道と自転車道の間に積み上げてますね。

自転車通行空間の除雪についてはオランダも指針を示しており、自転車にとっての主要路線や自転車通学の経路では、車道よりも先に除雪するのが最善だと書いています。車道を先に除雪してしまうと、自転車利用者が車道を走ってしまうからです。

CROW (2007) Design manual for bicycle traffic
pp. 377-378
Here it is best to clear snow from main cycle routes and school routes in any case, even earlier than the motorised traffic routes. /*中略*/ If the key cycle routes are not cleared and the routes for motorised traffic are, there is a danger that cyclists will use the main carriageway, which, in winter conditions, is especially risky.

もちろん、日本にはデンマークやオランダ以上の豪雪地帯も有るでしょう。ただ、それほどでもない地域で、現状、自転車の為に通行空間の提供や優先的な除雪などの支援策を何もしていないなら、そりゃあ冬に自転車が使われなくなるのは当然です。

今を基準に将来を決めてはいけません。
その「今」自体を変えようとしてるんだから。


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私は昔、年賀状配達のアルバイトを何回かした事が有ります。原付ではなく自転車で配達するあれです。或る年、バイト期間中に大雪(※東京基準)になった事が有りましたが、雪が降る中、いつも通りに自転車で配達できました。寧ろ、雨と違って郵便物が濡れにくいぶん楽だったという記憶が有ります。

住宅街は車が殆ど通らないので、郵便物を満載した重い自転車でも運転はそれほど難しくありませんでした。唯一困ったのが郵便局から配達担当地区に行くまでの幹線道路で、車道の左端を走ろうとすると(*1)、除雪で押しやられた雪にタイヤが取られてバランスを崩しそうになる事でした。それでも、後ろから車が来ない限りは、綺麗に除雪された中央寄りを走れたので、積雪時に自転車に乗れるかどうかは、つまる所、自転車専用の通行空間が有って、そこがきちんと除雪されているか否かで決まるという事を、身を以て実感しました。

1 今はどうか知りませんが、私がアルバイトしていた頃は郵便局員からアルバイト配達員に対して「車道を走るように」などの説明・指示は一切無く、実際に私以外のアルバイト配達員たちは歩道を走っていました。


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除雪と自転車利用者の行動を函数として捉えてみましょう。
y = f(x)

y……利用者の行動
f( )……利用者の判断
x……変数(ここでは通行空間の除雪状況)

C言語的に表現するならこんな感じですかね(データ型の指定は省略)。
f(x) // 利用者 f( ) に除雪状況 x を与える。
{
/*
個々人の判断基準や自転車の種類(タイヤ幅やブレーキ方式など)に応じて、x に対してどう振る舞うのが最適か計算し、決定する処理がここに入る。
*/


return y;
// その決定を実際の行動として表出させる。
}

こうして見ると、雪が降っても利用者が自転車に乗るという y(C言語で言う戻り値)を得るには、変数(引数)を変えるか、f( ) の中身を変えれば良い事が分かります。

変数(自転車専用の通行空間の確保とこまめな除雪)は上で見たので、今度は f( ) の中身を考えてみます。


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デンマークやオランダの人々が冬でも自転車に乗り続けられるのは、もしかしたら自転車にも違いが有るからかもしれません。

My Dutch Bike
What is a Dutch Bike?(2011年2月23日)
A traditional Dutch bike is a “rain-or-shine, night-or-day” bike for getting you wherever you need to go comfortably and conveniently within the town in which you live, all while wearing normal clothing and shoes and carrying whatever it is you need to carry. Additionally, the bike will last for decades amassing minimal maintenance cost. Below are the top ten features to look for in a bike that all ad /*原文ママ*/ up to making this possible.
伝統的なダッチ・バイクは「雨でも晴れでも、昼でも夜でも」の自転車だ。自分が暮らす街の中ならどこに行くにも便利で快適で、普通の服と靴で乗れる。運びたいものは何でも載せられる。さらに、最小限の整備費用だけで何十年も長持ちする。以下は、それが可能な自転車を見分ける10大特徴だ。

1. Upright/Comfortable Riding Position
2. Fully Enclosed Drive Chain/Chaincase
3. Internal Hub Gears
4. Internal Hub Brakes
5. Full Fenders
6. Heavy-Duty Frame
7. Generator-powered Lights
8. Built-in Lock
9. Sturdy Parking Stand
10. Strong/Durable Wheels

// ↑各項目の解説部分は省略
あれ? 日本のママチャリ(激安品を除く)と同じ?
他のサイトを見ても、

The Urban Country - Bicycle Transportation Blog
Anatomy of a Dutch Bicycle(2011年1月19日)
A popular form of Dutch bicycles is the Omafiets (translates to Grandma’s bike). The Omafiets are traditionally black, with a step through frame, upright position, mudguards and a skirt guard.
ダッチバイクの一般的な形はオーマフィーツ(おばあちゃんの自転車という意味)だ。オーマフィーツは伝統的に黒で、跨ぎやすいフレーム形状、上半身が直立する乗車姿勢、泥除け、スカートガードが特徴だ。
同じですね。

ebay
Dutch Bike Buying Guide(2014年3月18日)

Ding Ding Let's Ride
Dutch Bikes

A view from the cycle path
Anatomy of a reliable, everyday bicycle(2009年1月21日)

これらのサイトの説明も大体同じです。
もちろん、細かく見ていけば、
  • スタンドはBBの近くに取り付けるセンタースタンド
  • ホイール直径は28インチが一般的(オランダ人は高身長)
  • 後輪はコースターブレーキも普通
  • 前輪はローラーブレーキ(日本のママチャリの前輪はリムブレーキが一般的)
  • ハンドルバーは(ママチャリのアップハンドル程には)上方向に曲げられていない
  • フレームに携帯ポンプの取り付け台座が有る
などの違いは有りますが、本質的にはママチャリと変わらないですね。
つまり、走行環境さえ整備されれば、日本の(激安ではない)ママチャリでも積雪期に使えるという事です。


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元の話に戻ります。

自転車ネットワーク計画を作らない自治体は、自転車道を作ったり頻繁な除雪作業をする費用が出せないと言うでしょう。それは一理あるんですが、その事によって、市民が日常的に運動する機会を一つ潰してしまってますよね。

自転車政策というのは、市民の病気を未然に防いで医療費の膨張を抑える為の長期的な投資でもありますが、そこまで考慮しても費用負担は割に合わないのかどうか。もう一回、考え直して欲しい所です。



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サイクルロード ~自転車への道

UDの考えごと