2015年1月16日金曜日

国交省の自転車委員会

国交省で自転車インフラの整備を加速させる為の委員会が設置されたとtwitterで教えてもらいました。

安全で快適な自転車利用環境創出の促進に関する検討委員会
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/cyclists/cyclists_20141219.html



会議の資料を見てみます。

安全で快適な自転車利用環境創出の促進に関する検討委員会 設立趣旨書
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/cyclists/pdf/01jitensha_04.pdf
平成24年に国土交通省と警察庁は

// 中略

自転車は車両であり、車道通行が原則であるという観点から、望ましい自転車通行空間の整備の在り方等について提示した

// 中略

しかしながら、未だに自転車関連の死亡事故が多く、また、自転車と歩行者との交通事故件数の減少幅が小さい

// 中略

安全な自転車通行空間を早期に確保するとともに、地域の様々なニーズに応える自転車利用環境の創出の在り方を検討する必要がある。

相変わらず自転車インフラの整備を単なる交通秩序の問題に矮小化してます。
環境や健康や都市空間の在り方といった大きな文脈の中に位置付けるべきです。
厚労省や環境省の顔が見えない。これが縦割りの弊害?

車の利便性を優先して自転車インフラを整備しない自治体が多いようなので、その価値観自体を塗り替える政策メニューの提示が必要だと思います。例えば、
  • 郊外の宅地造成やショッピングモール開発を禁止する
  • 徒歩、自転車、鉄道、車など、それぞれの交通分担率の目標を立てる
  • 中心市街での車の利便性を意図的に下げる
とか。



資料4-1 自転車施策の取組の状況 ~ 計画策定について ~
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/cyclists/pdf/01jitensha_07.pdf
p. 3 (pdf p. 4)
○自転車ネットワーク計画の策定には至っていないものの、前年度より計画策定の検討が進捗したと回答した市区町村の約5割がガイドライン策定を理由として挙げている。

○主な理由として、「自転車通行空間の計画・設計手法が示された」、「具体の整備形態(空間的制約の対処等)が示された」を挙げている。
このブログでは過去に何度も国交省のガイドラインの不備を指摘してきましたが、自治体はその欠陥ガイドラインを疑わず、便利なテンプレ集として依存している事が窺えます。

p. 5 (pdf p. 6)
計画策定が困難な理由②

計画策定の複雑さ

【自治体担当者の声】

・市民アンケートにおいて、よく利用する道路と回答された道路や主要施設を結ぶ経路となる路線等から選定したため、結果的に選定したネットワーク路線数が膨大になってしまった

・路線毎の現状の自転車交通量データがなく、膨大なデータ取得も困難であるため、自転車交通量が多い路線の選定が困難であった。

・現実的な整備には沿線の利用状況把握や地元の調整が必要であり、ネットワーク路線全てで整備形態(詳細な構造や交通運用)に関する検討は困難である。
整備が必要な路線が厖大になってしまうのは、過去数十年間、自転車インフラの整備をサボってきたツケが一気に来てるからです。多少不公平でも少しずつ地道に整備していくしかないですね。

自転車の交通センサスについては、ワシントンの国際学会で一昨日行なわれたポスター発表に、
  • Video-Based Automatic Counting for Short-Term Bicycle Data Collection in a Variety of Environments
  • Automated Cyclist Data Collection Under High-Density Conditions
といった映像自動解析による通行台数計測の研究が有りました。

p. 5 (pdf p. 6)
計画策定が困難な理由②

ガイドラインが求める整備形態の画一性

【自治体担当者の声】

・自転車道に関しては、構造等に関して未確定事項が多いことに加え、地元等の合意形成も困難なことが想定されるが、自動車の速度により自転車道を選択することが一般的とされたため、自動車交通量が多くかつ速度が速い幹線道路における整備形態の選定が困難であった。

・実際の幅員を考慮すると、ガイドラインに示された3つの整備形態だけでネットワーク計画を策定するのは困難であった。
自転車道での整備が困難だから自転車レーンで済ませられるようにガイドラインを書き換えよう、みたいな安易な妥協に流れそうな予感がする。

ですが、利用者の安心感を無視したインフラは、幾ら「安全だ」とマーケティングしても、結局あまり使われません。これはアメリカの失敗経験から既に分かっています。

なお、国交省などが示す自転車レーン整備後の車道通行率の調査結果は、測定基準や測定時間帯が恣意的で、実態以上に良い数字を出しているので、データとして信頼できません。

p. 5 (pdf p. 6)
計画策定が困難な理由②

計画に対する合意形成

【自治体担当者の声】

・整備形態の決定については、路線沿線の住民(特に商店主)の理解が必要である。特に、車道路肩部に自転車道を計画する場合、沿線住民からの強硬な反対が想定される。

・ネットワーク路線には、国道・県道・市道が含まれており、整備済・整備中・整備予定の路線が混在した状況であったことから、各管理者の整備計画をどう整合させ、どういう手順で連続性のあるネットワークを広げていくかに苦心した。

「反対が予想される」って……。まだ着手すらしてない? それはさて置き、住民が反対するのは当然です。将来世代の事より目先の損得を優先するのはヒトの基本的な特性なので。

つまり自治体の仕事は、マイカー文化から自転車文化への転換が必要なんだと、市民を説得する所から始まるわけです。近視眼的な市民と同じレベルで考えてちゃ何も始まらない。自治体はあくまで50年、100年先を見据えた深謀遠慮を。

p. 6 (pdf p. 7)
計画を策定していない市区町村のアンケート結果からは、計画策定が進まない主な理由として、「整備する余地がない(空間的制約)」が最も多い。
これはどの程度本当なのか。一方通行化したり右折レーンを潰せば空間を捻出できるけど、車にとって不便になるからやだ、ってパターンが意外と多そう。空間設計の優先順位が
車の利便性 > 自転車の安全
のままで、半世紀前から思考回路が変わってないパターン。

2015年1月19日追記

私が対談した或る自治体の道路担当者は、自分たちが進めている道路整備がマイカー利用促進策に他ならないという事をまるで自覚していないようでした。この調子だと、仮にそれに気付いたとしても、実際の行動を変えるまでには相当な心理的抵抗が有りそうです。




資料4-2 自転車施策の取組状況 ~安全な自転車通行空間の確保について~
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/cyclists/pdf/01jitensha_08.pdf

インフラ整備が困難な理由
  • 「整備する余地がない(空間的制約)」(p. 4, pdf p. 5)
  • 「一方通行は、目的地に向かうのに遠回りになる等、沿道市民、自転車利用者等の理解が得られにくい。」(p. 6, pdf p. 7)
  • 「交差点での連続性を確保できず、/*中略*/交差点手前で自転車通行空間を打ち切る事例が多数存在。」(p. 7, pdf p. 8)
  • 「車道通行を前提とした整備に理解が得られにくい」(p. 8, pdf p. 9)
p. 8(pdf p. 9)
自転車通行空間有効幅員
普通(1.09m)
自転車レーンの幅員1.09mが「普通」って、これ狭すぎですよ。オランダなら最低基準(1.50 m)を割り込んでるので、自転車レーンを整備すべきではないって判断されるレベルです。(狭すぎる自転車レーンを引くと、ドライバーが「そこまでなら幅寄せしても問題ない」と誤った判断をするリスクが有るからです。)

p. 10, pdf p. 11
【自治体担当者の声】
・整備優先度については、市の実情に応じて決定する部分が大きいと思うが、全国統一的な基準についての記載もほしい。
自分で考える能力が無い!
本当に中央からの指令を機械的に実行するだけなんですね。



資料4-3 自転車施策の取組の状況 〜多様な活用策と連携した自転車利用環境の創出について〜
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/cyclists/pdf/01jitensha_09.pdf
  • 路駐発生と自転車の車道通行率の関係
  • バス自転車共用レーン
  • 駐輪場整備
  • コミュニティーサイクル
  • 自転車マップ
  • しまなみ海道
など、各地の取り組みを纏めています。



参考資料
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/cyclists/pdf/01jitensha_11.pdf

各地の整備事例集です。写真だけだと状況が良く分かりませんが、いろいろ工夫して結構面白い事やってるんですね。