前回の続き。
何らかの動作を表わす「なう」は、
意味・形式共に最も多彩な用例が見られた。
意味については、現在時制だけでなく、
近接過去と近接未来の用例も有る。
形式については、動詞や動作性名詞に「なう」を
付ける形に限らず、他動詞目的語や自動詞主語に
「なう」を付ける形も広く使われている。
動作性名詞+なう
動作性名詞は「する」を付けて動詞化できる名詞を指す。
e.g. 出発、走行、改革、入院、破壊
これに「なう」を付けた形は、見掛け上は「名詞+なう」で、
動詞の意味も持たせる事ができる点が特徴である。
用例はどれも短過ぎて文脈が分かり難いので時制は確定
できないが、意味的・状況的に近接過去と考えられる例や、
「起床なう」
「ブログデザインのカスタマイズ(許容範囲)やっと完了なう」
「英語終了なう。死んだ……とか思ってたら、簡単過ぎたとかいう声が聞こえてきた。なんも言えねぇ……」
近接未来と考えられる例、
「入場なう。携帯の電源切ろう…」
「『ざおうっ子伝承芸能祭』観劇なう。http://twitpic.com/14fg26」
(添付写真は劇場内の客席からの物で、開幕前に見える。)
現在と考えられる例、
「同族嫌悪なう」
が少数ながら有る。
これ以外の用例はいずれの時制にも解釈し得る。
(故に、「何々中なう」は表現の重複ではなく、「中」が時制を
<現在>に限定する役目を果たしていると言える。)
「散髪なう」
「出勤なう」
「到着なう」
「横浜着なう」
「フォローなう」
「自宅帰宅なう」
「スイミングなう」
「綾瀬通過なう」
「お墓掃除なう」
「妹とカラオケなう」
「あんど解体作業なう」
「新快速で移動中なう」
「フリマ突入なう。ドキドキ。」
「朝マックなう!@名古屋駅」 (「朝マックしている」と解釈)
「白馬にむかってドライブなう」
「いまさらですが仕事なうです」
「地元の防災訓練に参加中なう」
「プリキュア見ながら出勤準備なう」
「これから用事を済ませるため、支度なう」
「娘達、おやつを貰って上機嫌の舞=大運動会 なう。」
以上の用例を、「なう」を使わずに表現すると「今、何々した」、
「今、何々してる」、または「今から何々する」である事から、
「動作性名詞+なう」での「なう」は複数の意味を担う語だと分かる。
註釈
但し、「到着なう」、「横浜着なう」は動作について言う場合は
近接過去か近接未来のいずれかにしか解釈できない。
これは「着く」が一瞬で 成立する動作である事に由来する。
(「着いた結果、どこどこに居る」という意味なら現在時制も可。)
名詞+なう
動作性が無い名詞に「なう」を付けた用例では、
名詞が他動詞の直接目的語を表わすものが多い。
動詞は文脈から補完される様である。
名詞の意味は、食べている物や見ている番組、
聴いている音楽や遊んでいるゲームが多く見られる。
「朝飯なう」
「昼飯なう」
「ダブルなう」
「コーヒーなう」
「おうどんなう」
「もんはんなう」
「@モンハンなう」
「サンジャポなう」
「朝から鼻血なう」
「いちご大福なう」
「スノーシューなう」
「ラルクのTrueなう」
「仮面ライダーWなう」
「がっちりマンデーなう」
「BSでショートトラックなう」
「ニューヨークバーガーなう」
「行列のできるパン屋列なう」
「ゴセイジャーなう。 はじまた」
「スキージャンプラージヒル決勝なう」
「洗濯一回目終わりー!二回目なう!」
「睡魔vs意識…攻防なう!!終戦スンコム!」
「#nowplaying backstreetboys.DROWING なう」
「ワンピースなう。『奇跡なめんじゃないよー!』ちょう良かった。」
用例の「なう」は単純に「今、何々してる」とは言い換えられず、
「遊ぶ」、「観る」、「食べる」などの動詞も補う必要が有る。
「動作性名詞+なう」よりも更に多くの機能を「なう」一つが
担っている事が分かる。
註釈
「ダブル」 仮面ライダーWの略か。
「もんはん/モンハン」 ゲーム名。
「サンジャポ」 番組名の略称。
「ラルクのTrue」 L'Arc-en-Ciel の楽曲、True。
「スノーシュー」 雪遊びの道具。
「がっちりマンデー」 番組名。
「ニューヨークバーガー」 マクドナルドのメニュー。
「ゴセイジャー」 番組名。
「終戦スンコム」 スンコムは (it will) soon come の省略か。ジャマイカ英語らしい。
「DROWING」 楽曲名、Drowning の誤綴か。
「ワンピース」 漫画・アニメ作品名。
「ショートトラック」や「ラージヒル」は「何々を観る」ではなく、
「何々が放送されている」という解釈も可能。
(「テレビで何々がやっている」と考えると微妙だが)
いずれ にしても意味的には動作の対象である。
「鼻血なう」は「鼻血が出ている」と言い換えられる。
「パン屋列なう」は恐らく「列ができてる」だろう。
故にこの二例は「自動詞主語+なう」だと考えられる。
動詞+なう
動詞は活用語尾で時制・アスペクトが必ず表示されるので、
「なう」が「ついさっき」なのか「いま」なのか「これから」なのかが
分かりやすいが、用例は少ない。
「ばびるなう」
「今起きたなう」
「ブログ書いたなう」
「新幹線乗ったなう」
「闘いの儀を見てるなう」
「腕が鳴ったなう。パキッと。」
「別アカウントがスパム認定されてるなう」
「チビ犬が、……めちゃくちゃ恐縮しているなう」
「結局聴きなれてる方向に戻っちゃってるなうです」
「何々してるなう/したなう」は単純に「今、何々してる/した」と
言い換えられる例も有るが、「スパム認定されてるなう」などは
「今見たらスパム認定されてた」と解釈するのが自然に思われる。
文脈に因って「なう」の機能が異なる様である。
「動詞+なう」型の表現が少ないのは、「名詞+なう」や
「動作性名詞+なう」の方が簡便だからだと考えられる。
では、少ないながら「動詞+なう」の用例が有るのは何故か。
一つは、目的語などの名詞だけでは解釈しにくいから
(「ブログなう」は「読んでいる?書いている?」)という理由、
一つは、動作性名詞を使うと文体が堅くなる
(「闘いの儀鑑賞なう」)という理由、
今一つは、受動態を表す為という理由が考えられる
(「スパム認定なう」だと「認定する」主体とも取れる)。
註釈
「ばびる」 混成語で、「ばりばり(とても)」+「びびる(驚く)」から成り、「とてもビックリする」を意味する。
「闘いの儀」 漫画・アニメ作品「遊戯王」中のストーリー。
用例には「何々するなう」型が殆ど見られない。
理由として、「動詞+なう」型では「なう」が「今から」の意味で使えず、
且つ動詞の「する」形が未来を意味する為だと考えられるが、定かではない。
(この仮説が正しいなら、「感覚動詞+なう」なら
「するなう」型が多く採集できる筈である。e.g. 富士山見えるなう)