2015年1月31日土曜日

ヴォーンエルフの最高速度が15km/hになった経緯

オランダの官報に、ヴォーンエルフの制限速度が「歩くペース」から「15 km/h」に変更された経緯が書かれています。

セルトーフンボスのヴォーンエルフ区域の入り口(2010年に現地で撮影)



ヴォーンエルフ(1)は「生活の庭」を意味するオランダ語で、主に住宅街や商店街の道路について、車の利便性を押さえ込み、歩行者を最優先する交通規制が掛けられた区域を指します。
1 woonerf。発音の違いに応じてヴォーネルフ、ヴォーネアフとも表記できる。日本では何故か「ボンエルフ」という表記が一般的。単にエルフ、エアフ(erf)とも言う。

車に対する規制はゾーン30より更に厳しく、オランダ南部の都市セルトーフンボス('s-Hertogenbosch)の中心市街では、ゾーン30の内側にエルフという入れ子構造が見られます(2)。
2 過去の関連記事 s'-Hertogenbosch のゾーン30 (1)

さて、このエルフですが、オランダ語版のWikipediaの記事に拠れば、
Tot 2013 werd de maximumsnelheid in het RVV omschreven als stapvoets.
2013年まではRVVの最高速度は「歩くペース」と定義されていた
のですが(出典はどこだ?)、オランダの交通法である
Reglement verkeersregels en verkeerstekens 1990 (RVV 1990)
交通規則と道路標識に関する法律(通称 RVV 1990)
第45条には現在、
Bestuurders mogen binnen een erf niet sneller rijden dan 15 km per uur.
運転者はエルフ区域内で15 km/h を超える速度で車両を走らせてはならない。
と書かれています。


ん? 15 km/h?


競歩レベルの速さですよね。単に「歩くペース」の客観的な基準を示したとは思えません。どういう経緯で15 km/hなんていう値が出てきたんでしょうか。Wikipediaの記事が引用している資料を読んでみます。

Aanwijzing snelheidsoverschrijdingen en snelheidsbegrenzers
Uit: Staatscourant 8 september 2006, nr. 175 / pag. 10
「速度違反と速度制限についての指示」
『オランダ政府官報』(2006年9月8日)第175号、10ページより

p. 6(エルフの制限速度についての注釈部分です。)
12 d.d. 5 oktober 1999, nr. 11-99-V De Hoge Raad zegt hierover: ‘De wet geeft niet aan wat onder stapvoets moet worden verstaan. Volgens de memorie van toelichting dient de snelheid van het motorvoertuig zoveel mogelijk aangepast te worden aan die van een voetganger. Volgens door de politie uitgevoerde proeven is het in het algemeen technisch niet mogelijk met een motorrijtuig te rijden met een snelheid van een voetganger. Daarom wordt het juist geacht als toegestane snelheid op een woonerf te hanteren de snelheid die met een motorvoertuig technisch minimaal mogelijk is. Gelet op de verklaringen van de verbalisant en de getoonde videobeelden wordt aannemelijk geacht dat deze snelheid 15 kilometer per uur bedraagt.’

1999年10月5日、訴訟番号11-99-Vで、オランダ最高裁判所はそれについてこう言っている:「法は〈歩くペース〉が何を意味するのかを明記していない。覚え書きの解説に従うならば、自動車の速度は可能な限り歩行者の速度に合わせなければならない。警察が実施した試験に拠れば、一般的に、歩行者の速度に合わせて自動車を運転するのは技術的に不可能である。従って、自動車で少なくとも技術的に可能な速度をヴォーンエルフで容認される運転速度と考えるのが妥当である。警察官の説明と提示された録画映像を鑑みるに、この15km/hという速度を容認可能なものと考えるのが妥当であるという事になる。」

へー、そういうもんかねえ。オランダで売られている一般的な車だと、クリープ現象でどうしても15 km/hくらいは出てしまうって事なんでしょうか。知りませんが。

まあ何にせよ、法の精神としては
  • ヴォーンエルフでは歩行者のペースに合わせるのが基本。
  • 車の技術的な都合でそれ以上のスピードが出てしまう場合も15km/hが上限。
って事ですね。