日本損害保険協会が発行する『予防時報』に
興味深い論考が掲載されていました。
松岡 猛 2006
「交通事故の真の原因は解明されているか-調査体制の在り方について-」
冒頭の論旨をまとめると、
日本では交通事故が起こると警察が主体となって捜査する場合が多い。
鉄道、航空、海上交通の場合は専門の調査機関(*)が
事故原因を調査する事も有るが、道路交通は
そういった機関が存在せず、もっぱら警察が担当している。
* 航空・鉄道事故調査委員会と海難審判庁が有りましたが、
論考発表の2年後、運輸安全委員会に一本化されました。
警察の捜査では、
当事者の誰が悪かったのかを突き止める事を目的としており、
なぜ事故が起こったのかは調査されていない。
また、捜査資料は非公開なので、第三者が事故原因を調べる事もできない。
欧米では警察とは別に専門の調査機関が有り、
再発防止を目的として事故原因を調査している場合が多いが、
日本では事故を起こした特定の個人を責めるだけで満足し、
事故の背景となった誘因・原因を見過ごす傾向に有る。
これは再発防止の観点から見ると問題が有る。
というものです。
(後半では事故調査のあるべき姿を提言しています。)
この論考自体は交通事故全般に対する提案という趣旨ですが、
道路交通だけが専門の調査機関を持っていないという冒頭の指摘は、
言われてみればなるほど、車の事故が多い背景には
そういう要因も有るのかと考えさせられました。
(道路交通にも交通事故総合分析センター、略称ITARDA
という調査機関が有るのですが、事故統計の分析が中心で、
実際の事故現場での調査は筑波周辺の限られた地域でしか
行なっていないようです。)
なお、この論考の元になった、より詳しい提言書が
2000年に日本学術会議から出ています。
(「交通事故調査のあり方に関する提言─安全工学の視点から─」)